あらすじ
大学生の時に友人からの性暴力にあったスミレ。
限界に達した心を抱え、困難な状況にある人たちをケアする街に辿り着く――。
『消えない月』『神さまを待っている』『若葉荘の暮らし』、
現代女性の寄る辺なさに真摯に向き合い、そっと軽くする――著者最新作!
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「それぞれに過去はあって、これからどう生きていくのか悩んで、
闘っていることはわかるから、気にせずに自分のことだけ考えていればいいの」
大学生の頃、自分のことを好きだという友人から性暴力を受けたスミレ。
忌まわしい記憶を胸中に押し込めながら社会人として過ごしていたが、久しぶりに会った女友達から、
彼が当時のことを美しい思い出として吹聴していたことを聞いて、何もできなくなってしまう。
行政がケアを目的に作り上げた街で暮らすことになり、
いじめや虐待など、暴力を受けてきた人々と関わりながら、自分はどう生きていくのか、模索していくが――。
人の心は、あまりにも繊細で複雑だ。
痛みと再生を真っ向からとらえた物語。
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Posted by ブクログ
アサイラム(asylum)とは、英語で「避難所」や「保護施設」といった意味を持つ言葉である。
様々な加害行為を受けた心に傷を負った被害者が安心して暮らせる街を税金で賄っている。この世界は、彼女たちの理想郷だなと感じた。
様々な問題から、現状だと実現は難しいと思う。
しかし、私も、アサイラムのような避難所のような居場所を見つけたいなと思った。
Posted by ブクログ
2025/05/03予約 24
アサイラムとは避難所、保護、亡命などの意味。
心に傷を負った被害者が安心して暮らせる街を
税金で賄っている。税金の使い道として理解してもらいにくいとは思うが刑務所は莫大な税金で運営されている。そう思えば被害者は自力で立ち直れというのは公平ではない。考え方のひとつとして、なるほどと思った。ただ体の傷を負った人、病を得た人の事も考えたいと思う。働きたいけど働けない、そして福祉からもこぼれ落ちる人は必ずいる。全ての人に同じように、と思うが言うは易しなんだろう。理想郷ではある、そんな国になればいいな。
Posted by ブクログ
大学時代にサークルのメンバーから性加害を受けたスミレ。それに蓋をして頑張って日々の生活を送って居たのに、その加害者がその事を良い思い出の様に話して居た事を知り、心が壊れてしまう。
辿り着いた場所は、行政が心のケアを必要としている人達を支援する街で…
誰もが傷を抱えている街で、苦しみから立ちあがろうともがく様子が痛々しく、そんな簡単に癒えるものではないのが現状でした。
加害者が自分のした事に気づかず、青春の一ページの様に語るのが許せませんでした。スミレの謝ってきたら許さなくてはいけないと言う言葉が重かったです。
スミレもその街をいつか出ていくのかと思いましたが、そこに止まり支援する側に就こうとするのは前向きになれて良かったです。
Posted by ブクログ
シェルターのような役割を担う架空の街が舞台となっている。
いじめ、虐待、DV、ネグレクト、性暴力。さまざまな要因で深く傷を負っていたり、精神的に弱っていたりする住人たちが、行政やのサポートや助けを受けながら、自分の身に起こったことをゆっくり癒やしていく過程が描かれる。
登場人物の一人一人が、それぞれ自分なりの方法で過去と向き合っていく描写がとてもていねいだった。
主人公である真野スミレは7年前、大学の同じサークルだった男子から一方的な好意を寄せられていた。
やがて留学することになった彼を送りだすために開かれたお別れ会の後で、彼は友人の協力でまんまとスミレの家に上がり込み、そして同意なくスミレのからだを踏み躙った。
それを青春の1ページだと表現したり、もう何年の前のことでしょと言ったり、同じようなことはみんなあるよと簡単に宥めたりするスミレの周囲の人間には呆れてしまったが、現実でも案外そんな人が多いのかもしれない。
「多くの人が言っていたし、わたしも自分は性被害に遭ったと思っていました。けれど、それでは、そこには被害者しかいないみたいに聞こえます。加害者はいるのですが、顔が失われていくように感じるんです。被ると遭うで、意味も重なっている。他のことでは、あまり使わない表現です。交通事故に遭ったといえば、被害者であることはわかる。詐欺に遭ったとかも同じです。そこに先に存在していたのは加害行為や性暴力であって、被害ではないのに、性被害に遭ったとばかり言われる。これは、被害者を閉じこめる言葉だという気がします」
スミレのこの解釈は、性暴力がいかに軽く扱われているかを言い当てているのではないかな。「加害者がいたから、全てが起きたのであって、被害者が起こしたわけではない」。
タイトルの“アサイラム”とは、避難所や保護、亡命という意味をもつらしい。
人々が安心しておだやかに暮らせるそんな街が、現実にもあるといいなと思った。選択権は、常に本人だけにある、と確信していられるような場所が。