あらすじ
【危機を生み出した天災と人災を解明。増産余力は2、3年以内に60万~70万t】
令和日本を襲ったコメ不足。世論は政府の責任を問う声が強いが、その陰で忘れがちなのは、高温障害による二年連続の実質的な不作だ。この事実を無視して、政府の責任だけを強調することは本質を見誤る。米不足に対してスピード感のある対応がなされているが、問題解決には中長期的取り組みが不可欠だ。政策立案の経緯を熟知し、生産現場のフィールドワークを繰り返してきた専門家が、危機を客観的かつ定量的に分析し、日本の米が直面している課題と解決への道筋を正確に伝える問題提起の書。
【目次】
第1章 令和米騒動の真相――天災と人災の複合危機
第2章 増産余力はあるのか――産地の動向、歴史的経緯、国際比較
第3章 戦略的農政への問題提起――減反、直接支払、米輸出、高温対策
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Posted by ブクログ
著者は18年間農林省に勤務の後、大学に転じ、以降フィールドワークを続けてきた農業経済の専門家。米の問題については情緒的に語られることも多いなかで、客観的に数値を挙げて情報を整理し、また生産地の実態も反映した本となっている。
専門家ではない自分にとっては、理解が追い付かない部分はあるものの、逆に認識不足に気づかされる部分も多い。
短期的な視点では第1章で今回の「令和の米騒動」について定量的に分析している。
要約としては、令和5年、6年の2年間の米の不足が計58万トン、うち天災による不足が32万トン、人災による不足が26万トンと推計している。
天災の要因は高温障害であり、これにより、精米歩留まりの低下と篩下米の不足が発生したとしている。
人災の部分については、専門家の経済的予測の不備(インバウンド、パン等からのシフト等の需要増)10万トン、政府の米需給計画における引き締めすぎとその波及効果16万トンとしている。
第2章では産地の動向、歴史的経緯、国際比較をまとめている。
著者が強調しており、また世間ではそれほど認識されていないと思われるのが、東西格差である。東日本の米主産地では増産余力がある一方で、西日本では著しく生産力が後退しているという事実であり、どちらか一方の産地事情だけで論ずると本質を誤ると指摘している。
現状、当面は60万トン以上の増産余力があるとしている一方で10年後を見据えた対策も早急に取り組む必要があると論じている。
また、減反政策により、米の単収が伸び悩む中、世界の米単収は著しく伸びており、結果として、日本は減反開始前の世界3位から現在では15位に後退しており、国際競争力回復に取り組む必要があるとしている。
第3章では、戦略的農政への問題提起、として、減反、直接支払、米輸出、高温対策について、メリット・デメリットや現状と対策などを述べている。
減反政策については、廃止後も米主産地では、作付け面積管理による生産調整が強く機能しており、円滑に生産抑制を解除していく方向にしていくべきとしている。
米への直接支払いついては、生産者保護の政策としての期待が高まっているが、市場価格押し下げ効果により、その恩恵が消費者にもかなり分配されるという原理を認識することが重要であり、これを強調した説明をすべきであるとしている。
米輸出については、方向性は正しいが、国際競争力の強化が必要としている。
最後に、高温障害対策は急務であるとしてまとめている。
政策提言の部分は、長年研究を続けてきた著者の思いも込められているが、学者らしく抑えたトーンでの提示となっている。
【目次】
第1章 令和米騒動の真相――天災と人災の複合危機
第2章 増産余力はあるのか――産地の動向、歴史的経緯、国際比較
第3章 戦略的農政への問題提起――減反、直接支払、米輸出、高温対策