あらすじ
自民党衆院議員が妻の参院選出馬に際し、地元の議員らに現金を自ら配って回った前代未聞の買収事件。その額は100人で計2871万円にのぼる。なぜ、この事件は起きたのか。本当の“巨悪”は誰なのか。広島の地元紙が総力を挙げて「政治とカネ」の取材を続けるうち、買収の資金源とも目される自民党の巨額「裏金」問題へと繋がってゆき…。政権中枢の巨額「裏金」疑惑に広島の地元紙「中國新聞」が切り込んだ渾身の調査報道。『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件全記録』の内容に、22年以降の取材の経過を大幅に加筆。買収資金として安倍政権幹部4人が裏金を提供した疑いを示すメモを手がかりに、政権中枢の闇に迫る。巨大な権力の壁にひるまず、真相に迫り続けた取材の裏側を描く執念のノンフィクション!――「事件はまだ終わっていない」
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Posted by ブクログ
参議院広島選挙区での河井夫妻の買収事件の真相に、地元の中国新聞の取材班が迫った本。第1部では事件の発端とそれに伴う報道合戦の中での記者たちの奮闘が描かれている。報道合戦の裏側がわかり面白い。最初のすっぱ抜きは週刊誌で、情報が垂れ込まれる仕組みには、足での取材がかなわないことがよくわかる。ただ、その後の意地の盛り返しは見事である。第2部では、被告夫妻と被買収者の法廷での証言が生々しく書かれている。第3部では検察審査会を経て、被買収者の裁判や買収資金の出どころを探り、事件の全貌に迫っている。全体を通じては自民党の古い体質がすべての背景にある。選挙も含め、政治家を見方につけたい時はお金をもっていく慣行や文化である。これは、河井夫妻の対立候補にも現金を配った形跡がある事や、広島県以外でも同じような事案が多発していることからも根深さがよくわかる。この文化や思想がある限り自民党に大きな変化は期待できない。問題が起きると、ひとまず反省の姿勢を見せるが、実態の解明や根本的な再発防止には動かない。時間がたって国民が忘れてくれるのを待ち、既得権の縮小につながる法制度の見直しには取り組まないのも納得である。また、買収資金の出どころについての調査がうやむやになるのも、よくあるパターンだと思う。本書では、官邸の機密費が使われているのではないかと推測しているが、核心に迫った取材は面白い。一連の事件で唯一救いなのは、検察審査会が機能していたことである。司法取引を連想させるような検察の取り調べは当時から問題視されており、それに釘を刺したのは痛快に映る。これにより、被買収者の地方議員や首長が、被告夫妻の裁判での言動と、自分が被告になった時の言動の違いによって人間性をあぶり出されたのは、気の毒に映るぐらいだった。政治家は平気で嘘をつく習性があることもよく理解できた。事件の核心を追いかけ続けた記者たちの奮闘に拍手を送りたい。
この事件により広島県の政界は大きなダメージを受けてしまった。すべての始まりが私怨だったことを考えると、巻き込まれた多くの人々が気の毒だったと思える。
Posted by ブクログ
長期中枢政党であり続けるために浸透してしまった金権体質、この感想記入時の石破政権でも度々話題になり事件の黒幕に迫ろうとしても大物議員、歴代総理からは明確な解答はないまま、一有権者、納税者として他人事ではない問題だと改めて本書を通じて認識しました。
河井夫妻事件も蜥蜴の尻尾切り、氷山の一角なんだろうと感じました。本書を通じ記者の仕事についても考えさせられました。この本を読んでよかったです。
Posted by ブクログ
2021年12月に出版された中国新聞の「ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録」から2年半、
さらに取材を続けた内容を加味して再出版された文庫。
河井夫妻の買収事件は、自民立民1人ずつで無風区だった参院広島選挙区に、
河井克行の一回り下の妻河井案里(二人とも慶應、、、)を安倍首相以下が建てたことに端を発する。
名目は二人当選だったが、実は安倍を批判した現職を追い落とすため、意趣返しだったといわれる。
当選が厳しい案里陣営は、地方議員に実弾を配る。
結果案里と立民が当選。中央の狙いどおりとなった。
しかしこの後検察が動き、地方議員の証言を得て、河井夫妻を立憲、
克行は実刑、案里も有罪執行猶予となった。
これが2021年版。ここまでで文庫ほぼ300ページ。
選挙が、票が金で買われる様子が生々しく描かれている、というところ。
しかし、ここからが本番。いまにつながるテーマとなる。
配ったカネはどこから出たか、だ。
選挙資金として渡された1500万はあくまで選挙活動で使い果たしたという。
配ったカネは3000万以上。この原資は?貯金から、というが、借金を抱える河井家、信じがたい。
そこに出てきたのが「総理2800すがっち500幹事長3300甘利100」のメモ。
河井と菅は同期なのだ。
そして自民党元官房長官の「官房機密費を選挙に使った」との発言。
中国新聞の相次ぐスクープ。追随しない全国紙。
共産党赤旗が暴いたパーティ券収入のキックバック、裏金。
これらが結びつく。
・・・
要するに自民党は、使える手段は何でも使って、票を買い、議席を増やし、権力を持ったのだ。
一次政権に失敗した安倍首相は、悪魔に魂を売ったのだ。
モリカケサクラ、官房機密費、裏金、統一教会、、、なんでもありだった。
私は一次政権の安倍さんの発言には期待したが、
二次政権の下品な安倍さんには失望していたが、こういうことだったのだ。
安倍の力で議員になったものが大半を占める自民党。
下野すべきだ。
与党内野党の石破さんが自民を変えることはできない。
野党が頼りない、とか言っている場合ではない。
物事を変えられない官僚に対し、国民の総意をもって変革させることができるのは国会議員なのだ。
その国会議員の与党がこのていたらくでは日本は地盤沈下するだけなのだ。
世界がどんどん変わっていくのに、明治以来の仕組みを未だ守り続ける官僚、、、これではだめだ
そういえば、検察の横暴はここでも出てきた。
河井夫妻をターゲットにするため地方議員の証言がほしいと、不起訴をほのめかし、
結局世論に乗って後で数十人を起訴した検察。目的のために手段を選ばないのはあいかわらず。
これも官僚。変えなくてはいけない。
中国新聞の取材力には敬意を表する。
第1部 事件
(異例ずくめの選挙;
河井夫妻;
「文春砲」と反転へのスクープ;
総力取材;
告白・辞職ドミノ;
被買収者;自民党の根深い金権体質)
第2部 法廷
(百日裁判;
案里公判;
克行公判)
第3部 真相解明へ
(政権の責任;
克行公判、判決へ;
ここからは文庫版の書下ろし
被買収者の責任;
「被買収」裁判;
反転のスクープ再び;
克行が仮釈放;
病巣;
国会の自浄能力)
Posted by ブクログ
2025.10.31
高市内閣が発足し、なんとなくの期待感が日本を覆っている。やはり、自民党はやり方が上手い。本質が何も変わっていないのに、総理を変えることで「変化」したかのように魅せられるのは、皮肉も込めてさすがとしかいいようがない。本書の感想はすでに過去の事件扱いされている河井元法相の事件のルポである。
気になっているのは、中国新聞社は影響力ないみたいな自虐というか、自己肯定感低めの記述が散見されること。
私の地元紙である中日新聞は東京ではともかく愛知県では絶大な影響力持っています。日本の地方新聞はそんなに影響力ないものなのでしょうか?
あと、残念だったのは、こういう書籍の文庫版は、「その後」について目を引くものを期待してしまうが、河井夫、河井妻のインタビューとか無理だったんでしょうかねー。期待しすぎたこちらが悪いのかも。
Posted by ブクログ
中国新聞といえば大昔しに暴力団追放キャンペーンのドキュメントを読んだことがある
本件では中央政界や検察当局を相手に地方紙の記者が取材活動をするのは大きな困難があったと思うがよく頑張った
今後とも期待したい
それにしても自民党の金権腐敗体質は、末端に至るまで度し難い
Posted by ブクログ
法務大臣経験者が有罪となるという前代未聞の展開となった、2019年参院選広島選挙区をめぐる大規模買収事件について、真相に迫るべく粘り強く追い続けた中国新聞「決別金権政治」取材班の取材の記録。
この事件の構図や背景、河井克行氏、河井案里氏をはじめとする関係人物の人物像など、丹念な取材に基づいて克明に描かれていて、とても読み応えのあるルポだった。新聞記者の取材過程についても垣間見れて、興味深かった。取材班の皆さんに敬意を表したい。
Posted by ブクログ
2021年に出た「ばらまき」。それに大幅加筆修正、13〜18章が追加ってことで購入。
この事件は今の政治と金問題に繋がっている。
中国新聞には引き続き頑張って欲しい。
Posted by ブクログ
元法相夫妻による大事件を徹底取材するが、事態は政権中枢の巨額裏金疑惑に発展し・・・・・。政権中枢の問題をあぶりだした取材とその裏側を描く執念のノンフィクション。
Posted by ブクログ
中国新聞「決別 金権政治」取材班『ばらまき 選挙と裏金』集英社文庫。
広島の地方紙が総力を挙げて炙り出した前代未聞の買収事件を描いたノンフィクション。
地方紙でも、これだけのことはやるんだと言わんばかりの熱量を感じるが、問題の本質に斬り込み、何かを変えたかというと大いに疑問を感じる。やってやるぞという記者たちの気持ちばかりが空回りしているような冷静さを欠いた文章が今ひとつ響いて来なかった。
未だに燻り続けている自民党の裏金問題を放置したまま、自民党は総裁選を展開している。立候補した9人の推薦人には裏金議員の名前も上がっており、9人の誰一人として今さら裏金問題を解決しようという意思が無いことは明らかである。
裏金問題だけでなく、安倍晋三元首相の暗殺により明らかになった自民党と旧統一教会との爛れた関係も9人の立候補者は正そうともしていない。そもそも与党である自民党が創価学会を背景とする公明党と連立政権を組んでいること自体、異常なことであるが、9人の誰も声を挙げることは無い。
こんな腐敗し切った状況下の選挙でも、自民党議員が選出されるのは、投票率が低いこと、創価学会や旧統一教会関係者による組織票と、本作に描かれる買収による票集めが密かに行われているのかも知れない。
我々、国民が出来ることは選挙権を行使し、しかるべき候補者を選択する以外には無いのだ。
2019年参院選の広島選挙区で起きた大規模買収事件。元法務大臣の河井克行が妻の案里を当選させるために2,871万円を広島県内の地方議員や市町長、後援会員100人にばら撒いたのだ。しかも、この選挙戦には当時首相だった安倍晋三や官房長官の菅義偉、自民党幹事長の二階俊博など政権丸抱えの支援を受け、国民の税金を含む1億5千万円ものカネが投じられていたのだ。
汚れたカネを受け取った地方議員40人のうち辞職し、けじめを付けたのは僅か8人で、40人の議員には当初、処分が無かったというのも納得出来ない。
また、河井克行と案里に1億5千万円のカネを渡した自民党のトップ議員たちには何らお咎め無しというのが一番許せないことである。
そのうち天罰でも落ちれば良いのだが。
本体価格1,000円
★★★★
Posted by ブクログ
2019年参院選広島選挙区において、河合安里氏を当選させるため元法務大臣の河合克行氏が3000万円近い大金を、100人以上の地元有力者や地方自治体首長などに配り、のちに公職選挙法違反で逮捕された事件について、地元中国新聞社が関係者に取材を重ね事件の全容に迫るノンフィクションです。
本書前半部は、この選挙において現金が授受された経緯や、河合夫妻の公判の様子など、河合夫妻の政治家としての来歴と河合夫妻が有罪となるまでの経緯を詳細に追っています。
そして本書後半部分では、配られた現金の出どころはどこなのかという点を追求していきます。小さな手掛かりを積み重ね、たどり着いたのは安倍晋三氏(当時自民党総裁)、二階俊博氏(同幹事長)、甘利明氏(同選挙対策委員長)、菅義偉氏(当時官房長官)といった自民党の最重要人物の名前です。
安倍氏、菅氏は内閣機密費(領収書等が不要な、表に出すことのできない現金)、甘利氏、二階氏は政策活動費(党が党幹部に支給する現金だが、政治家個人は政治資金収支報告書に記載する義務がない)等々で得た現金を河合氏に支給し、それが買収の原資となった(であろう)という構図と突き止めます。
一地方紙の取材で、ここまで究明できたことは大変なことだと思うのですが、不思議なのは中国新聞社がこのスクープを発表しても、全国紙は後追い取材をしなかった点です。政権への忖度なのか、その辺の事情はわかりません。
2019年参院選挙で、河合氏から現金を受け取ったことを認めた関係者や、そのほか多くの関係者が実名で証言しており、非常に説得力があります。ただ、唯一残念なのは、自民党の上記4名の有力者の名前が記載されたメモの存在を取材班が知りえた情報源、そして本書後半部で内閣機密費が選挙資金として活用されてきたことを証言した元官房長官経験者の実名が、”取材源の保護”という理由で明かされていない事です。これだけのインパクトのある証拠、証言なので、こればかりは仕方がないのかもしれないですが。
新聞やニュースだけでは政治資金の話は分かりにくい部分もあったりしますが、そのあたりの基礎知識を整理する意味でも内容充実のノンフィクションでした。