【感想・ネタバレ】塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間でのレビュー

あらすじ

高齢女性受刑者の割合、30余年で10倍に――。罪名の9割は「窃盗」。
お金があっても盗る。出所しても何度も刑務所に戻る。人生の集大成と言える時期を刑務所で過ごす高齢女性らの本音と服役の実態とは?
社会保障問題を追い続けてきたジャーナリストが迫る。

――刑務所に新規に入る受刑者数(男女計)は最近大きく減少しているものの、受刑者全体に占める女性受刑者の割合は戦後から増え続け、今や1割。
中でも伸びが著しいのが65歳以上の女性だ。今では女性受刑者全体の約2割を占める。これは男性受刑者における男性高齢受刑者の割合(約12%)と比べても高い。
(中略)女性の犯罪は「覚醒剤取締法違反」と「窃盗」の二つで8割以上を占める。
これらの罪を犯す受刑者は「これが三度目」「五度目」など、累犯が多い。何度も罪を犯し、繰り返し刑務所に来ることを、現場では「負の回転扉」と呼ぶと聞いた。
実刑を受け、刑務所に来る前には罰金刑や執行猶予など、いくつもの段階があったはずである。それでも繰り返し罪を犯し、「負の回転扉」にはまってしまう女性が多いのは、一体、なぜなのだろう?
(本書「はじめに」より)

本書では高齢女性受刑者の増加を切り口に、「塀の外」が抱える問題や課題をあぶり出す。
さまざまなデータや刑務所の実態のリポートに加え、受刑者たちの生々しい声も収録する。
・70代、入所七度目「トマトやキュウリ1本ぐらいでここに来ちゃった」
・80代、入所三度目「時間が余り過ぎていて、孤独が中心にあった」
・60代、累犯「刑務所は来るとこじゃない。人生を無駄にするところ」
・70代、入所五度目「家族がおらん人は、ここが恋しうなると違うかな」

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Posted by ブクログ

行き場のない高齢者が衣食住を求めて犯罪を起こし刑務所に入るようなケースがけっこうあることは知っていた。この本もそういう高齢受刑者を取り上げたものだと思っていたんだけど、より広がりのある視点として女性受刑者・犯罪者に実態を取り上げてた本なのだと思う。
男性に比べ経済的な基盤が脆弱なことが多くしかも長寿の女性たちが、高齢になると困窮しかねないのはわりと想像がつく。一方で困窮だけでなく、寂しさや孤独感が影響して人とのつながりがある(つながらざるを得ない)刑務所行きを望むような割合も女性のほうが多いよう。しかも、人とのつながりに縛られたりするために、例えば麻薬常習などに陥って刑務所に入るようなケースも、より若い世代を中心にけっこうあるよう。
ことほどさように、相対的に見れば男性とはちょっと違った女性ならではの犯罪傾向、刑務所行きになる傾向のようなものがあるようで、それならば女性ならではの対応がなされるべきだと思う。それは刑務所に入ってからでなく、本来そういう施策は犯罪を未然に防ぐためになされるべきで、社会保障や福祉の手立てが対策になるはず。
また、認知症で判断能力の覚束ない受刑者もいて、そういう人が果たして懲役などによって罪を償えるのか、つまり刑務所に入れるべきなのかということもある。また、受刑者でありながらある意味手厚いケアがなされることへの批判もあり、著者もそのような思いを抱いたことを書いているが、自分としてはそういう法律の下で刑務所に入れたのなら、どのような状況であろうと面倒をみるのが筋だろうと思う。一方で、書中のある精神科医は、犯罪をゼロにしようとし、本当は責任能力があるのに責任能力なしと診断するようなこともあるという。それって、犯罪か否かしか基準がないということだろう。犯罪に至った経緯に着目し、懲役や罪を償えという発想を離れ、更生の道を開く方向性も必要だと思う。
書中では数人の女性受刑者へのインタビューも載っているが、多くが「自分が弱かった」的なことを言っているのが非常に気になった。刑務所でそういうふうに自身の弱さが罪を犯したのだと矯正指導しているのだろうか。確かに、同じ状況に面しても罪を犯さない人もいるのは事実だが、この本を読んでも思ったように非常に不安定な人生を生きてきた人が刑務所に入りやすいことからすると、自分の責に帰させるようなのもどうなのかと思う。
最終章は、女性政策のおそまつさに話が及ぶ。ここにもジェンダーが宿っている。女性向けに心身や経済・社会的立場をくんだ政策が整備されることで、女性受刑者はある程度減るんじゃないかと思った。

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2025年10月19日

Posted by ブクログ

2045年には65歳以上の女性が2割を超す推定だと言う。そして今、65歳以上の人が女性受刑者全体の2割を占める。刑務官が介護士のようになっていることも。女性が陥りやすい貧困などの原因があり、刑罰かケアかではなく、兼ね備えた仕組みが必要。
どこを読んでも知らないことばかり。でも自分の人生を鑑みても、どこかで踏み外したら可能性はあると思う。誰もが考えなければいけない問題なんだろう。簡単ではないけれど。

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2024年11月09日

Posted by ブクログ

刑務所を見るとその社会の成熟度が分かる。
チャールズ・チャップリンはそういう観点のもと、各国の刑務所を見学して回った人なのだそうです(あとがきより)。

日本の女子刑務所。
最近テレビで特集されていたこともあり、気になったので読んでみることにしました。

まず驚いたのは、女子刑務所に服役する人の大半が「窃盗」か「覚せい剤取締法違反」であること。殺人は1割程なのだそうです。
その背景として、女性がDVや貧困に陥りやすいことが挙げられています。実際、本書に掲載されている受刑者インタビューでは意にそぐわない形で覚醒剤を体験させられ、そのまま依存してしまった女性が登場します。

ネットでは時折、「日本は犯罪者に優しい世界」と糾弾する声が聞かれますが、この本を読んでいると受刑者たちのやるせない日常が垣間見えてきて、「必ずしもネットの言説が現実ではない」と改めて感じると同時に、福祉に繋げていかなければならない受刑者を刑務所で介護する問題についても深く考えさせられました。

社会のしわ寄せは常に弱者に向いていて、その弱者から世界の隙間に零れ落ちた人たちが刑務所に流れ着く。
そんな感じがしてなりませんでした。

巻末の女性たちを取り巻く状況について述べた部分などは、一般女性である私が読んでも落ち込むようなシビアな数値が示されていて、ジェンダー平等とか差別撤廃と世間は言っているけれど、まだまだ足りないんだなということが分かります。
それほど女性として生きることが、現実問題として厳しいものなのだと感じます。
(男性も厳しいが、女性はもっと厳しいという意)

勿論、犯罪者ということは被害者がいるということも念頭に置かなければなりませんが、再犯を防ぐ取り組みを考えなければ受刑者の数もまた、遅々として減っていかない。
深く考えさせられる一冊でした。

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2024年03月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

そうだよねえ、と同意。女性の貧困と格差のしわ寄せが終の棲家を塀の中にするおばあさんたち。偉そうなじいさんたちと対になってみえる。暴力が当たり前の育ちがあることを見てショックを受けるかどうか。いかんともしがたいものと、どうにかなりそうなものと。運だと思う。

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2023年08月30日

Posted by ブクログ

「刑罰とケアの狭間で」とあり、まさにそう思った。刑罰よりもその人の周りの環境、心情を理解し、不足しているところに寄り添い支えることが重要である。ケアを女性に任せてきた世の中。その考えに縛られる時代から解き放たれたい。

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2023年08月08日

Posted by ブクログ

ウーン社会の問題はいろいろなところに歪ができますね。刑務所の中にもこんな問題が出てきます。自己責任と言ってしまえばそれまでなのですが、社会の問題として考えていかなければ大変なことになりそうです・・・。Eテレで元女性受刑者のホンネの話を面白おかしくやる番組がありましたが、笑い事ではありません。累犯が多いということは、だんだんに歳をとっていくのですから・・・。そうなります。

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2024年03月18日

Posted by ブクログ

塀の中は知らないことだらけ、驚くことばかり。
女性の犯罪は「窃盗」と「覚醒罪取締法違反」の二つで8割以上を占める。
これらの罪を犯す受刑者は「これが三度目」「五度目」など、累犯が多い。「負の回転扉」と呼ぶ。

独りでポツンが嫌なのか、平均50代、80代の高齢者もいる。
最近まで、92歳の受刑者がいたというのも驚いた。

冤罪により半年近く拘置所に勾留された経験を持つ元厚生労働事務次官の村木厚子さんが、「現代社会の中で生きづらさを抱えた人が、自分の弱さもあって逃げ込んだ場所が刑務所ではないかた思います」と語ったそうだ。

弱さからくるものだけだとしても、そうならないようできることはなんだろうと思った。



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2023年09月09日

Posted by ブクログ

女性刑務所も高齢化が進み、介護が必要な受刑者も多い。介護福祉士のリハビリがあったり、外よりも手厚い場合もある。なかなか難しい問題である。

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2023年07月04日

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