あらすじ
言葉の音と意味の綴じ目が緩んだとき現れる狂気、固定した意味から逃れ生の力をそのまま汲み取ろうとする芸術、本能が壊れたあとに象徴的意味を帯びてイメージ化されるエロティシズム。無意識レベルの欲動エネルギーを覆う言葉の網目をかいくぐって現れる人間的活動のありようとは? ソシュール研究で世界的に有名な著者が言葉の深層風景に迫る。(講談社学術文庫)
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Posted by ブクログ
ソシュール研究の権威という認識ですが、狂気と天才の差異を言語的な観点から解き明かすアプローチはスリリングで、自分の中の言語に対する理解の幅が広がった気がする。
言語が一義的な意味との蝶番でがちがちに結ばれているという一般的な感覚から、そんなものは歴史・社会実践の惰性化であり、言葉の多義性、曖昧さという面があるです。和歌の例なんかは、まさにそうだと腑に落ちる。
狂人の3パターンの分類も非常に興味深い。カオスにとどまる(昼行灯のような感じかな?)、深層心理から表層心理への円環循環が滞ってカタルシスに向かえない、表層心理にのみ留まって固執している。現代人というのは、大抵3番目の狂人にカテゴライズされてしまうのではとぞっとする。
「解読モデル」と「解釈・創造モデル」の対比も胸にくる。これは読書論なんかにも通じるのだろうが、一義的な意味に還元するのではなく、対象に触れるたびに新しい解釈・多義的な意味なんてものを自由に受け取っていくものだ。
イデオロギーに凝り固まるのでなく、柔軟なメタ認知を意識付けしていく必要があるのだろうな、とそこはかとなく思われ。