あらすじ
1918年、作家を志す佐々伸子は留学先のNYで年上の研究者・佃に惹かれる。自由で対等な夫婦を夢見て結婚する二人だが、母の病で帰国してから歪みが露呈。佃の嫉妬や不機嫌での支配、あてつけの如き自己犠牲もさることながら伸子もまた実家から自立できないままだった。「妻」ではなく、ただ「人」として在るのは贅沢なのか? 著者の実体験に基づく女の立身の物語。解説 斎藤美奈子
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Posted by ブクログ
著者、宮本百合子さんの実体験に基づく小説です。
作家を一生の仕事とする志をもった女性、伸子(19才)と研究者の男性、佃(35才)はニューヨークで恋におち、結婚します。
これで“めでたし、めでたし”ではなく、夫婦関係しっくりいかずの内容が、伸子の視点から綿綿とつづられます。多様な語彙と心理描写、情景描写のうまさにどっぷり浸りました。近代文学、すごいなあとあらためて感じました。
精神的自立をしての結婚というより、伸子自身が自分の人生をどう生きていくべきか、模索途上で実家と夫との間で揺れ動いていました。
時代設定が第一次大戦終結あたりです。当時の女性としては、結婚後も仕事を持ち続けていく選択、子どもは欲しくないとはっきり意思表示する等、進歩的というか周囲は度肝を抜かれてしまったのではないかと想像します。別居、そして離婚まで伸子からきりだすのですから、なおさらです。
佃は、はじめからどことなく影があり、はっきりしない人物で、伸子を束縛しているように描かれています。伸子の視点からなので、私も女性の立場から彼女に肩入れしたい気にもなるのですが、男性側から見れば、またもっと客観的に2人の人間を見つめれば、見方も変わると思います。
Z世代の方が、伸子、佃、それぞれの立場で“結婚”をテーマにパネルディスカッションでもしたら、どんな意見が出るかなぁ、Z世代の中でも20代後半ぐらいの方のお考えを知りたいなと思いました。恋愛は面倒だけど、結婚はしたいということを聞いたことがあるので。面倒なことにこそ、学びがあるんだけど、なんて思いつつ。
なるほど、的を得ていると思ったフレーズがありました。
「….結婚は結論じゃないもの、出された試験問題、それもなかなかてごわいの....」
「人間というものは一つ得るためには何か他の一つを犠牲にしなければならないものなのね」