【感想・ネタバレ】21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピングのレビュー

あらすじ

巨大テック企業が国家を超える権威を持ち、生成AIの爆発的な発展による混乱が日々起こり、アメリカでは破滅的な思想が影響力を持ちはじめた2020年代。技術発展は本当に世界を良くしているのか? 私たちはどのように未来を構想すべきなのか? 本書では現代の技術をとりまく思想――加速主義、プルラリティ、SFプロトタイピング――を通覧。これらの思想を統合し、効果的・倫理的に考えるための思考「未来学」の在り方を構想する。SF作家でありコンサルタントでもある著者による、未来を創造するための羅針盤。

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Posted by ブクログ

「加速と協働のあいだで、未来を扱う手つきを取り戻す」

AIやWeb3の話題は、知っているつもりでも、全体像を“体感”として掴める人は多くないと思います。ニュースは刺激的な断片で溢れ、熱狂と冷静の間で、未来だけが宙吊りになる。そんな状況を前提に、この本は「未来は突然来るのではなく、語られ、準備され、やがて“現実”に変わる。だから見誤らないために、いま未来がどう語られているかを見届けよう」と、まず土台を置きます。

本書の前半を貫く軸は、大きく二つです。
一つは「加速」——AIを中心に、社会の前提ごと書き換えていく推進力(加速主義)。e/accの熱狂だけでなく、d/accが示す「どの方向にアクセルを踏むのか」という倫理と設計の問いまで射程に入れています。d/accの“d”が Defense / Decentralization / Democracy / Differential と多義的に整理されているのも、単なる技術論にしないための工夫だと感じました。

もう一つは「協働」——分断が深まる社会で、差異を対立の燃料ではなく協働の源泉に変える設計思想(プルラリティ)。vTaiwanやPolis、QV/QFの話が出てくることで、「理想論」ではなく「手段としての民主主義アップデート」に触れられます。

ここで私は、平野啓一郎さんの「分人」という考え方を思い出しました。人を単一の“個人”として固定しすぎると、違いはすぐに分断に転じる。逆に、関係性に応じて複数の自分を生きる前提に立つと、「違いを扱う仕組み」の重要性が見えてくる。以前、短い時間ですがオードリー・タン本人と話す機会があり、その感覚を言葉にしたことがあります。いま本書のプルラリティを読むと、あのときの感触と“同じ方向を向いた設計”が、後から立ち上がってきたように感じました。

そして後半、この本は未来学へ接続します。未来学は、未来を当てる占いではなく、起こりうる複数の未来を扱い、望ましい未来を構想し、現在の行動に落とす営みだと整理されます。
ここが本書の“価値の後半戦”で、シナリオプランニングやSFプロトタイピングが、知識ではなく「未来を扱う技法」として並びます。私自身、シナリオプランニングの実務・コミュニティ側に縁があった分、このパートは「読む」より「もう一度やってみよう」というスイッチが入りました。

この本を「重要だ」と感じる理由も、そこにあります。AIやWeb3の個別論は多いのに、加速と協働を“思想”として並べ、さらに未来学の道具で扱える形に落とすところまで一気通貫で見せる本は、実はかなり少ない。だから難しくもあるけれど、この観点を持てる人が増えないと、未来はいつも“後追い”になる——私はそう受け取りました。

読み終えたあとに残ったのは、知識の満腹感ではなく、「自分の現場で未来を試作してみよう」という感覚です。STEEPで要因を書き出し、2×2で4つのシナリオを作り、どの未来でも後悔しにくい一手を探す。SFプロトタイプで、未来を“物語”として一度走らせてみる。未来は怖いままでいい。でも、扱えるサイズにはできる。そんな手つきを取り戻す本でした。

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2026年03月10日

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