あらすじ
2年前に結婚し、夫と死別した柚子は昼間はコールセンターのシフト制で働くフリーターだ。義理の母は柚子に息子を殺されたと罵倒する。柚子が味わった地獄は、別の形となって続いていた。それは何の前触れもなく突然やってくる異界のものたちとの闇の取引だ。いつ蹂躙されるともしれない危険と隣り合わせだが、窓の外の哀れな貧しい物の怪たちの来訪を待ちわびる柚子なのであった……。(「やみ窓」)
月蝕の夜、「かみさん……」土の匂いのする風が吹き、野分の後のように割れた叢に一人の娘が立っていた。訛りがきつく何をしゃべっているか聞き取れないが、柚子を祈り、崇めていることが分かった。ある夜、娘は手織りの素朴な反物を持ってきた。その反物はネットオークションで高額な値が付き……。そんなとき団地で出会った老婦人の千代は、ネットオークションで売り出した布と同じ柄の着物を持っていた のだ。その織物にはある呪われた伝説があった……。(「やみ織」)
ほか、亡き夫の死因が徐々に明らかにされ、夢と現の境界があいまいになっていく眩暈を描いた「やみ児」、そして連作中、唯一異界の者の視点で描いた「祠の灯り」でついに物語は大団円に。色気と湿気のある筆致で細部まで幻想と現実のあわいを描き、地獄という恐怖と快楽に迫った傑作。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
終始湿度と淫靡さを漂わせていてとてもとてもとても良かった…。
「祠の灯り」とか最後胸が痛くなった。
なんとなく波津彬子さんの漫画好きな人にも刺さりそう。
Posted by ブクログ
恐ろしいのに幻想的な、夜の取引。
どん詰まりで閉塞感のある現実の描写と、怖い夢のような夜の描写のコントラストが良いなぁ。
夜の取引は非現実のようでいて、少しずつ図々しくなっていく窓の向こうの人々もだんだん上位存在のような振る舞いになっていく主人公も妙にリアリティある。人間の本質ーって感じ。
感触までリアルに伝わってくるような文章、読んでるこちらの現実感も融けてしまいそう。
「窓の向こうの人」視点の話も、切なくて胸が苦しくなるなぁ。
Posted by ブクログ
篠たまき先生のデビュー作。ずっと読みたかったのですが、なかなか単行本が手に入らず途方に暮れていたところ、角ホラから出てくれて本当に嬉しいです。楽しみにしてました。
「氷室の華」で篠作品に出逢いましたが、「やみ窓」から幻想的な雰囲気や文章は確立されていたのですね。
恐ろしくてグロテスクなはずなのに、居心地が良いと思ってしまうような…いい香りのお風呂にずっと浸かっていたいような…そんな気持ちにさせてくれる作品だとおもいます。
Posted by ブクログ
夫と死別した柚子は寂れた団地で平凡な日々を送っている。
ひたすら地味に、職場でも目立たないよう過ごしているが夜はあるサイドビジネスをしている。それは窓を通じての別の次元の人々との物々交換である。人々は柚子を祠の天女と崇めたり山姥と畏れたりしながら、現世では高値で売れる反物や薬草、熊の肝を捧げて、見返りにペットボトルを受け取る。
数百年前の人々にとってペットボトルは軽くて美しい不思議な壺なのだろう、時空を超えた取引の対価としてそこが面白い。
過去の結婚生活における抑圧された思い出や義母への恐怖からとにかく目立たず、最低限の生活だけをしてきた柚子にとって、闇と繋がる窓は唯一強みを持てる場だったのか。
闇の向こうの住人の畏敬や欲に触れながらこれから柚子がどう生きていくのか気になる。