あらすじ
亡くなる前、まともに話すこともできなかった人が、家族や知人を認識し、思い出や感情を語り出す――生き生きと、まるで「昔のその人」が戻ってきたかのように。
本書は、「終末期明晰」と呼ばれるこの不思議な現象について、科学的な視点から説明を試みる本です。
著者は、『夜と霧』の著作で知られるヴィクトール・フランクルの薫陶を受け、現在ヴィクトール・フランクル研究所所長をつとめる認知科学者、アレクサンダー・バティアーニ博士。
博士がこの現象の研究について発表すると、世界中から大きな反響と膨大な経験談が寄せられました。家族や知人を見送った人、医療・ケア現場で働く人々からの報告です。
調査によると、終末期明晰は、公的に研究されてこなかっただけで、古くからその記述が残っていることもわかりました。
本書は、多くのエピソードや報告書を引きながら、この現象が意味するところ、発生原因や発生条件、またこの現象を紐解くことで生まれる可能性について論を展開します。
認知症やその他の病気により脳に深刻なダメージを負い、だれがだれかもわからず、別人になったかのような人が、なぜ死の前に「帰ってくる」ようなことが起きるのか。
この問いは、多くことを示唆します。たとえば、「脳以外に記憶が保存されている可能性」や、「魂と呼ばれるものの存在について」などです。
生きるとはどういうことか。自己とは何か。人の魂はどこにあるのか。
この真摯で丁寧な研究報告書は、読む人に深い感動を与えます。
原題:Threshold:Terminal Lucidity and the Border of Life and Death
著者:Alexander Batthyany (Batthy「a」nyの「a」にはアクセント記号)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
原題:Threshold:Terminal Lucidity and the Border of Life and Death
認知症、終末期明晰、臨死体験、二元論
Posted by ブクログ
医学などの専門用語をほとんど使わずに、こんなに分かりやすく、科学的で専門的な調査の経緯や結果を説明してくれるなんて、著者と訳者の文章力に大いに感謝したい。
タイトルに惹かれて読み始めたものの、こんなに感動するものとは思わなかった。単なる調査過程の発表ではなく、「人間の生き方とは」という根本的なところから、考えさせられた。
また、研究調査の観点から、調査が行き詰まった時にはどんな観点から問題を見つめ直せば良いか、といったノウハウも書かれているので、勉強になった。
読み終わった今、しっかりと自分と他人のために、善いと思う選択と言動をしようと反省した。
そして一番の得たものは、死ぬことへの漠然とした不安が軽くなり、むしろ少し楽しみになってきたということ。自分が死ぬ最後の瞬間に、一体どんな世界が見えるのだろうか。それを決めるのは、これまでの、そしてこれからの自分の生き方次第。
Posted by ブクログ
主に認知症者が、死の数時間〜数日前に急に発症前の様子に戻ることがあるという『終末期明晰』。それがメインなのだけど、臨死体験研究と合わせて考察されている終盤からがとても興味深かった。
・人間は物理的な側面に紐付く存在だけでなく、肉体が維持されなくなっても残る「精神」があるのではないか
・世界?宇宙?には意識、知識の巨大な貯水地があって、人はみなこの一部で、脳は個々の生物として生存するために必要なものだけを濾し取っているフィルターなのでは?
オカルト的でなく、他の本でも科学者、学者といった人たちが似たことを書いていて、私もだんだんそう考えるようになってきた〜
Posted by ブクログ
認知症や神経障害、重い病気や事故などで脳に障害を負った人たちが、死の直前に奇跡的に回復するという「終末期明晰(Terminal Lucidity)」。胡散臭いと思いながらページを開き、そこに書かれている内容に驚愕した。実に多くの信じがたい事例が挙げられている。試みにネットで検索してみるときちんとした論文が出てくる。
現在の科学では説明できない現象らしい。脳の機能はすべてが解明されたわけではないので、未知のなにかが隠されているのかもしれない。ただ、そこに魂だの神だのを持ち出されてしまうと、途端に引いてしまう。そして、すべての動物の中で人間だけに与えられた能力だという主張にも、素直にはうなずけない。さらには臨死体験にまで話が及ぶと「やはりな」と眉に唾をつけたくなるが、あちらとの違いは第三者による観察だということだ。
真実はどうなのか。もちろん結論は出ないが、生と死を考えるよい機会となった。