【感想・ネタバレ】エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法【電子特典付き】のレビュー

あらすじ

目の前で女の子が車に撥ねられた。
その日、初めて僕は禁忌と知りながら一般人に魔法を使った。
彼女は助かったが、「破壊」以外の魔法が下手な僕は家入ナギを猫にしてしまった。
『魔法憑き』の人間は魔法を使えるようにならないと魔物になってしまう。

……このままだと、僕がナギさんを消さなくてはならない。

彼女に魔法を使えるようになってもらうため、師匠の千歌さんにも力を借りて特訓を始める。
だが、ナギさんが呪文を唱えても魔法は発動しない。
迫るタイムリミット、何かを隠す師匠、どこかちぐはぐなナギさん。
そして僕、斬桐シズキの空白の過去。

現代の魔法使いと少女の生き方を描く、退廃的ジュブナイルファンタジー開幕!【電子限定!書き下ろし特典つき】

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法』は、死と魔法という相反する概念を同じ場に据えながら、そこに静かな尊厳と揺るぎない希望を見いだしていく物語だった。魔法が万物を可能にする万能の象徴ではなく、むしろ“奪ってしまう力”として描かれる本作の世界には、どこか冷たい陰影が差している。それでも、登場人物たちはその暗がりの中で確かに前へ進もうとする。そこにこの物語の強さがある。

エンバーミングという行為が「魔法を止める手段」となる設定は、単なる特殊能力としてではなく、死と向き合う技術そのものに光を当てている。誰かの最期に触れ、残された者の痛みと向き合うからこそ、その手は他者の未来を守る力に変わる。とても静かなのに、圧倒的な重みを感じる瞬間が何度もあった。

物語の核には、喪失を抱えた人々がどう再び立ち上がるかというテーマがある。痛みは簡単に消えないし、過去は取り返せない。けれど、失われたものと向き合う過程で、彼らは「まだ守れるものがある」ことに気づいていく。その姿は決して派手ではないが、一歩ずつ積み重ねるような強さがあり、胸の深いところに響く。

そして読後に残るのは、陰りではなくほのかな光だ。絶望を背景にしながらも、物語は“生きていく”という意志を静かに肯定してくれる。死を巡る世界で紡がれるこの小さな希望の灯りこそ、本作の最大の魅力なのだと思う。

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2025年12月12日

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