あらすじ
中世化する21世紀世界
G7で、日本だけが経済成長していないとされるが、本当に正しいのか。
また、なぜそうなるのか。ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』で、
長期にわたるゼロ金利を、資本を投下しても利潤が出ない資本主義の「死」と看破した著者。
本書では、シンボルエコノミーがリアルエコノミーを凌駕し、
中世化する21世紀世界を読み解いていく。
古びた理論にしがみつく日本政府や日銀、経営者を批判し、
経済成長率の“まやかし”を明らかにする。
世界に先駆けて「定常状態」に移行する日本経済はどこに向かうのか、
われわれはいかなる選択をすべきか。その答えがここに!
(以下、目次)
第1章 幻想のインフレ時代
第2章 経済成長という病
第3章 リアルエコノミー vs.シンボルエコノミー
第4章 中心の喪失
第5章 作られたバブルと、ビリオネアの増殖
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Posted by ブクログ
【シンボルエコノミー】 水野 和夫 著
経済の分野で一番信頼しているのは水野和夫氏(&河野龍太郎氏)。膨大な歴史書・哲学書を渉猟して現代の経済を考察するという稀有な経済学者です。新著が出たので、早速、読んでみましたが、新書でありながら開眼ものです。
シンボルは単なる記号であり、株式や為替も記号。一方、我々の生きる世界はリアルなエコノミー。こうしたシンボルを重視するエコノミーには上限がないものの、働いている人・工場・店舗・オフィスは目に見え、これらの資本は限りなく増やせないので両者の乖離が広がっていると分析します。また、人口の少ない国ほど生活水準が高いことも実証しますが、唯一の例外は米国。シンボルエコノミー化となった米国に対して、日本はリアルエコノミー中心の世界でいずれも「例外」。唯一、日本でビリオネアに相当するのは法人企業であり、賃下げと利払い削減によって利益を増やし、実質GDPが対1998年比で1.2倍しか伸びていないのに、内部留保は4.6倍にまで膨れ上がっている実態から、いまの賃上げのみならず、過去の生産性向上分まで還元すべきと提言します。
これまでの「より遠く、より速く、より合理的に」が限界に来ており、21世紀は「より近く、よりゆっくり、より寛容に」が「定常状態」になると予想しますが、この「定常状態」に対して資本を無限に増やそうとすることは最大の障害になると断じています。
新書と言っても万人向けではなく、多少の経済知識は必要かと思います。左派的でもあり、政策立案者には受け入れられないと思いますが、いつもながらに示唆に富む一冊です。