【感想・ネタバレ】〔新訳〕 ジョニーは戦場へ行ったのレビュー

あらすじ

「そんなわけで、すいませんが、あなたはどうぞ自由のために戦ってください。ぼくはあんまり興味がないんで」
2つの世界大戦からベトナム戦争にかけて、反戦の旗印として文学史に刻まれた問題作

『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』……赤狩りによってハリウッドから追放されながら、数々の歴史的名作を生み出した稀代の脚本家、ダルトン・トランボ。彼が第二次世界大戦中に発表し、過激な反戦小説として波紋を呼んだ問題作、待望の新訳!
第一次世界大戦下、仏戦線での砲撃により、視覚・聴覚・味覚・嗅覚と四肢を失った青年ジョー。すべてを奪われ、後悔の中で絶望に囚われた彼が、ふたたび世界と繋がるために見つけた希望とは?
解説・都甲幸治

【アメリカで「発禁」処分に?】
本書はアメリカ国内で長く流通していなかったため「発禁書」であったと記述する本もある。
実際には「発禁」は事実ではなかったが、絶版状態が続いていた。
第二次世界大戦下、極右派や親ナチス勢力に利用されることを恐れたトランボは、大戦が終わるまで本書を復刊すべきではないと考えた。
(著者まえがきより要約)

【目次】
まえがき(一九五九年)
追 記(一九七〇年)

第一部 死 者
第二部 生 者

訳者あとがき
解 説 蘇るトランボの遺志 都甲幸治

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Posted by ブクログ

ネタバレ

読み始めたのは、8月の戦争特集としてこの映画版が上映されるけど、映像として2時間近く見切る肝がないと思って文章ならまだいいかと判断したからだった。

でも結局のところ、この原作は文章だからこその精巧さと訴求力の高さがある気がした。反戦と一口に言っても、ジョニーのような近代戦の犠牲者にローマ帝国から語らせる。人が人を虐げるということ。

皮肉や風刺だけでない肉薄ぶりの背景には、赤狩りの只中を意志を曲げずに生きたトランボ自身の屈強さもある。これが映画化された時はさらにベトナム戦争の最中で、このジョニーの生々しい叫びはまさにリアルだっただろう。

パレスチナ戦線での飢餓を強いる悲惨さを目の当たりにしている今また、その生々しさは血肉を伴ってきている。

映画版の予告のコメントに最近、「こんなことは流石にない」「思考実験だ」という声があった。しかし、トランボによればジョニーには実在のモデルがいる。その兵士はジョニーと全く同じ身障を負い15年間生きたという。
そういう悲惨がフィクションだと思われる世の中で、ジョニーの結末が怖いほどリアリティーを帯びてくる。
「生ける屍」つまり生き残ったものでなく戦地で死に声を持たなかったものたちのほうの代弁者であるジョニーの捨て身の発言。
医学の脅威として重宝されるかと思いきや、迷うことなく彼の口は塞がれてしまう。
この結末はあまりに重いけどリアルだ。
現在では戦地の現実が目に見えてすらフェイクニュースだと思いたがる。
そんな現実にジョニーの顛末が重なりすぎてあまりに悲しい。

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2025年07月31日

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