【感想・ネタバレ】狼の義 新 犬養木堂伝のレビュー

あらすじ

第23回(2019年度)司馬遼太郎賞受賞作!

「極右と極左は毛髪の差」(犬養毅)
日本に芽吹いた政党政治を守らんと、強権的な藩閥政治に抗し、腐敗した利権政治を指弾し、
増大する軍部と対峙し続け、5・15事件で凶弾に倒れた男・犬養木堂。
文字通り立憲政治に命を賭けた男を失い、政党政治は滅び、この国は焦土と果てた……。
戦前は「犬養の懐刀」、戦後は「吉田茂の指南役」として知られた古島一雄をもう一人の主人公とし、
政界の荒野を駆け抜けた孤狼の生涯を圧倒的な筆力で描く。
最期の言葉は「話せばわかる」ではなかった!? 5・15事件の実態をはじめ、驚愕の事実に基づく新評伝。
「侵略主義というようなことは、よほど今では遅ればせのことである。どこまでも、私は平和ということをもって進んでいきたい」
(1932年5月1日、犬養首相の日本放送協会ラジオ演説より)
真の保守とは、リベラルとは!? 明治、大正、昭和の課題を、果たして私たちは乗り越えられたのか??

※本書は2019年3月に小社より刊行された単行本を文庫化したものであり、2017年に逝去された林新氏が厳格なノンフィクションでなく、敢えて小説的な形式で構想し、着手したものを、堀川惠子氏がその意志を受け継ぎ、書き上げたものです。

【目次】
序章 古老の追憶
第一章 戦地探偵人
第二章 政変とカミソリ官吏
第三章 憲法誕生
第四章 帝国議会の攻防
第五章 国粋主義の焔
第六章 孤立する“策士”
第七章 革命
第八章 「憲政の神」
第九章 「神」の憂鬱
第十章 普選の代償
第十一章 見果てぬ夢
第十二章 最後の闘争
第十三章 テロルの果て
終章 五月の空
あとがき
参考文献一覧
解説 橋本五郎

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Posted by ブクログ

「狼の義 新犬養木堂伝」林新/堀川惠子

犬養毅とその側近であった古島一雄、この二人の物語を読み終え、深い感慨に耽っている。今の程度の低すぎる候補者やすでに議員になっている人に是非読んでもらいたい本である。私欲を排し、国家の行末を真剣に考え、命を削る覚悟で政界を生きた犬養毅。壮絶な一生に学ぶべきものがあると思う。

・犬養毅が心から尊敬したのは福沢諭吉だけだった。

・犬養毅はいつも貧乏だった。年がら年中高利貸しに追いかけられていたが、それでも支援を求めてくる人には気前よくなんでも与えていた。

・犬養毅は護憲派の政党をひとつにまとめ、全員が胸に白バラをさして議会に入場して、藩閥政治の桂園時代を終わらせた。

・犬養毅は亡命者をよく匿って面倒をみていた。武器が欲しいと言われれば、調達もした。その長たるのが孫文だ。中国はその恩を忘れず、彼が亡くなった時は国賓としてその葬儀に招かれた。霊廟に入れたのは蒋介石とイタリア公使と犬養だけだった。

・犬養毅は明治憲法下で立憲政治の実現そして政党政治の確立を目指し、普通選挙の実現をおこなった。

・犬養毅は普通選挙が実現した時に引退を宣言したが、地元岡山の支援者たちが納得せず、支援者たちが勝手に立候補の手続きをとり当選してしまった。

・犬養毅は軍部に抵抗、反対した。満州はとるなと言った。なので、満州事件解決のために策を練り上げ、ある人物を蒋介石に送ったが、軍部にみつかってしまい頓挫した。

・犬養毅は軍部に抵抗したために、海軍若手将校たちに公邸で射殺される。将校たちが乗り込んできた時も泰然としていた。「話せばわかる」とはその時の言葉でたった一言ではない。「まあ、待て。君らはなぜ、このようなことをする。まず理由を聞いた上で、撃たなくてはならないことがあるならば、その時に撃たれようじゃないか」「総理は張作霖から賄賂を……」「ああ、そのことか。それならば話せば分かる。撃つのはいつでも撃てる。あちらへ行って話そうじゃないか。(応接間へ)(煙草をとりだしながら)君らもどうだ。おい、靴ぐらい脱いだらどうじゃ」「何か言い残すことがあれば早く言え。問答いらぬ、撃て」 と、かなりの至近距離から撃たれてしまう。しかし即死ではなく17時半頃に撃たれてから23時25分に息を引き取った。最期の言葉は「テル、もう帰ろうや」。テルとはお手伝いさんの名前で帰る場所は長野県富士見にある別荘。

・犬養毅が亡くなった後は政党内閣は息の根を止められてしまい、軍人が君臨する「挙国一致内閣」といった恐怖政治が始まる。

・古島一雄いわく、「金の問題を起こす政治家は、着服した金で自分の手下をこしらえようというんだ。そうなると、政党というものは『政党』ではなく『徒党』になっちまう。闘争本位で利権ばかり漁っていると、政党自ら傷ついて信用を失う。そこを慎むのが政党の党首の仕事だよ」

犬養毅のファンになってしまった。もっと彼のことを知りたいと思う。この本を書かれたのは、林新さんだが半分ほど執筆された時に亡くなってしまい、妻の堀川惠子さんが、その意思を継いで完成させたとあとがきに書かれていた。

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2025年07月16日

Posted by ブクログ

書評:命を懸けて、言葉を信じ抜いた人間の肖像
――『狼の義 新 犬養木堂伝』(角川ソフィア文庫)

「話せばわかる」——その言葉の裏には、犬養毅という一人の政治家が、言論による政治、政党による民主主義を誰よりも強く望んでいた事実がある。本書『狼の義』は、五・一五事件で暗殺された総理大臣の伝記という枠を超え、「国家とは何か」「人は何のために生きるのか」を静かに、そして力強く問いかける。

犬養毅は、藩閥による専制の時代にあって、国家と政府を明確に区別し、政府が国家に反すると判断すれば倒閣も辞さない。その一貫した信念は、時に政局において不可解にも映るが、彼の中では明確な論理が通っていた。国家の未来のためには、現政権とて容赦しないという、「筋」を通す覚悟である。

彼の言葉は印象的だ。「悟りとは、平気で死ぬことではなく、平気で生きることだ」「覚悟は人を寡黙にする」――この静かな言葉の数々は、自己を律し、己の役割を果たし切るという厳しさに満ちている。命を懸けてまで守ろうとしたのは、言論の自由と、民衆の力への信頼だった。

民衆の力を「恐ろしい」とも「頼もしい」とも語りながら、彼は普通選挙こそ国家の成熟には不可欠と考えた。「民衆を直に政治に参加させ、結果に責任を持たせる」ことが、本当の国家運営であると。これは、民主主義に対する深い信頼と同時に、危うさへの冷静な理解でもあった。

総理官邸で凶弾に倒れてなお、犬養の背に逃げた傷はない。軍人さえ奪えなかったもの——それは、自分の時間とやり方を誰にも譲らず、生をやり切る気高さだった。その姿に、著者は西郷隆盛の死と重ね合わせ、政治家としての「生き様」の問いを立てる。

本書はまた、犬養と盟友・古島一雄との関係を通して、「本当の保守とは何か」「真のリベラルとは何か」を問い直す旅でもある。派閥や人気取りに流されないその姿勢は、混迷を極める現代政治においても、光を放つ。

「蓋棺事定」——人の真価は死してなお問われる。だとすれば、犬養毅という人間の評価は、時代を超えてなお、今の私たちに何かを響かせるはずだ。叩けば響く、釣り鐘のような政治家。その重みある響きを、私たちはどう受け止めるのか。本書はその問いを、私たちに静かに投げかけている。

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2025年04月17日

Posted by ブクログ

犬養毅については、今までに掘り下げたことがなかったが、読み終えて、幕末や戦国と同じくらい激動の時代を生きた人だと感じさせられる。暗く悲しい時代だけれども、知るべきことであるし、大河ドラマで取り上げてほしいと思うくらいだった。

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2024年07月03日

Posted by ブクログ

ノンフィクション作家さんによる記述で、複雑な政局や時代背景でもわかりやすく、感情移入して読むことができました。以前に原敬の小説を読んだことがあったので、二人を対比してみることができて面白かったです。

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2024年01月29日

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