あらすじ
ブランドを取り巻く環境が大きく揺らいでいる。これはしかし、今に始まったことではなく、バブル経済の崩壊の頃を端緒に、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍を経て段階的に進んできたものだ。
米国の老舗百貨店「ニーマンマーカス」、人気セレクトショップの「バーニーズニューヨーク」、ファストファッションの雄「フォーエバー21」、そして「レナウン」の経営破綻など、アパレル業界の不振、激震が大きく報じられている。そして言うまでもなく、ブランドとはアパレル業界に固有のものではなく、あらゆる業界に欠かせない存在だ。誰もが自社の、あるいは自身の「ブランド」を掲げているからだ。
そんな中、「ブランドはもはや不要である」という声も聞かれるが、本当にそうなのだろうか?
本書の著者、川島蓉子氏は40年にわたり、ファッション業界を起点として「ブランドビジネス」を見つめ続けてきた。トップから現場まで対話を重ねたインタビューは数知れず、徹底して「中」の話を聞きながらブランドビジネスについて考察を続けてきた。そして今、川島氏は次のように断言する。
「ブランドは無用なのではなく、今や未来を切り拓くために欠かせない存在と言っても過言ではない。ただしそのためには満たさねばならない要件がある」
単に看板を掲げてお客を待っているだけでは、じり貧だ。
本書ではその条件を6つに整理し、事例を含めながら解説する。扱うブランドの事例はファッションに限らず、日用品から飲食、そしてそれらを内包する「街」まで縦横無尽である。
ブランドは「これ」を意識しないと生き残れない、という6つの視点と問いに、あなたのブランドはどう備えているだろうか――。
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Posted by ブクログ
サブタイトル通り「安くても買わない時代」にとっくに突入している。過去の延長線上での改善は限界なのだ。
だからこそ「根本的な再構築の時期ではないか」という話だ。
本書は、ファッション業界を起点とした「ブランドビジネス」についての内容だ。
個人的にファッション業界とは縁がなかったため全く予備知識がなかったが、逆に本書を読んでアパレル業界、ファッション業界の複雑なルールを知ることができた。
その業界に長く居ると、それが当たり前になってしまうのはしょうがない。
私自身がファッション・アパレル業界について今まで不思議に思っていたことを「なるほど、そういう事情があったのか」という視点で見ることが出来たので、それだけで意味があったと思っている。
大量生産し大量消費する時代はとっくに終了し、特に現代の若者は全く異なる価値観で動いているというのは周知の事実。
しかし、我々大人たちはそのことをきちんと受け止めているのだろうか。
昔の価値観のまま止まっていないだろうか。
これはどんなビジネスでも当てはまることだと思う。
もし価値観のアップデートをしておらず、かつてのままの状態だったとしたら、正直今後ビジネスの世界で生き残っていくのは相当難しいと思う。
そういう意味では、業界は違えど、本書の事例は様々考えさせられた点があった。
ファッション業界と私の身を置く業界とは相当に異なる訳であるが、「かつては業界の狭い範囲のルールの中で生きていけた。それが成り立たなくなった」という点では、相当に似通っていると思う。
昭和時代に好調だった業界ほど、同じ事情に悩まされている気がするのだ。
我々が生き残るためには、今の若者たちの共感を得るしかない。
日本では超少子化が進行し、人口ゾーン的には若者世代は少数派かもしれない。
しかしここを無視してはいけないのだ。
世界的に見れば10代20代の若者はアジア圏も含め今後大きなマーケットが控えている。
そういう点で見ても、若者向けにブランドを構築していくことは本当に大事なことだと思う。
私自身そもそもファッションに疎い方だが、それでも本書内で出てきた数々のブランドの中で「そう言えば最近聞かなくなった」というものがあった。
どんな業態でも、どんな商売でも同じかもしれないが、やはり「ブランドは磨き続けないと、すぐに廃れてしまう」ということなのだろう。
私自身は別の業界のため、少し趣が異なっていたのだが、最近になって急に我々の社内で「ブランディングが大切」などと言い出す輩が出てきた。
本書にも記載されているが、確かに機能だけで差別化が図れないのは事実なのだから、その意見も分からないでもない。
それでは、ブランドがあれば差別化できるのか?
むしろ今は「ブランド」自体が同質化しているのではないか?
一朝一夕にはいかないと思うが、ファッション業界の歴史とその事例は学ぶべきところが多いと思う。
本書での考察で「『感覚』は本当に不要なのか?」という論は非常に面白いと思う。
我々企業の責務として、お客様に便利な機能を提供するのは最低限必要なことである。
そこだけに留まらず、更にワンランク上を目指し、お客様に対し「ワクワクするもの」を提供できるかが重要ということだ。
最近は「ファンビジネス」とも言われているくらい、企業やブランドそのものにファンがつかなければ、事業を継続することが難しい状況になっている。
大きなポイントは「記憶」だというのも頷ける。
確かに「記憶=思い出」であるが、思い出が残っているものは、なかなか手放せない。
ブランドものの洋服やバックなども然り、アクセサリーだって、貴金属や宝石としての実際の価値よりも、その「思い出」の方が本人にとっては重要なはずだ。
そもそも「感情」というのは、値段で計るものではないのだから、至極当然なことである。
余計に、本書で説かれている「記憶が未来を創る」という考え方には非常に共感する。
最近は、私が身を置くコンテンツ業界の中でもコラボレーションの事例が増えている。
既存知と既存知の組み合わせがイノベーションだと言われて久しいが、その先見性を見極め、「勘」と「感」を大事にする。
そして新しい組み合わせを生み出していく中で、様々な思い出をお客様の中に残していく。
このように考えると、お客様に支持され続けるためには、我々自身の「感性」を磨き続けていくしかない。
「記憶に残るビジネス」を構築していくことで、ファンの心を鷲掴みにする。
難しいとは思うのだが、生き残るためには今までの考え方を変えていくしかない。
心からそう思うのだ。
(2023/6/28)