あらすじ
徳川吉宗の時代、「侍講」という立場で武士の道徳学を説いた朱子学者・室鳩巣。武家の忠義の話、漢詩・和歌の話、日常的な教訓の話……。本を手掛かりに、近世から近代へと変わりゆく教育デザインを読み解く。
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Posted by ブクログ
徳川吉宗につかえた朱子学の室鳩巣の生涯と人物像を、わかりやすく紹介している本です。
吉宗の文教政策をサポートすることになった鳩巣は、庶民のための道徳的訓戒をしるした『六論衍義』の和訳・編述にたずさわります。朱子学者として、道徳思想を正しくつたえたいと願う鳩巣と、幅広い人びとへの普及を重視する吉宗のあいだには、多少のへだたりがありました。また鳩巣は、吉宗の為政者としての能力を、家康になぞらえて高く評価していたものの、学問に対する吉宗の態度にかならずしも不満をいだいていなかったわけではありません。こうした両者の距離を明らかにしつつ、著者は鳩巣が学問にたずさわる者としての立場から、政治に対してどのようにかかわったのかということを検討しています。
また本書では、鳩巣の朱子学にもとづく思想についても論じられています。彼の最大のライヴァルは、彼とおなじく吉宗につかえながらも、朱子学を否定する立場を標榜していた荻生徂徠です。鳩巣は、林家や山崎闇斎、伊藤仁斎らに対しては批判を展開しているものの、徂徠の思想に立ち入ってその批判をおこなうことはありませんでしたが、赤穂浪士の討ち入り事件をめぐって、徂徠と対立します。また鳩巣の文学観にも、古文辞学をとなえた徂徠とその弟子たちとの大きなちがいがあったことを著者は解説しています。
最後に著者は、鳩巣の『駿台雑話』が戦前の教育のなかで大きな位置を占めていたにもかかわらず、戦後になってほとんど顧みられなくなったことに触れています。その理由として著者は、儒学的な道徳思想に対する評価が変化したこととともに、文学観においても近代的な発想がひろく受け入れられたことをあげています。