あらすじ
尼崎に祖父が創業した小さな映画館「波の上キネマ」を継ぐ安室俊介。座席数100余りの小さな映画館は、収益を上げることは年々難しくなっており、ついに新聞に「年内に閉館する見通し」との記事が出てしまう。そんなある日、創業者である祖父の名前を出した問い合わせが入る。それがきっかけとなり、祖父の前半生に興味を持った俊介は南へ向かう。祖父は脱出不可能な絶海の島で苛酷な労働を強いられていたが、そこにはジャングルの中に映画館があったという。祖父はなぜその島に行ったのか。なぜ映画館があったのか。運命に抗う祖父が見たものは……。壮大なスケールで描く驚嘆と希望の長編小説。
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Posted by ブクログ
小説ではあるけれど、これが基づいた事実があり、我々はこの時代を経てきたからこそあることを知っていないといけないと改めて思った。
映画の力、やっぱりすごいし、ここに出てきた映画、名前だけしか知らないものばかりだけれど、見てみたいと心から思う。
最後の章は、いろいろな場面がそれこそ映画のように思い出され、涙が止まらなかった。
読んで良かった。
Posted by ブクログ
西表島のジャングルの中にある映画館。
なぜそんなところに映画館があったのか。
尼崎にある映画館『波の上のキネマ』。
今は亡き祖父が開いたこの映画館を俊介は畳もうかと考えていた。時代の波に飲まれ経営難に悩まされていたのだ。しかし、店を畳む前に、どうしてこの映画館が出来たのかを調べようと思い立つ。
視点は、祖父・俊英に移る。
俊英は、尼崎で生活を営んでいたが、両親が亡くなり、『運命』の下、西表島の炭鉱で働くことになる。その移動途中に立ち寄った遊郭で出会った一人の幼き少女・チルーが、俊英の記憶に強烈に刻まれることとなる。
炭鉱での生活は厳しく耐え難いものであった。しかし、ハーモニカを吹く坑夫が現れ、炭坑で生活しているものたちに歌うことの楽しさを思い出させた。この坑夫は映画の作中音楽を奏でるとともに、映画の内容を話した。そして映画は俊英の心を奪った。映画を見たいと切望した。俊英はジャングルの中に映画館を作るよう炭鉱の管理者にかけあい、石垣島からフィルムを運んできてもらうことで、映画の上映が実現された。
映画の中にはチルーが映っていた。この映画は俊英の彼女への想いを溢れさせた。俊英はもう彼女に会うために脱走を試みる。一度は失敗しつつも、脱走を成功させ、『運命』のもと、チルーと巡り会う。
そして視点は俊介に戻る。
俊介は西表島に訪れ、かつて映画館があったであろう場所へたどりつく。祖母・チルーを連れて。
全てを知った俊介は、『波の上のキネマ』を閉めることにした。
そして開いたのである、『ジャングルキネマ』を。