あらすじ
絵画から溢れる音に耳を澄ます
絵画は「見る」芸術、音楽は「聴く」芸術――しかし両者は、思考の奥で密かに響き合っている。
ラヴェルやムソルグスキーが名画から音を掬い上げたように、画家たちもまた、筆で音楽を奏でようとしてきた。
本書は、絵画がどのように「音」や「旋律」を描いてきたのかを、時代と作品を横断して読み解く試みである。
静止した絵の中に流れる時間、沈黙の中に聴こえる響き――視覚と聴覚のあいだに潜む、
美の秘密に触れたい人に贈る珠玉のアートエッセイ。
オールカラー! 図版45点収録
【目次】
第1章 絵画で音を出す
第2章 鳥女の歌声
第3章 神話の産物
第4章 音楽のエロス
第5章 死の音楽
第6章 楽器の象徴性
第7章 庶民の楽器
第8章 描かれた楽譜
第9章 オペラ歌手
第10章 ダンス音楽
第11章 音楽の拷問
第12章 富裕層のサロンコンサート
第13章 王の音楽事情
第14章 中産階級の家族コンサート
第15章 野外コンサート
第16章 フェルメールと音楽
第17章 子どもと音楽
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Posted by ブクログ
久しぶりの中野京子さんの著作。
絵から音楽がインスパイアされるのは聞くが、音楽から絵が描かれるのは?という問いが印象に残る。うーん、パッと思い浮かぶものがないなあ。
章立てされているが、あまり印象に残らなかった章もあるので、印象に残った絵画で感想を書くことにする。
ドラクロア「怒れるメディア」
子どもの頃にギリシャ神話に夢中になった。その中でも「アルゴー船物語」は本当に好きだった。メディアの残酷さも夢中になった理由の一つだと思う。弟をバラバラにして海の中に放り込む(このことで名がついた海峡があったと思うが、分からなくなってしまった)までした、メディアをイアソンは裏切るなんて…とすっかりメディアに感情移入する子どもだった。そしてメディアはイアソンとの子どもを殺す。ピアスの音、という音を中野先生は出しているが、私がこの絵から感じるのは息遣いの音だ。ハッ、ハッという短い息遣いが聞こえてくるような緊迫感溢れる絵。狂気を孕んだ目ももちろん、印象深い。
しかしドラクロア、半裸が好きなのか。「民衆を導く自由の女神」も半裸。半裸にしておく必要性を感じないのだが。
ミレー「晩鐘」
バルビゾン村は今もこうした風景が見られるという。飛ぶ鳥、遠くに見える建物、淡い色合い、静謐という言葉がこんなに似つかわしい絵もなかなかない。今年は都立美術館に「落ち穂拾い」が来る。楽しみだ。
白鳥は死に瀕して美し声で鳴く、とされ、そこから芸術家が亡くなる直前に残した最高傑作を「白鳥の歌」というそう。知らなかった。
ヴァスネツォフ「シリンとアルコノスト」
スラブの民間伝承にもとづく絵。ロシアにも泣き女がいたという。天才的な泣き女 イリーナ・フェドソーワという人もいたそうで、本が書かれていた。泣き女に著名人、驚き。古代エジプトとか韓国の泣き女は聞いたことあったけど、ロシアにもいたとは。
シリンとアルコノストは喜びの歌、と悲しみの歌、を歌う。シリンはギリシャ神話のサイレン、セイレーンからくるもので、アルコノストはニンフ、アルキュオーネからきたもの。英語の辞書で見たハーピー(ハルピュイアイ)のような姿形。足が雷鳥のようだ。ちょっと可愛らしい。
ウォーターハウス「オデュッセウスとセイレーン」で描かれるセイレーン。女の顔と鳥は相性がいいのだろうか。男性型を見たことが私はない。
モッサ「飽食のセイレーン」この絵を見るとビスクドールが苦手な人がいるのも分かる気がする。中野先生「その声で人間食うかやハルピュイア」と詠むのが可笑しい。其角「あの声で蜥蜴くらうか時鳥」から。
ブリューゲル「死の勝利」
大好きなブリューゲル。悲惨な状況を風刺して描いたはずの絵なのに、おかしみを感じるのは何故だろう。骸骨がカタカタ鳴っているのが聞こえるかのよう。
もう一つ、ブリューゲル「農民の踊り」
手前側の二人が明らかに小さいのが気になるが、主題とは関わりの薄いものが小さく描かれているとのこと。同じ縮尺で描かれるとバグパイプの人を隠してしまう。フランドルにもバグパイプあったんだね。スコットランドだけかと思った。ブリューゲルは他にも農民の踊りを描いているがどれも躍動感があり、好きだ。特に「野外での婚礼の踊り」が好み。
ラ・トゥール「ハーディー・ガーディー弾き」
このハーディー・ガーディーという楽器を私は知らなかったが、音大生に聞いてみたら、やはり知っていた。盲人が弾いているようだ。ラ・トゥールは「いかさま師」が中野先生の著作では有名だが(怖い絵の表紙になったし)、この絵は著名がなく、忘れられていた絵画だったそう(とYouTubeで知った)。盲人が生計を立てて行くのは並大抵のことではなかっただろう。年老いて、困窮しているように見えても、最後まで生きていくのを諦めない姿勢は、なんだか現代人が失ったもののように感じる。
テンペル「ダーフト・レーウと家族」
4人の娘と一人息子と夫婦が描かれる。どうやら跡継ぎ息子に期待がかけられているようだ。しかし、息子は6年後には亡くなり、この家族がその後どうなったかは分からない。しかしこの絵があることで、確かに、この家族がいたという証にはなる。この描かれた一人一人の名前まで分かることから、この絵を描かせたのは正解だったのだ、と中野先生は言うが、私には分からない感覚だ。消えて思い出されないでいたい、と思う人もいるんじゃないだろうか。
クリムト「ピアノを弾くシューベルト」
金が使われていない、クリムト。初めて見たかも。でもこの絵は第二次世界大戦で焼失している。形あるものは失われるのだ、と分かってはいても、哀しく感じるのは仕方の無いことだ。
つらつらと書いてしまった。
また中野先生の別の作品を読みたい。今年も美術館に行こう。
Posted by ブクログ
中野京子氏の作品は、色々じっくり読んでみたいと思っていたが、今回が初になった。
それぞれの名画と音楽を関連づけ、その絵画が描かれた詳細や時代背景、文化的背景まで教えてくれるのは、作品のより一層の理解につながった。
個人的には、セイレーンの話がとても印象に残った。
また、本のラストには、各項目で論じられた曲紹介もある。これらと合わせて改めて本書をみると、作品の更なる造形が理解出来てとても面白い
Posted by ブクログ
秘密と言う程の事ではないけど(苦笑)絵画の中の楽器、特に描かれた時代も相まってとても興味深かった。中野先生の良い所は読み易い事と、キチンとマークすべき点が指摘されている事。どの絵もなるほどと思う背景があって、2回目はネットと音楽を聴きながら楽しめた。多分、読んだ方は其々のお気に入りの一枚が見つかると思う。
Posted by ブクログ
竪琴、ヴァイオリン、リュート、オルガン、トランペット、三味線、ハーディ・ガーディ、バグパイプ、クラリネット、フルート、ピアノ、チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ラッパ、ドラム、チェンバロ、そしてヴォーカル。歌って、踊って、演奏して。猫も、子供も、画家も、作曲家も、神も、天使も、鳥女も。静止している絵に描かれた楽器と楽譜。音は聞こえずとも、メロディが目の奥で流れている。「見る」と「聴く」が思考のどこかでつながっている。17章に渡って読み解く「音楽の秘密」。頁を捲り直し、その音色をもう一度味わってみる、静かに。
Posted by ブクログ
カラバッチョの表紙が優美。
よく知られた名画から、初めて見る名画まで、中野京子さん節で楽しく新しい知識、知見が得られてなんたるお得。
「音楽の秘密」編ということもあり特に後半がよかったな。
「楽しいひととき」は知らなかった絵画。
本当に見る者にまでたのしいひとときをくれるね。
Posted by ブクログ
久しぶりの中野京子さん。
絵画の中での「音楽」。
知らない絵もあって新たな出会いが嬉しい。
改めてヒエロニムス・ボスの「快楽の園」を実際に見てみたいものだと思いました。
Posted by ブクログ
音楽の秘密というほどでもないけどね。楽器や歌手が出てくる絵画をたくさん取り上げていて、それぞれの逸話がなかなか面白い。音楽に限らないが、絵画というのは様々なことが描かれ、さまざまなことを想像させる。
人の暮らしには音楽は欠かせなかったということだろうな。
若いメンデルスゾーンを招いたゲーテが、奏者がくたくたになろうが、次の曲次の曲と、メンデルスゾーンにピアノを弾かせまくったという逸話は知らなかった。音楽ソフトなどない時代では、生演奏は得難いものだったのだ。ましてや名手のものは。
そうそう、カラヴァッジョはその生々しさが好きじゃないのだが、この表紙の「エジプトへの逃避途中の休息」の抒情味は素晴らしいな。