あらすじ
一九二一年三月、講道館の嘉納治五郎の制止を振り切る形で柔道家と米国の強豪プロレスラーが靖国神社境内にて相まみえた。試合後に嘉納が門下生に処分を科して幕引きとなった一連の出来事は、「サンテル事件」と呼ばれる。本書はまず二〇世紀初頭に米国で人気を博した異種格闘技の興行に遡り、なぜ「サンテル事件」に至ったのかを明らかにする。それは同時に、やがてアントニオ猪木の異種格闘技戦が大きな流れをつくり現在のMMA(総合格闘技)に到達する原点ともなった、この歴史的一戦の意義を問い直す試みである。プロとは、興行とは、真剣勝負とは?
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Posted by ブクログ
100年以上前の異種格闘技戦「サンテル事件」を、トランスナショナルな視点から分析を試みた意欲作。
20世紀前半のアメリカ西海岸で、異種格闘技戦に挑む柔道家が、日本人移民が心情を投影する対象であったという事実は興味深く感じた。抑圧に苦しんだ移民が、対等なルールの下白人と勝負出来る異種格闘技戦に並々ならぬ関心を注いだことは、日本移民史の観点からより研究されるべき論点であると感じた。
また、プロフェッショナル/アマチュアイズム、スポーツ/武道などの対立点に注目すれば、サンテル事件が当時の柔道界にとって極めて解決困難なアポリアであったことが容易に理解できた。嘉納治五郎や岡部平太の苦悩は、柔道とは何かという根本の問いであったことを鑑みれば、まさしくサンテル事件は哲学的問いを当時の柔道界に投げかけたものであると言える。