【感想・ネタバレ】悲しみの歌(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

『海と毒薬』の勝呂医師が登場する、ということで読んだ。彼が主人公の続編というよりは、群像劇の中のもっとも重要な一人というような立ち位置である。
事前に読んだ人たちからの感想を聞いていたので、かなり身構えつつ読んだのだが、本当に悲しい結末だった。しかし、その救いのなさのために、私は遠藤周作に感謝した。

なんて人は悲しくどうしようもないのだろう。なぜ善人が傷つけられ、痛めつけられ、苦しみ悲しむのに、しょうもない人間がのうのうと生きてえらい顔をしているのだろう。
この作品に出てくる勝呂医師やガストンに比べて、若手記者や大学教授、そして学生たちは本当に愚かでしょうもない。彼らは深く考えず自分のために人を踏みつけにする。そして、踏みつけにしても知らん顔ができる。それどころか、彼らは自分が人を踏みつけたことを正当化さえできるだろう。
それに比べて、勝呂医師は苦しむ人を助けてあげながら過去の罪に問われる。ガストンは人を助けるために懸命に働いて、人に馬鹿にされる。
どうしてこの世界では、こんなにひどいことが許されるのだろう。どうして神様は、こんなに優しい善人たちを助けてくださらないのだろう?

勝呂医師は誰にも許されずに死んでしまう。彼の名誉は、おそらく死後も回復することはない。彼は社会的に悪人のままなのだ、彼の名誉を取り戻してくれる人はいないのだ……。
しかし、一方で彼は絶対的な許しを与えられる。それがガストン≒キリストの存在である。
ガストンは彼の人間としての尊厳を守ってくれる。先生はいい人、優しい人だと言って、それを理解してくれているのだ。それは全く社会的な許しではない。また、彼の生命をも救ってくれない。
しかし、勝呂医師の人としての尊厳を守ってくれる。ガストンは無力であるが、その許しは神の赦しにも等しい。それが読者にはわかる。私にはわかる。それが悲しくてたまらない。

その赦しがあまりに優しく、そして無力であるゆえに、私はそれを信じることができた。とても悲しいけれど。社会に受け入れられない人間でも、神様には赦してもらえる。泣くしかない。

1
2019年03月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

一つの時間に起こった出来事について、登場人物それぞれのシーンに時折切り替えながら物語が展開していくのですが、切り替えリズムが斬新で、独特の世界観が感じられました。登場人物一人一人の心情の動きの描写について、綺麗事だけでない苦しみや醜さの塊の部分も描かれている点が、尚心惹かれました。また、絶対の“正義”を人に安易に振りかざすことで生まれる一つの悲劇をも、この作品の中で目にしたように思います。

1
2014年09月26日

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ネタバレ

 生体解剖という医学の暴力と無反省を糾弾する折戸が、記事の暴力により人を殺し、その現実を受け入れようとしていないという構造が、冒頭の「泥棒が泥棒をつかまえ」たことに似て滑稽に思えた。

 遠藤が、彼を含めた若い世代の人間に「距離を置いて対している」[427頁]ことも相まって、私は彼らに対して愛着を持って接することができず、正直に言えば「救いようのない」と思えてならなかった。

 ただ、幸運なことに、折戸には野口という気づきの種となる人物がいる。勝呂に後日談があったように折戸にも後日談があるならば、野口は「救い主」になれたのだろうかと想像した。

0
2024年04月02日

Posted by ブクログ

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一貫して哀しみの歌がこの小説には流れている。

奉仕の心が大切なのは間違いないが、それが実際に他人への救いとなることがいかに困難かを知らされる。

救われることへの諦念に僕は息を止めたくなった。

0
2023年11月23日

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ネタバレ

中学生の時に読んだときの衝撃が忘れられない。
悲しさとは違う哀しさを知った本。
やるせなくて、悔しくて、でもその感情をぶつける矛先が無くて、哀しい。
海と毒薬でも沈黙でもなくこの本を教室に置いたあの国語の先生はたくさん本を読む人だったんだなあと思う。
今年の夏に読み返したい。

0
2023年07月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新宿を舞台にした群像劇。
「海と毒薬」に登場した医師の勝呂が、あの後どんな人生を過ごしてきたのかが分かる作品となっていた。
それとガストンも。ガストンはここではイエス的な役割を担っていて、かなりの重要人物。彼の言動は突拍子もないように見え、自分も暮らしが立ち行かないのに人助けばかりして、破滅的すぎて時には滑稽ですらある。他人のためになぜここまで出来るのかと不思議でならないのだが、ラストでガストンの他人への気持ちや、心の声が聞こえた瞬間に号泣してしまった。
その前の、勝呂の自殺でもすごく苦しんだ。そんな道を選ばず、最後の最後まで生きてほしかったのだ。
癌の末期患者のケアを無償でやっていたのだって、人間性が表れているなと思う。病人に優しい言葉しかかけなかったところも切なかった。
他人の苦しみは受け止めても、自分の真の苦しみは誰にも共有できなかったのかもしれないなと思うと、涙が止まらない。

0
2023年02月25日

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ネタバレ

いつか評価をもう一つ上げたくなるかも知れない。人が人を傲慢に裁くことは、現代の炎上なども同様で、全く古びていない。
海と毒薬の勝呂が、尊厳死にも手を貸し、最終的に自殺する。ガストンという主の代弁者が出てくるも、彼を救うことはできない。誰かを救える神などいないのでは?一方で、神は弱き者が自らの命を消そうとする時にすら、共におられる。どのような時にも、ただ共にあられる優しき主の姿。

1
2014年01月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

もう一回読み直したら、また違う感覚を覚えそう。すごく深い作品でした。
最後までガストンか助けてくれることを祈っていましたが、良くも悪くもキリストの思想。助けるというよりは寄り添う姿勢でした。
読後悲しい気持ちが残りました。
正しいだけでは生きていけない。それぞれの事情もわからないまま自分の正しさを相手に押し付けてはいけない。
どこかで勝呂とガストンとキミちゃん、そしておじいちゃんが救われることを祈っています。

1
2017年11月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『海と毒薬』の続編とも言える作品、
ということで『海と毒薬』も読みたくなりました。

テーマはとても共感できるし
いい作品だと思うんだけれど★3なのは、
ちょっと人物描写と設定が安易な気がしたのと、
勧善懲悪感がしたから。
人物描写はもしかしたら意図的に戯画化したのかもしれないけれど、
それにしてはストーリーがシリアスかな。
それから新宿という都会でそんなに人はタイミング良く出会わないだろう、
と思わずにはいられないくらいの人の重なりあい。
遠藤周作は『深い河』『沈黙』と過去二作品を読んでいるけど、
この作品は二つに比べ単純過ぎるように思う。

テーマとストーリーは素晴らしく、
私が遠藤周作に求めるそのままでした。
ま、陰気なんだけど。
人間ってそんなにできていないんだぞ、とか、
この世の中って不平等なんだぞ、とか。
でもその中でも救いがあって、
それは遠藤周作にとってはキリスト教で、
この作品ではそれを象徴しているのがガストンで
(ところでガストンは『深い河』にも出てきた?)
そして普通のまっとうな人も存在する。
本藤喜和子とか、野口とか、他何人かね。

とか考えると、うーん、考え始めてしまう。
やっぱりこの作品は素晴らしいのかもなー。
私はガストンにはなれないけれど、
せめて野口くらいの見識は持つ人でいたい。

1
2013年04月12日

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