【感想・ネタバレ】崩壊する日本の公教育のレビュー

あらすじ

安倍政権以降、「学力向上」や「愛国」の名の下に政治が教育に介入し始めている。その結果、教育現場は萎縮し、教育のマニュアル化と公教育の市場化が進んだ。学校はサービス業化、教員は「使い捨て労働者」と化し、コロナ禍で公教育の民営化も加速した。日本の教育はこの先どうなってしまうのか? その答えは、米国の歴史にある。『崩壊するアメリカの公教育』で新自由主義に侵された米国の教育教育「改革」の惨状を告発した著者が、米国に追随する日本の教育政策の誤りを指摘し、あるべき改革の道を提示する!

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Posted by ブクログ

日本の教育現場を取り巻く息苦しさの正体が何かを様々な実例をもとに突き止めるとともに、これからの展望についての「光」を指し示してくれる一冊。

この書籍では、2016年に出版された同氏の著書「崩壊するアメリカの公教育」の8年後である日本の教育現場のいまが描かれている。

各章のタイトルは「『お客様を教育しなければならない』というジレンマ」や「人が人でなくなっていく教育現場」、「新自由主義時代の『富国強兵』教育と公教育の市場化」といった、読者をドキリとさせるものが多い。しかし、感情的ではなく教育研究者としての視点から、冷静に、実例を交えながら論を展開していく。

学習指導要領の転換や全国学力テストなどから見える「成果・結果主義」、教員の働き方改革の「本質的な議論の欠如」、部活動の地域移行という名のもとに進む「民営化・サービス化」、教育委員長の廃止。これらは新自由主義的な価値観に基づいた政府の介入によるものだと指摘している。
合わせて、教員たちの置かれた現状や、彼らが抱く切実な想いについても豊富に述べられている。

鈴木氏は、教育に関係する「点」としてのトピックスや出来事を、様々な研究や実例といった「補助線」を引くことによりその関係性を明らかにし、教育現場を取り巻く「全体像」を示している。そのためか、専門的な記述や情報が多いのにも関わらずとても読み進めやすい。

花火大会や旅客機で感じた「格差」、中学校教員時代に経験したこと、住んでいたニューヨークでの子育て経験、中学生のいじめによる凍死事件、大阪市教育行政への提言、奈良教育大学附属小学校「不適切」事件など。

教育研究者としての幅広く豊富な知識と、自らが感じ考えてきた視点、先人の紡いできた言葉、恩師をはじめとした多くの「教育者」とのかかわりから学んだこと、そしてこどもたちと現場で直接触れ合う中で経験してきたこと。

これらの「点」や「補助線」が教師のみならず、かつて学校に通う生徒であった読者1人ひとりに「自分ごと」として投げかけてくる。

しかし、本書は読者を絶望させる一冊ではない。むしろ希望の一冊だ。

心を打たれるのは、鈴木氏が本書を通じて語り続ける「学校のありかた」「教師というしごとの本質」である。
教師が、こどもたちと優劣のかなたで直接かかわり、彼らの生きる力を存分に育むことができる。
こどもたちが、教師の愛情と信頼のもとで、学ぶことや生きることそのものに喜びを感じ、精一杯に命を輝かせながら「わたし」を育んでいく。
こんな学校現場、そして社会になったら。こどもたちは、そして教員たちはどれほど幸せだろうか。

そして本書の終盤、鈴木は「社会のシステムを支えているのは「わたし」たちだ。私自身がその中の一人であると気づくことで、何かが動き始める。」と述べる。単に教育を取り巻く状況を嘆き憂うのでも、無力感に打ちひしがれるのでもなく、1人ひとりがまず知ること。そこから始まると。鈴木氏の言葉が、力強く、そしてあたたかく後押ししてくれる。

教師だけでなく、親も含むすべての「こども」に関わる人に読んで欲しい一冊である。

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2024年10月19日

Posted by ブクログ

おそらく共産党シンパの先生の本。しかし、経歴がマジですごいです。もちろん中身も。ノーム・チョムスキーを引用して「人を支配する良い方法は枠を決めたうえでその中で活発に議論させること」と述べてて、なるほどなと。あと給特法って知らんかった。埼玉超勤訴訟とか、大学の教員としても学びがあったと思った。

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2025年10月30日

Posted by ブクログ

教育者必読でしょう。
これからの教育はどこに向かっていけばいいのでしょうか。
私学も常に問をたてて、学校のあり方を考える必要があります。

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2025年08月08日

Posted by ブクログ

教育がサービス化してしまっていることに警鐘を鳴らしている。現在の教育は、新自由主義、グローバル経済に対抗すべく、生徒の学力を伸ばすことを第一目標としている。そのためには成績という結果主義をすることで、教師の仕事をシンプル化、さらに警察などとの連携や外部委託化を増やすことでより教師の仕事を単純にしている。そしてこれは教師自体が部品化されていることを指している。

学校をグローバル経済の人材工場としてしまっている。そしてこれがさらに格差を生んでいる。というのも、富裕層の住む地域は学業以外が伸ばせる環境が充実してきており、学業以外を得意とするベテラン教師もここに集中するようになっている。たいして、貧しい地域は AI や新米教師しかおらず、ただ学業を伸ばすのみとなっている。

そもそものこの世の中のあり方、つまり経済成長を是としており、グローバル競争に勝つために、教育は経済を伸ばすことを第一目標としてしまい、どうしてもこうなってしまうのではないかと感じた。哲学的な視点とはなるが、幸福とは何か、豊かとは何かを再定義して、教育の目的自体を変えないと、現状の新自由主義的な教育も変えられないのではと思ってしまう。
経済成長を目的としている現状で教育を変えようとするのは難しいだろう。この状態で学力以外のものを目的にすると、それこそ「優秀」「優秀ではない」の基準があいまいになり、テストのように定量化されていない基準を作ることとなり、経験や生い立ち、育ちで判断するようなより格差を生む状況を作りかねない気がしている(経済成長を目的にしているので、どうしても優秀かどうかの判断が企業や社会で必要となってしまう)

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2025年05月29日

Posted by ブクログ

・教育はサービス業
・お客様を教育しなければならない
・スタンダードという名の抑圧
・自由とは施されるものではない
・抑止力をなくした教師
・全国学テの行き過ぎた事前対策
・学校という場所で本当に学ぶべきものとは
・労働はもっと、魅力的であるべき

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2025年03月28日

Posted by ブクログ

はじめに
びわ湖花火大会、ファーストクラス

知ってはいたけど衝撃的な内容

第1章「お客様を教育しなければならない」というジレンマ一新自由主義と教育

「お客様」と化した生徒・保護者の要望に応えつつ、教育機関として生徒指導対応策授業や生徒指導のマニュアル化学校の「塾化」、教育の数値化・標準化・商品化 ビジネス界の侵略

第2章 人が人でなくなっていく教育現場教員の働き方改革の矛盾

旭川中2いじめ凍死事件
新自由主義政府が推進する「学校における働き方改革」の矛盾
第3章 新自由主義の「富国強兵」教育と公教育の市場化一政治による教育の「不当な支配」
教育への政治介入:大阪の現状
大阪市立木川南小久保敬校長の提言
「生き抜く」世の中から「生き合う」世の中への転換を「自分があり得ないと思っていた時(戦中)の教員と同じ過ちを犯しているのではないか」

この校長先生、本当に立派な方ですね

第4章「自由」の中で不自由な子どもたち一コロナ渦が映し出した教育の闇と光

コロナ禍が映し出した教育の闇と光
マニュアル化する社会の閉塞感

イェーツ「教育とは、バケツを満たすことではなく、心に火をつけること」
マキシン・グリーン「私たち教師は、教え子や皆で分かち合うこの世界のために、より良い世の中を求める気持ちが無ければ、事務員や役人としての人生をまっとうするしかない。
私たちにとって、今ある世の中を再生産するだけでは到底足りないのです」

第5章「教師というしごとが私を去っていった」一教育現場における「構想」と「実行」の分離

日本の教育現場の息苦しさの正体
教員の労働に対する「疎外感」とバーンアウト
教師によるオリジナルのテストが消え、生徒の評価は数値化
規制緩和→教員不足→更に規制緩和

「疎外」という言葉の訳出が多分鈴木さん違うような?
「疎外」は「疎外感」ではなくて、「人間疎外」
マニュアル化によって人間らしさが無くなっていくということ。

終章「遊び」のないところから新しい世界は生まれない
資本主義社会への批判

遊びの反対は作者は「死」だと述べているが、
一般的には「能率化 」の反対だとすると、タイパ・コスパはまさしく、「遊び」の反対
タイパ、コスパ重視で仕事したりしてきたし、段取りマンだったから、結構意識してきたけど、考えてみると、なーにも残ってないんだよなあ。
タイパ、コスパを無視してやってきたことが、自分の貯金になってるってことにようやく気づく今日この頃。

パブリックスペース 結節点の大切さ述べてるのは、「コモン」の重要性を主張する方々と同じね。

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2025年02月19日

Posted by ブクログ

教育は大切である、これは誰しもが反対はしないであろう。教育には時間とお金がかかる。しかも、それが「正解」を導き出すかどうかわからない。ここ日本では、選挙や経済などの即時的なものに重きを置き、その日暮らしをしているようにしか見えない。ヒトが地球で存続していくためには、教育を真剣に考え、持続可能な社会にしていかねばならない。本書を読んで強くそう思った。
包括的で、骨太な著者の考えであるが、自分の思いが強すぎ、それがなぜ正しいのか、またどのようにしていけばよいのかという記述がない点が残念であった。

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2025年02月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

教育に浸透していく市場原理。

新自由主義改革で加速した教育の合理化、標準化、サービス業化。

アメリカの公教育について書かれた前著に続き、日本の教育についても同じような傾向があることが強調されていました。

いろいろな順番で書かれているので、すこし頭を整理すると…

・・

アメリカ~

1983年、米国連邦教育省長官の諮問機関の報告書「危機に立つ国家」報告書。アメリカの世界での競争力を再度高めるために教育の改革が要され、新自由主義改革が教育の現場でも実行される契機に。

1990年、*教育*社会学者マイケル・アップルによる論文では、マルクスの論じた「構想と実行の分離」の状況が教育現場にも及んでいるという。分業・役割分担の細分化により、現場は単純労働化し、教員たちが裁量、スキル、プライドを失うことになる、と。

2002年、アメリカで発効した「落ちこぼれ防止法」はこの教育の市場原理化を加速させる。

学力標準テストで競争原理を採り入れ教育の管理、効率化、生徒指導は「ゼロトレランス」のもと、停・退学…

2008、年アメリカ心理学会は、停・退学処分が生徒の素行に逆効果であると指摘。

2009年、「Teaching by Numbers」教育の新自由主義化を問う。
本来人間の教育に伴う不確実性を排除し、教えることをテクニック化し、カリキュラムを台本化し、教育サービスのパッケージ化を許した、と。

日本でも~
2001年、義務標準法の改正。
40人に1人の正規教員の配置義務が緩和され、複数の非正規で対応できるようになった

2004年、PISAショックーOECDの学習到達度調査(PISA)で日本のランクが急失墜した。

2006年、教育基本法改定。愛国心や郷土を養うことなどが新たに教育目標に加えられた
2006年、公立学校教員の国庫負担が1/2から1/3へ。自治体は教員人数を増やすため、非正規が急増。
2007年、教育職員免許法改定で、免許取得条件を厳格化。
2007年、全国学力・学習状況調査を再開

2017/18年、学習指導要領の改訂。(これは10年に改訂される。)
学びの内容に加え、教える内容を定義、学びの達成度ーパフォーマンス基準も定義、これにより、教員に結果責任を求める酢重関係を獲得する

2018年、文科省事務次官による通知 to 全国の学校で、学校における働き方改革が求められる。学校業務の整理、一部を民間委託の提案、

2018年、埼玉教員超勤訴訟。
教員側が自発的に教育的見地から実施した教育業務が労働時間に含まれない。

2018年、大阪市の吉村市長によるメリットペイ制度の提案。生徒の全国学力テスト結果を教員の評価、報酬、学校予算に連動させる、というもの。合意を得られず、実施には及ばず。
著者は、効果がないのではなく危険であるという。何をもって学力と呼ぶのかを問うことを忘れてはいけない、と。

2021年、校長先生からの、大阪市教育行政への提言。
_「生き抜く」世の中ではなく「生き合う」

・・

公教育の在り方を考える。

教育学者、大田尭は、「教育」という和訳のもととなった「エデュケーション」の本来の意味は、養う、引き出すの意味だという。

そして、教育を生命の営みのなかでとらえ直すことを論じられていることを紹介。

人間が大自然の中で行かされていることを忘れた社会は、「生き物を生き物として扱わない社会」だ、と。

著者はまた、法隆寺の宮大工について書かれた『木のいのち木のこころ』という本なども紹介。そこにあるのは、心構えの違い。檜という自然を相手にしているということ、絶対はないということ。

教育は、人間という成長する自然を対象にする。個々の具体的な生き物に向き合い、取り組むこと、標準化できるものではないこと、だから、生命の営みとして、自然として、教育を考え、取り組むことが欠かせないことを強調。

著者は、新自由主義が浸透するように見えるこの社会でどうするのかのヒントとして、

隙間に目を向け、広げる、ということを伝えている。

なぜなら、一つのシステムは社会全体を覆いつくすことはない、から、だという。

フィンランドでは、大学院を出ていないと教員になれず、狭き門でもあり、人気職、給与も待遇もよい。

心構え、捉え方、その違いがもたらす大きな違い。

その一つは、固有名詞的な関係をどう守り抜くか、市場主義社会の労働の現場においても、ということでもあると再考…

組織として、システムとして考え始めると、欠陥だらけでどうにもならないと思いがちだけれ、そこで働き生きる個々の人間として、個人的経験として、良い経験、生身の人間として関係し合える空間、時間を、広げていきたいなーと、ちょっとまた抽象的だけれども思った。

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2025年02月14日

Posted by ブクログ

現状の課題を丁寧に捉えており、共感するところが多い。しかし、その課題に向かって進まなければならない現場への新たな知見は乏しい。現状の課題分析の知見を広げる点で学びがあった。

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2024年12月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

個人的には読みにくい本だった。

様々な概念や専門用語を分析の視点として用いているが、それらの用語の定義をまず示して欲しい。それから、その分析視点に立つとどのようなことが言えるのかを明瞭に示して欲しい。中には、そんな大層な概念をわざわざ持ち出さなくとも言えるのでは?と思ってしまうようなこともあった。

例えば、学校の「塾化」と述べているが、これは誰の言葉?自らの造語ならば、この定義とこの状況によって進行する自体をもう少し手厚く説明して欲しい。また第5章の冒頭でアップルの論文を引いているが、これは論文の要約なのか、あるいは論文の中の文章の抜き出しなのかがわからない。またその後に「構想と実行の分離」というマルクス主義の考えを持ち出しているようだが、これもきちんとした説明はなされていないように思う。

以上から、個人的には多くの用語を用いて、その用語をとにかく散りばめて文章を作っているように見えた。ただ、あまりにも多すぎるが故に、説明が不十分となったり、わかりにくくなったり、面白みにかけたりしてしまうのではないか。

それと、全体的に、論に抑揚がないように感じた。
新自由主義とか、働き方改革とか、そういった大きな話を毎回のように文章に組み込んでいるため、論全体が均質的な印象を受ける。そしてそれが故に、途中で読み疲れてくる。それに加え、著者の主張を支える前提が作成した文章からはっきりと読み取れるため、なんだかずっと説得されてるようで疲れる。

わかりやすさを意識しているせいか、全体として読みにくいという印象を受けた。言いたいことは目次等からわかるため、それを論理的・説得的に主張するための論展開や、根拠、分析視点の設定をしてみるといいのではないかと思った。

本書を読む際には、目次で各章と節で何を述べようとしているかがある程度わかるため、全部を読もうとするのではなく、個々の興味ある部分を選んで読むのがいいと思った。イメージとしては、雑誌。

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2024年12月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトルは少し誤解を生みそうだけど、今の日本の教育現場が終わってるって話ではなくて。現場で先生方は精一杯踏みとどまって質を維持しようと頑張っているけれど、政府の教育内容への介入もすごいし、システムや制度が自由化・市場化の方向で、このままじゃアメリカみたいになりそうだよー、やばいよー、っていう話。

アメリカの、新自由主義っていうのか。より良い教育を求めて選択の自由はあってもいいけど、ベースの公教育の質の確保はお願いしたい。
ていうか教育は、民営化しちゃいけない分野だよなー。農業、医療、国防とかもそうだろうけど。

政府の介入、道徳の教科化とか価値観の押し付け気持ち悪いなーくらいしか思ってなかったけど。教育委員会の独立には、戦争の反省という歴史的な背景があるんだ。知らなかった。「教え子を再び戦場に送るな!」だったはずが、競争が激しい現代社会を「さあ勝ち抜いてこい!」と送り出すことになって、戦中の教師と変わらないのではないか、というどこかの先生の言葉が重い。

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2024年11月27日

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