【感想・ネタバレ】日本人にどうしても伝えたい 教養としての国際政治 戦争というリスクを見通す力をつけるのレビュー

あらすじ

テレ東人気の報道記者が米中対立、中国の台湾侵攻、ウクライナ戦争の現在地といった話題から最新の国際情勢を書き下ろし。世界の見通しがクリアになる1冊。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

__日本を含めて平穏に暮らす国家に住む人々が「平和」というときは、自分たちに「現状維持勢力のバイアス」がかかっていることが多い。

平和への現状維持バイアス。他者の論理を知ることで、私たちの論理の偏りにも気づきますね。

・・・

前提として、

国家の意図と能力に注目する。

能力があれば、脅威が存在する。

意図とは各人間集団が歴史や経験を通して形成してきた論理。

この論理を読み解くのは簡単ではないのだけれど、

この本では主にアメリカ、中国、台湾、ロシア、ウクライナ、イスラエル、ガザ、インド、そして日本についてそれぞれ考えが提供されています。

国家としての意図、国の政治制度によっても、何を基に意図を探るのか、論理を理解するのか、難しい。

そして、リーダーの意図から分析するにあたっても、善悪や道徳、平和主義などの主義主張といった個人の説得力に依存するものを主題に据えない、ことが強調されています。

戦争と平和の問題について、個々人が人間的な感情や論理をもって話すことは可能なのか、

そもそも国家の論理が圧倒的に優先される国際関係を前に、

どう個々人は国際政治に切り込んでいくことかできるのか、と少し無力感も感じがちですが、



中国と台湾の対立の論理についての感想:

日本や欧米にとっての現状維持という平和が、他者にとっては全く平和ではないことを理解する。台湾には論理があるのかないのか分からない。

中国にとって、統一こそ、最終的な平和、正義につながるもの。台湾を統一できていないのは屈辱。どの国も、平和的手段が実現しない場合は、武力行使をしてきた。国家統一は中国にとっていかなる領土紛争よりも重要。能力は、段階的に増強している。

台湾は、政党間で揺れる。与党民進党は、香港のように中国共産党に支配されるリスクがある以上、中国とは仲良くしすぎてはいけない。野党国民党・貿易関係の深い中国とは、ある程度は仲良くしないと台湾経済が持たない。

ウクライナとロシアの対立の論理についての感想:

ウクライナ戦争については前著でかなり深堀されていた。国際法はどこまで効果があるのか。ICCの逮捕状が出されることにより、日本としての責任も生まれると思った。

- 2023年3月17日、ICCはウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領らに逮捕状を出した。
- 2024年5月20日、ICCはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント国防相、ガザを事実上統治しているハマスの指導者3名に対して逮捕状を請求。逮捕状は、ICCの判事らによって正式に承認され、11月21日、ネタニヤフ首相とガラント前国防相、イスラム組織ハマスの軍事部門カッサム旅団のデイフ司令官の3人に逮捕状を交付。

核共有とその効果としての核抑止について考える:

ロシアの核抑止は機能していた、という論。

NATOによる小見出しのウクライナ軍事支援は、急なロシアへの追いつめが戦争をエスカレートさせ、核使用のリスクがあるとの下で行われたとされ、結果的に通常兵器による攻撃が核兵器による報復につながるとの見方から、NATO側の慎重行動を促した。NATOはプーチンによる核の脅しに屈し、その間ロシアの軍備強化を可能にした。

ロシアはベラルーシへの核共有により、核の脅しをより有効にした、という論。

前提、NATOでは、(西)ドイツ、イタリア、ベルギー、トルコに核が配備されている。

ロシアは2023年6月ベラルーシに配備を始める。この配備は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟が決まったことに対抗する狙いがあり、ベラルーシから核兵器が利用される場合、アメリカはロシア領土ではなくまずベラルーシに報復すると考えられ、米露の全面戦争をひとまず避けられる。そ「全面戦争を避けられるのであれば、ロシアは本気で核を使うかもしれない」とNATO側が推測していることが重要なポイント。そしてこれにより相互核抑止が機能しなくなる恐れがある。

イスラエルとパレスチナの対立の論理についての感想:

国連決議や国際合意については、お互い都合のいい時、物について主張しているよう。

イスラエルと、もともとのハマスの論理は完全に相いれない。どうしようもない。

イスラエルの論理:殺される前に殺す。

ネタニヤフ首相は国内で汚職疑惑なとで支持を失っていたさなか、ガザでの軍事行動をテコに世論を結束させ、不法に占領した土地に住む住民のさらなる市議を得て政権延命を図る。また、イスラエルの内在的な論理として、ハマスの攻撃な、ユダヤ人が持ってきた恐怖心と生存本能に火をつけた。実戦経験を持つ元軍人リーダーからなる武人政治の国家。殺される前に殺す(ロネン・バーグマン『イスラエル諜報機関 暗殺作戦前前史』)、という病的な心理がある。

**__世界は同情するかもしれないが、結局は何もしない。であれば、自分たちで戦うしかない。たとえ世界を敵に回してでも、戦う**

という決意に、再度火をつける。

パレスチナの論理:1967年以前の境界でパレスチナ独立国家を樹立する。

ハマス旧憲章(1988年)では、

**13条「パレスチナ問題の解決に向けた提案や平和的解決または国際会議と呼ばれるところものもは、イスラームの抵抗運動の理念と対立する**

7条では、誰かが殺しに来たら先に殺せ、と重なる論理を持っている

新憲章(2017年)では、

**16条「ハマースは、この戦いはシオニストの計画に対するものであって、彼らの宗教を理由としたユダヤ人に対する戦いではないことを強調する。ハマースは、彼らがユダヤ人であるためにユダヤ人と戦うのではなく、正に、侵略占領者であるシオニストに対して戦うのである」**

**新憲章は、**7条のような敵対的表現もなくなり、コーランの引用も全くなくなり、反ユダヤ主義、イスラム主義的要素が後退した(山岡陽輝)、とのことです。

国際社会的な了解事項は、

イスラエルがパレスチナに占領地を変換し、パレスチナ国家を樹立する二国家解決で決着させるしかない。しかし、10月7日のハマスの攻撃で、ネタニヤフ首相はパレスチナ国家の樹立を否定し、二国家解決はもはや認めない考えを鮮明にしている。安保理も日本政府もアメリカも、1967年第三次中東戦争以降さらに入植を拡大してきたイスラエルに対して、1967年以前の境界を尊重するよう求めている。

パレスチナの国家承認について、

2024年5月 スペイン、アイルランド、ノルウェーがパレスチナ国家承認

それ以前にはすでに139か国、しかし、G7はどの国も承認していない。その理由の一部として、2006年以来選挙がないなど、権力腐敗があるそうです。

パレスチナ支援について、

1994年‐2020年:アラブ国家は20%ほど。うち、サウジ10%、UAE5.2%。アメリカは対立しているようで一番の援助国であり、14.2% 欧州は全体で19%、日本3%。

インドの論理ー合理的でさっぱりしている。

日本について、

インテリジェンス、つまり情報と分析が不十分。重大事態のどう対応するかという自らの論理について、日本か国民的な議論を避けてきた、と述べられています。

さらにそれに加え、発信する力、ナラティブパワーもかなり弱い、と。相手が理解できる言語で伝えられるかが試されており、たとえばイスラエルから学べる部分が多い、とも論じられています。

イスラエルの力は本当に軍事力だけではないなーと、あらためて。やっていること自体は悪であっても、そこに至るまでの背景、文脈を人々が加味する。そして、同情ではないけれども、完全に悪にはならないというか、国のなかにいる一人ひとりの生き様や体験に人々の目を引き付ける、というか。国際関係論中にあって、個々人を主体とするストーリーを持つ、とても不思議な国だ。

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2024年12月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 2年前(2022年8月)に出た前著の続編とも言える内容。

 「えっ、2年も経ったのか!?」と一瞬驚いた。が、その後、世界は2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の延長とも言える時間を過ごしているとも言える。

 前著が、ウクライナ戦争を中心に、翻って、日本の現状、台湾有事を考えるということで、終盤は対中国、そこでの日本の論理を展開したが、本書は、さらに視野を広めて、多くの当事者の論理を分析している。

 それもやむ無し、イスラエルのガザ侵攻などもあったものだから、ユダヤの論理、パレスチナの論理と、語らなければならない当事者が増えている。

 願わくば、もうこれ以上、”当事者が”増えないでもらいたい。

 前著同様に、いまや戦争というリスク抜きには何も語れないという論調で、国家間の紛争、衝突の危険性と、その実現リスクおよび、それを引き起こす各当事者の能力および論理を解説している。
 国際政治の入門書としては、面白い一冊にはなっている。

 折しも、ウクライナがついにロシア領内に侵攻するなど、事態は最終局面を迎えつつある。
 そこにまつわる各国の、世界の動きは興味深い。本書の分析を大いに参考に、趨勢を眺めさせてもらおうと思う。

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2024年08月16日

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