あらすじ
『怪談』『日本の面影』が世界的なベストセラーとなった明治の偉人・小泉八雲。なぜギリシャ生まれの八雲が近代化して間もない日本に赴き、そして一生を過ごすことになったのか。そこにはアニミズムに満ちた日本の魅力だけでなく、妻として支え続けたセツの存在があった。語り部としての才能を発揮したセツが語り、そして八雲が記す。そうした過程のなかで『怪談』などのベストセラーは誕生し、そして世界の人は日本という国を知ることになった――。今を生きる人々の心にも刺さる二人の生涯を圧倒的なフィールドワークで描き出す一冊。
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Posted by ブクログ
セツの人生を知りたくて読書。
今秋の連続ドラマは、小泉八雲の妻セツをモデルにした物語とのことで、どんな女性なのかと興味を持つ。
小泉八雲は、多くの日本人は知っているだろう。逝去当時も米国で報じられたそうなので、当時も世界的な知名度はあったようだ。
しかし、ハーン(八雲)がどんな性格だったのか、どんな経緯で来日したのか、代表作『怪談』はいかにして誕生したかの歴史は知らなかった。
セツは共同制作者で、セツの存在なくして、小泉八雲の作品は誕生しなかった。
その割には、これまでセツにはスポットが当たっていなかったようだ。
今回の連続ドラマでセツが注目されるのであろうか。
八雲は、神経質で不安気質持ちの、いわゆる面倒くさい人だったようだ。
明治元年生まれのセツは、明治維新の激動の中で、崩壊する武家社会に翻弄されて苦労したようだ。尋常ではない忍耐強さの持ち主で、よく“一国者”の八雲と付き合っていけたもんだ。
本書では、セツ自身が物語を語る能力を持っており、八雲の創作を支える重要な存在として描かれている。彼女が伝承物語を語り聞かせ、八雲が編集・創作力を加えることで作品として仕上げるというのが共同作業の核となっている。
2人の異なる性格、趣味嗜好などが対比的に描かれ、それでいて良きパートナー、理解者として信頼し合う関係性がおもしろい。
八雲死後のセツを描く最終第6章は、セツが次々に重荷を手放して身軽になったことで人生を謳歌している姿が目に浮かぶ内容となっている。
抱え込んだものを手放すと、生きるのが楽になり、悟りの境地に至るとも言われる。そんな感じだったのだろうか。
互いの違いを理解し、乗り越えようとしてきた八雲とセツの夫婦像は、多様性が叫ばれる現代を生きる我々にも大いに考えさせられるものがある。
読書時間:約1時間35分