あらすじ
ある夜、少年は優しい吸血鬼を連れ、竜が棲む王国を出た。祖母の遺志を継ぎ、この世界と繋がる無数の別世界を冒険するために。時空を超えて旅する彼らが出会った不思議な道具「時を跳ぶ時計」、「自我をもつ有機ロボット」、そして「不死の妙薬」。人智を超えた異能(ギフト)がもたらすのは夢のような幸福か、それとも忘れられない痛みか。六つの世界の物語が一つに繋がる一大幻想奇譚。
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Posted by ブクログ
短編書評
箱の中の王国
日常の中に潜む非日常。偶然見つけた箱の中に世界が広がっていて、そこに思いを寄せる主人公の彼女は箱の世界に入ることを望み、、といったお話。この箱を使って何か悪巧みをするのではなくて、純粋に、ひっそりと箱庭世界を楽しむというのが幻想的な世界観を加速させている気がして良かった。箱の中の世界もメルヘンチックな設定だけではなく、王族と民衆の格差、発生する連続殺人など、実際にこっち側の世界でもあり得るような側面も備えているのが、箱の中を通した別世界との交流という点で面白さに拍車を掛けているように感じた。現実世界に残る者、箱庭世界に飛び込む者。それぞれの想いが交錯する、哀愁のある終わり方が堪らなく好きだ。
スズとギンタの銀時計
なかなか優劣はつけ難かったが、強いて言えば本作の中で一番好きな短編だ。まだ幼い姉弟が最底辺とも言える環境から抜け出し、社会の荒波の中で二人三脚で生き抜こうとする。そんなある日、未来に飛ぶことができるという銀時計に出会ったことから物語の歯車が狂い始める。
何処となく漂う不穏で不気味な雰囲気が、時代背景と物語の設定にマッチしていてゾクゾクした。
時を飛ばし、未来へ飛ぶ。その代償、というか皺寄せがある所がこの物語の面白さの所以だと思う。最後のシーン、未来へ行くことのできる銀時計を手放し、大いなる冒険が終わる。それぞれの現実と闘う覚悟を決め、ちゃんと生きようと決心する所が何処となくカッコよく見えた。本作の中で一番ホラーチックで、一番忘れられない話だった。
短時間接着剤
詐欺を行う子悪党達が、短時間だが、人をもくっつけておける超強力な接着剤に振り回されるドダバタ劇。登場人物の性格は牛島くんに出てくるような、他責本願、意気地なし、事勿れ主義。それでも、つい応援したくなったのは何故だろうか。
ここで、これかの短編にも大きく影響してくるシグマが現れる。
洞察者
人の未来をおよそ6割の確率で当てることのできる少年の話。この能力を気味悪がられたり、一方的な使い方で時に恨まれたりもしたが、最後、良い方向に持って行けて万々歳。ちょっと中弛みを感じた。
ナチュラロイド
新しく一国の王になった子供が、前王の殺人行為を調べる所から始まる。そこにはナチュラロイド、即ちロボットが関わっていて、、といった話。この辺でまた面白さが増してきた気がする。ファンタジーとミステリーが交わる事ってのはなかなかないので、一風変わった独特な面白さがあった。ただ生き残るために行動する、自我を持ったナチュラロイド。確かに、そこに殺人ばダメだという人間独自の価値観を持ち込むのも酷だなとは思った。色々と空想のしがいがある話だった。
円環の夜叉
舟が沈没し、仮眠状態に陥った主人公。次に目を覚ました時は70年後で、周りの環境は大きく変わっていた。そこで、ある程度の怪我は治る、半永久的な不死者になったことを何者かに告げられる。突然訪れることになった第二の人生で、主人公はそれからどう生きていったのかという話。世界はどのように回っているのかとか、何故主人公は不死身になったのかとか、疑問に思っていた事が余す事なく繋がっていくので非常に爽快。最後のこの物語に今までの短編の話が全て帰結していく。消滅、再生を繰り返す人類、次の世界へ行く者、旧世界と共に滅びゆく者、世界の、その外側からの交信。一気に話が壮大になって風呂敷も限界まで広がられたのに、本作の締めとして綺麗に
終わるのは本当に壮観だった。どうしてここまで幻想的でロマンチックな話が描けるのか。終始唸るばかりだった。
感想
(何があるか、分からないから面白いんじゃない。今度は私が物語の主人公よ。)過去も現在も未来も関係ない、この世界の何処かで人知れず新たな物語が生まれている気がした。最高の終わり方だった。
雨の日に拾った小さな箱から、ここまで世界が広がるなんて一体誰が想像できようか。自分の並外れた想像力を言語化し、さらに作品として非常に面白いものに仕上げる。それでいて、ただ面白いだけでなく、忘れられないようなロマンや哀愁、壮大な感動をサラッと置いていく。この芸当が出来る作者のことを、もはや一人の作家ではなく、高尚な芸術家だと思ってしまう自分がいる。
本作を読んで、自分が一番好きな作家は恒川光太郎さんだと改めて断言できるようになった。
Posted by ブクログ
最近読んだ小説の中でトップになりそうな面白さだった。
前半はわかりやすいファンタジー展開で楽しめた。スズとギンタの銀時計と、短時間接着剤が好きだった。
後半は遠い未来の話になったりスケールが大きくなったりして少しついていけてなかった。
あともう少し箱庭と現世との繋がりについて知りたかったなと思った。
ただファンタジーの世界に浸りたくさん現実逃避ができたのでとても満足した。
Posted by ブクログ
おおきさのことな小さな環がいくつも散らばっている読後感。エマノンや火の鳥のように時代を超えて環は、重なり離れるを繰り返す。不思議な世界観に嵌る気持ちがわかる。