あらすじ
「母の友」休刊前の4号連続「さよなら特集」、第3弾は「子どもがおとなになった頃の社会」です。「家族」「仕事」「メディア」「気候変動」「平和」など、気になるテーマの専門家を訪ねます。さて、未来はどうなる? 童話欄は酒井駒子さんによる『びっくりしたおかあさんねこ』。
*電子版には巻末付録のカレンダーはつきません。
*電子版では、掲載されないページ、マスキングされた画像が含まれる場合がございます。
*この作品はカラー版です。お使いの端末によっては、一部読みづらい場合がございます。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
4号連続の「さよなら特集」も残すところ、あと2回となった今回は、『子どもがおとなになった頃の社会』で、「編集部より」によると、日本の婚姻数は過去50年でほぼ半減しており、結婚そのものが問われる時代ともなっていることから、社会というのは常に変わり続けているのだということを改めて実感させられ、更に、この先の社会はどうなるのかに迫っている。
「鼎談・未来はどうなる?」
古賀及子×酒寄希望×三好愛
それぞれの言葉で印象的だったものを掲載すると、古賀さんは『家族というよりチームっぽくなったなと感じる』、『AIには無い、人間の予定調和ではいかないところを大切にする』で、後者は『子どものきらめき』に擬えている点も肯けるものがあり、酒寄さんの「女性芸人に『ブス』って言うのがお笑いのお決まりとして成立していたけれど、今は一切許されなくなった」に嬉しくなり、三好さんの『一方的に助けるとか思いやるも大事だけど、その前に、自分とは違う気持ちが世の中にはたくさんある』にハッとさせられたのは、多様性本来の理想的なあり方とはなんなのだろうということを考えさせられたからであり、これについては、後の伊藤亜紗さんも似たような意見を書かれている。
「気候変動」 榎本浩之
人間でいうところの、高熱があるのかを確認するために『おでこを触る』行為が、地球温暖化では『北極』にあたる、そこでの現状に対する関心や、『温暖化を止める、ということは車のブレーキを踏むようなもので急には止められない』ことを認識した上で、好奇心の塊である子どもたちが未来への鍵であることを述べられていたが、知らない間に、どうにかなっていましたという風にはならないことだけは確かなのだと思う。
「家族」 西野理子
思っていた以上に家族という概念は、時代毎に様変わりしていたことや、実は『誰が家族か』ということに関して、現時点に於いても定義がないこと等、新たに知ることが多かった。
「仕事」 勅使川原真衣
「能力主義」社会について二つの大きな問題があることに加え、特定の能力だけが評価されることが本当に皆にとって平等なのか、その言葉の裏にあるものを考えることの大切さを教えてくれた。
「夢の果ての世界」 石塚元太良
地球の各地で撮影を続ける写真家の石塚さんが、『未来の風景を撮影しているような感覚』を抱いたのは、世界中の19世紀末のゴールドラッシュの史跡であり、何故、当時は「辺境」と呼ばれていた地域の風景にそれを感じたのかについて、今、私がいる場所にも様々な見えない過去の歴史が刻まれているように、おそらく今の風景も未来の風景も、繰り返しの過程で存在しているのだろうと思うと、石塚さんの『終わりなき人の欲望はこれからどこに向かうのでしょう』という言葉にも染みるものがあり、その写真を眺めていると、かつては夢を抱く人々が集まり栄えていた輝かしき軌跡と共に、今ではそれも塵となって消えてしまったのではないかといった寂しさも漂っているようで、思わず見入ってしまうものがあった。
「コミュニケーション」 伊藤亜紗
「本当に『人のため』になる、って実はすごくミラクルなこと」というのは、「『与える』側の視点ばかりで『受ける』側の視点が抜けてしまっていることが多い」ことを知った中で、奈良県生駒市の「まほうのだがしや チロル堂」の試みは、とても面白く感じられた。
「メディア」 ドミニク・チェン
生成AI的な「それっぽい答え」ではない、『拙くてもいいから自分の味がある言葉を交わせる場所』が必要であることに加え、ここでも多様性という真の意味合いとは何かを問い掛けており、『うちはこう、あなたたちはそう。お互い勝手にやりましょうということじゃないと思う』には、考えさせられるものがあった。
「子どもに寄り添う現場から」
若者の死因の第一位がダントツで自殺なこともあって、子ども食堂、ファミリーホーム、弁護士と、様々な現場から届けられた声には他人事でいられない心境となり、その寄り添い方は本当に最低限でいいのかや、間宮静香さんの弁護士としての志に、あらゆる子どもたちの未来を思う中で、大人の問題が子どもに派生していることから、大人への支援も同様に欠かせないことが、子どもの支援にとっても重要であることを知る。
そして、「子どもの権利条約」の中では、『子どもが意見を表明する権利』が保障されていることによって、大人は子どもの意見を聞いた上で、最善の利益を考えなければならず、これは知らない方もいらっしゃるのではないかと思い、様々な境遇の子どもたちにとって救いとなるような道が開ければと、掲載いたしました。
「未来マンガ」
5人それぞれの持ち味が発揮されている中、ツルリンゴスターさんによる「今日 君がした事が」の、『世界はいつでも1人から始まって変わっていくんだよ』に爽やかな希望を感じられる中、しりあがり寿さんによる「明るく強くたくましく」の、2045年に生きる男性がご先祖への挨拶と称して、それを象ったサンドバッグを殴る姿には、今を生きる者として申し訳ない気持ちにさせられて、『なんでもかんでも問題後送りにしやがって』、『温暖化とか全世界が協力しなきゃならない時に』『戦争とか分断とか世界バラバラにしやがって』と、確かにその通りとしか言いようがないが、私も含め、今を生きる人達はそのままにしていていいのだろうか?
その他に、金原由佳さんの「きっと支えになる映画」と、三宅香帆さんの「未来を感じる本」も、さよなら特集に掲載されており、興味のある方は本誌を読んでみて下さい。
ここからは気になった連載を。
長田杏奈さんの「私のきれいは私が決める」
冬場の部屋や肌にとって好ましい湿度から一気にシフトチェンジする内容に、果たして『美容は余裕のあるときに楽しむオプションでしかないのか?』という問題が生じるが、決してそんなことはないということを、ある場所の支援の時に起こった事実を以て実感できた、その副題は『誰かのための潤い』。
読んであげるお話のページは、酒井駒子さんの「びっくりした おかあさんねこ」で(私はいきなりの酒井さんの新作の登場にびっくりした)、内容としては絵本のショート版といった印象だけれども、ころころと様変わりする表情豊かなおかあさんねこや、愛らしい子猫たちを、場面毎に活き活きと描いていて、おそらくアクリルガッシュではないかと思うのだが、そののっぺりとした感触の画材を、これだけ優しく穏やかな雰囲気で色の選択と共に使い分けて描いた、おかあさんねこがすやすやと眠る始まりの場面が、特に印象的で癒される。
「わたしのストーリー」は、今号、最終号と梨木香歩さんが担当し、今回はインターネットやメールのやり取り、それ以前はFAXの導入で、会わなくとも人とコミュニケーションを取る手段は様々ではあるものの、やはり圧倒的に情報量が違うのは・・・といった素晴らしさを、ご自身の体験談から書かれていたことに確かな説得力を感じられた。
小林エリカさんの「母の冒険」
コスパや効率性というのは、時に必要では無い時もあると実感し、それは自分の作品に於ける疑問点にしっかりと向き合いたい時に加えて、『子どもと生きるというのは、よけいなことの、連続である』に込められた思いというのは、まさに明るい未来に向けた眼差しとも感じられた、それぞれにとって大切な時間なのだと思う。
もりやままなみさん、齋藤陽道さんの
「ひょうひょう かあちゃん」
親から見たら思いも寄らないような、子どもたちの世界との出会い方に、改めて子どもたちは世界のいろんなものとの出会いを求めていることを実感し、それは時に大人になると尻込みしてしまうような物事にも素敵な出会いがあって、人生の財産となるのかもしれないということを、私に教えてくれた。