あらすじ
中国では2005年に上巻、2006年に下巻が刊行され、たちまちのうちに話題沸騰、世界的ベストセラーとなった。日本では2008年に単行本、2010年に文庫本が、それぞれ「文革篇」「開放経済篇」として文藝春秋より刊行され、その後長く入手困難となっていた。「現代中国を知るための必読書」としてファンのあいだで伝説になっていた本書が、このたび、上下巻を一冊にまとめて復刊!
父親を亡くした李光頭(リー・グアントウ)と母親を亡くした宋鋼(ソン・ガン)が、片親同士の再婚によって義理の兄弟となったあと、それぞれの人生をどう歩んだかを描く物語。文革篇は兄弟の少年時代。地主出身という理由で父親は身柄を拘束され、母親は病気で入院し、わずか8~9歳だった兄弟は、飢えに苦しみながらも助け合って生き延びる。開放経済篇は、ふたりの兄弟の青年期。李光頭は、党の福祉工場をスタートに、したたかにたくましく廃品回収業で大儲けして起業家となる。一方、一途で実直な宋鋼は、兄弟ふたりの憧れの女性だった林紅(リン・ホン)の心を射止め、幸福な結婚をしたかに見えたが、時流に乗ることができず、悲惨な末路をたどる。
階級闘争の嵐が吹き荒れた文革時代と、拝金主義が横行する現代を、ともに狂乱の時代として描ききった怪作。プリミティブな欲望、恋愛模様、親子の情愛、血の繋がらない兄弟の強い絆、悲惨な民衆による暴力、ふんだんなユーモア、下品で猥雑な笑い、すべてがてんこ盛り。ジェットコースターのような疾走感で物語の愉しみを存分に味わえる1000ページに迫る大著。
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Posted by ブクログ
「読者に苦難を与える作家」として中国で知られる余華。学生時代に同著者の『活きる』を読んで大きな衝撃を受け、それ以来すっかり余華の作品のファンになった。その後もいくつか作品を読んできたが、『兄弟』は上下巻合わせるとかなりのボリュームがあり、なかなか手を出せずにいた。今回は久しぶりにまとまった休暇をもらえたので、じっくり中国語版を読むことができた。
前半の文化大革命を描いた部分は、胸が痛くなるほどつらかった。特に宋凡平が紅衛兵に殴り殺される場面は、本当にやりきれない気持ちになった。学生時代、美術の先生から、ご自身が紅衛兵に拘束され、街中を引き回された体験を聞いたことがある。当時は、1950年代生まれの中国人知識人たちが祖国に複雑な感情を抱いている理由を理解できず、不思議に思っていた。しかし、この作品を読んで、その気持ちが少し分かったような気がする。理不尽な迫害を受けながらも笑顔で受け流すなんて、並大抵の精神力では到底できることではないだろう。
宋鋼と李光頭は兄弟でありながら、まったく違う人生を歩んできた。林紅という存在がなければ、二人は最後まで兄弟として穏やかに生きていけたのではないかとも思う。しかし、それもまた二人の運命だったのだろう。誠実で心優しい宋鋼と、ずる賢く要領よく生きる李光頭。血のつながらない二人が兄弟になったこと自体が不思議だが、お互いを何よりも大切に思い続ける姿には何度も胸を打たれた。
後半は処女美人コンテストや林紅との不倫など、かなり過激で下品とも言える描写が多い。しかし、それらも登場人物たちの人間性や時代の狂騒を描く上では欠かせない要素だったのだと思う。
ただ、宋鋼の人生はあまりにも報われなさすぎて、本当に切なかった。ただ誠実に、真面目に生きてきただけなのに、何一つ報われることはなく、最後には男性としての尊厳さえ失い、自ら命を絶ってしまう。唯一、自分のために勇気を振り絞ったのが林紅との恋だったのに、その恋でさえ裏切られてしまった。
その一方で、ずっと狡猾に生きてきた李光頭が最後には名声も富も手に入れる。その対照的な結末こそが、この作品が読者に投げかける現実なのだと感じた。
滑稽で大げさとも思えるストーリー展開を通して、文化大革命から改革開放という激動の時代を生き抜いた庶民たちの喜怒哀楽、そして愛憎や欲望までも描き切った、まさに余華を代表する傑作だと思う。
「就是天翻地覆慷而慨了,我们也是兄弟」