【感想・ネタバレ】〔新訳〕 ジョニーは戦場へ行ったのレビュー

あらすじ

「そんなわけで、すいませんが、あなたはどうぞ自由のために戦ってください。ぼくはあんまり興味がないんで」
2つの世界大戦からベトナム戦争にかけて、反戦の旗印として文学史に刻まれた問題作

『ローマの休日』『黒い牡牛』『スパルタカス』……赤狩りによってハリウッドから追放されながら、数々の歴史的名作を生み出した稀代の脚本家、ダルトン・トランボ。彼が第二次世界大戦中に発表し、過激な反戦小説として波紋を呼んだ問題作、待望の新訳!
第一次世界大戦下、仏戦線での砲撃により、視覚・聴覚・味覚・嗅覚と四肢を失った青年ジョー。すべてを奪われ、後悔の中で絶望に囚われた彼が、ふたたび世界と繋がるために見つけた希望とは?
解説・都甲幸治

【アメリカで「発禁」処分に?】
本書はアメリカ国内で長く流通していなかったため「発禁書」であったと記述する本もある。
実際には「発禁」は事実ではなかったが、絶版状態が続いていた。
第二次世界大戦下、極右派や親ナチス勢力に利用されることを恐れたトランボは、大戦が終わるまで本書を復刊すべきではないと考えた。
(著者まえがきより要約)

【目次】
まえがき(一九五九年)
追 記(一九七〇年)

第一部 死 者
第二部 生 者

訳者あとがき
解 説 蘇るトランボの遺志 都甲幸治

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

戦争がもたらす悲劇。主人公ジョニーは、生活を戦争に奪われてしまう。なぜ戦争が繰り返されるのかを考えさせられた。戦争の背後には、個人の幸福よりも利益や権力を優先する人々がいることを思わせられる。戦争の構造を見つめ直したいと思わせてくれる。

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2024年12月27日

Posted by ブクログ

先日、市川崑監督の『野火』と合わせてダルトン・トランボ監督の『ジョニーは戦場へ行った』が4Kリバイバル上映が行われており行ってきた。
映画は昔、DVDで観たときよりも遥かに画質が良く感じるレストアがされていて驚いた。そしていつの間にか小説も新訳が角川の新書判で出ており、このタイミングで改めて手に取ってみることに。

旧版はもう読んだという記憶くらいしか残っていないため比較は出来ない。だが自分の記憶では大分読みにくかった覚えがある。それに比べるとこの新訳はだいぶ読みやすくなっていた。
この箇所は全然覚えてなかったのだが、2つの章のどちらも終わりに近づくに連れてジョニーの内面がどんどん先鋭化して平和を求める声が激しくなっていく。その筆致がどんどんと心を揺さぶり胸を打つ箇所で、どちらの章も最後の数ページは何度も読み直したいほど良かった。

この数年で世界で再び戦争の足音が聞こえ始めるようになった。そんな時期にこの名作は改めて戦争の悲惨さと平和への希求を切に訴える。
今読んでもこんなに古びない、いや今の世界情勢だからこそ、より深く心に残る作品だと感じた。

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2025年09月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読み始めたのは、8月の戦争特集としてこの映画版が上映されるけど、映像として2時間近く見切る肝がないと思って文章ならまだいいかと判断したからだった。

でも結局のところ、この原作は文章だからこその精巧さと訴求力の高さがある気がした。反戦と一口に言っても、ジョニーのような近代戦の犠牲者にローマ帝国から語らせる。人が人を虐げるということ。

皮肉や風刺だけでない肉薄ぶりの背景には、赤狩りの只中を意志を曲げずに生きたトランボ自身の屈強さもある。これが映画化された時はさらにベトナム戦争の最中で、このジョニーの生々しい叫びはまさにリアルだっただろう。

パレスチナ戦線での飢餓を強いる悲惨さを目の当たりにしている今また、その生々しさは血肉を伴ってきている。

映画版の予告のコメントに最近、「こんなことは流石にない」「思考実験だ」という声があった。しかし、トランボによればジョニーには実在のモデルがいる。その兵士はジョニーと全く同じ身障を負い15年間生きたという。
そういう悲惨がフィクションだと思われる世の中で、ジョニーの結末が怖いほどリアリティーを帯びてくる。
「生ける屍」つまり生き残ったものでなく戦地で死に声を持たなかったものたちのほうの代弁者であるジョニーの捨て身の発言。
医学の脅威として重宝されるかと思いきや、迷うことなく彼の口は塞がれてしまう。
この結末はあまりに重いけどリアルだ。
現在では戦地の現実が目に見えてすらフェイクニュースだと思いたがる。
そんな現実にジョニーの顛末が重なりすぎてあまりに悲しい。

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2025年07月31日

Posted by ブクログ

 終戦80周年企画として、映画版の本作が4Kリバイバル上映されることになり興味が湧いたので映画を観る前に原作である小説の方も目を通しておこうと思い、この本を手に取りました。
すでに映画版も観てからの投稿になるのですが、小説版でしか感じ取れない底のない恐怖がこの本にはあったと思います。

 「意識のある戦死体」というトリッキーな設定により、本来話すことの出来ない死人からの叫びを用いた反戦メッセージの主張を実現させることによって死へのリアルな恐怖と生にたいする渇望が読者にのしかかってくるようなインパクトがありました。

 四肢断裂かつ触覚以外の感覚器官を失ったジョーはいま現実を見てるのか?思い出に耽っているのか?悪夢にうなされているか?
ジョーの意識がぐちゃぐちゃになっていく表現はさすがハリウッド脚本家のダルトン・トランボであり本書の秀逸さを感じます。
 
 本作で主張される反戦メッセージからは愛国者による戦争プロパガンダや魂の不滅性を謳うキリスト教への強い批判が読み取れますが、同時に国家問題と個人問題のジレンマも考えさせられ、国と人との関係性に生じる矛盾について向き合う必要があると思いました。

 体のほとんどを失い、意識が混濁しながらも懸命に生きようとするジョーが行き着く先は一体どこなのか?
非常に重い内容ではありますが、人として生きることの大切さをもう一度考えさせられる素晴らしい本でした。

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2025年08月04日

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