あらすじ
戦後日本の闇に迫る『日本の黒い霧』『昭和史発掘』といった名作を残した作家・松本清張。戦後最大の事件と呼ばれた「3億円事件」をはじめ国鉄総裁の死を巡り日本中で議論が沸騰した「下山事件」「帝銀事件」、ベルギー人神父による「スチュワーデス殺人事件」など戦前から戦後復興期に起きた7つの未解決事件に挑んだ巨匠の推理と事実を対比。昭和100年を踏まえた今、事件の真相に改めて迫る。
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Posted by ブクログ
別冊宝島編集部・編『昭和未解決事件 松本清張の推理と真犯人X』宝島SUGOI文庫。
今年、2025年は昭和100年にあたると言う。昭和の時代には様々な未解決事件が起きたが、現代のような科学捜査能力を持たない警察には荷が重い事件が多数だったということなのだろうか。
本作は、昭和に起きた11件の未解決事件を松本清張の小説やノンフィクションから、松本清張の推理を交えて事件の真相や背景に゙迫るといった内容である。
読みながら、既に犯人が確定した解決済みの事件もあるのに、どうして昭和未解決事件として括られているのか疑問に思った。
『ファイル1 3億円事件』。1968年に起きた昭和を代表する有名な未解決事件と言って良いだろう。松本清張はこの事件を題材に『小説 3億円事件』という短編を残している。3億円事件は東芝府中工場のボーナス約3億円を白バイ隊員に扮した犯人が強奪した事件である。当時、捜査にあたった名刑事という評判の平塚八兵衛の単独犯説に対して松本清張は複数犯説で対抗していることが興味深い。
『ファイル2 下山事件』。松本清張は『日本の黒い霧』の中で『下山国鉄総裁謀殺論』という作品を残している。1949年に初代国鉄総裁の下山定則が常磐線の北千住―綾瀬間で轢死する。これが自殺か謀殺かというのが、この事件の最大のミステリーである。松本清張はGHQが関わった謀殺論を展開しているが、柴田哲孝の『下山事件 暗殺者たちの夏』『下山事件完全版 ―最後の証言』、矢田喜美雄の『謀殺 下山事件 日本の熱い日々』などでも謀殺論を展開している。
『ファイル3 帝銀事件』。冤罪の可能性が極めて高い有名な事件の1つである。こちらも『日本の黒い霧』の中の『帝銀事件の謎』で松本清張が真犯人の正体について論じている。731部隊の元隊員が関わったとする松本清張の大胆な推理は非常に興味深い。
『ファイル4 BOACスチュワーデス殺人事件』。1959年に起きたベルギー人神父によるスチュワーデス殺人事件である。松本清張はこの事件を題材に『黒い福音』という小説を残しており、作中では殺害動機にも言及している。
『ファイル5 津山30人殺し』。松本清張の『ミステリーの系譜』に収録された『闇に駆ける猟銃』はこの事件を題材にしている。横溝正史の『八つ墓村』のモデルとなった事件としても有名である。岡山の山村という極めて閉鎖的な環境の中で起きた人間関係、男女関係の縺れから悲惨な事件が起きる。
『ファイル6 芥川龍之介自殺事件』。松本清張は『昭和史発掘』の『芥川龍之介の死』でこの事件に触れている。
『ファイル7 М資金詐欺』。松本清張は『日本はの黒い霧』に収録された『征服者とダイヤモンド』でこの事件に言及している。М資金詐欺は忘れた頃にスタイルを変えながら度々起きている。
『ファイル8 群馬連れ子殺人・人肉食事件』。松本清張の『ミステリーの系譜』に収録の『肉鍋を食う女』はこの事件をモデルにしている。実際に起きたおぞましい事件であるが、少し違った内容で都市伝説的に語られる場合もある。自分が聞いた話は、子育てに疲れた田舎の若妻が我が子を殺害し、カレーにして近所に振る舞ったという内容である。
『ファイル9 別府3億円保険金殺人事件』。松本清張の『疑惑』はこの事件をモデルにしている。保険金殺人というのは、死体が見付かった上で、犯人は自分は手を下していないと主張するため、劇場型犯罪に陥りやすいという松本清張の見解には大いに賛同する。
『ファイル10 日光中宮祠事件』。松本清張の『日光中宮祠事件』はこの事件をモデルにしている。一家6人が無理心中で亡くなったとされた事件は、9年後に強盗殺人事件であったことが判明する。
『ファイル11 二・二六事件』。松本清張の『昭和史発掘』の『二・二六事件』はタイトルの通り、この事件の背景から事件の詳細について描いている。陸軍将校によるクーデター事件であるが、自分の妻の祖父は当時、警察官として事件の鎮圧に駆り出されていたと言う。
本体価格950円
★★★★