あらすじ
高校の修学旅行で人形浄瑠璃・文楽を観劇した健は、義太夫を語る大夫のエネルギーに圧倒されその虜(とりこ)になる。以来、義太夫を極(きわ)めるため、傍からはバカに見えるほどの情熱を傾ける中、ある女性に恋をする。芸か恋か。悩む健は、人を愛することで義太夫の肝(きも)をつかんでいくーー。若手大夫の成長を描く青春小説の傑作。直木賞作家が、愛をこめて語ります。
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Posted by ブクログ
伝統芸能の文楽という事で読む前に若干の躊躇はあったものの、あっという間に読み終えた。
主人公の健(タケル)は高卒10年目の太夫。師匠は人間国宝だが、芸には厳しいのにその他はユルユル。京都公演に女性を招待し、大阪の自宅に戻らず遊びまくる。師匠の命令で組まされる三味線は偏屈で知られる兎一郎。
芸事に熱心に取り組む健と兎一郎。その健に恋の相手が出来る。女性に甘い師匠に、女性との付き合いを禁止されたり、応援されたり。
兎一郎と師匠の深い関係や、ライバルの師匠への一時的な弟子入りなど、あちこちに読ませどころ満載だった。
人形浄瑠璃、文楽といった難解な世界を、下世話な筋から解説してもらい、本物を見たくなってしまった。
Posted by ブクログ
文楽という日本の伝統芸能を極めようとする青年の話。芸か恋か、悩む健は人を愛する事で文楽の肝を掴んでいく。
文楽を知らなかったけど、だんだん面白く思えてくる。話自体はさすが三浦しをんって感じで、読みやすくてそれぞれのキャラが濃くてスラスラ頭に入ってきた。またこの著者の本を読みたいと思うような本。
Posted by ブクログ
文楽見たい、見たい、見たい。
この短めの小説を読む間、何度も公演情報を調べました。
それくらい、文楽もそれに関わる人たちも魅力的。
古典作品を筋立てに組み込んでいく物語、大好き。
その中でもこの小説は秀逸。
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文楽は全く知らなかったが、それでも主人公の文楽への想いと様々な人との関わりが、躍動感を持って書かれており、あっという間に読み終えてしまいました。
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「文楽」の読み方すらはっきりしなかった僕ですが、とても楽しく読めました。
人生を懸けて芸を磨いているから、ふとした事が芸に活きる瞬間がありました。 恋でダメになる様も人間らしく良かったです。
少し文楽に興味が湧きました。
Posted by ブクログ
漫画みたいで、面白かったです。
仏果を得ずの意味が最後に分かる流れはよかったです。
芸事を極めるには、何もかもより優先しなければならない、厳しいです。
文楽は社会とかでしか学んでこず、死ぬまで高みを追求するものなのですね。師匠と弟子の関係、今はこういう場でしか見ない。しをんさんの、一見軽妙な文体で、文楽の厳しさや奥深さを、わかりやすく教えていただき、実際にどんなものか見たり読んだりしたいです。
Posted by ブクログ
義太夫の健が文楽の道を突き進むために悩んだり、すこんと落ちた恋に悩んだりする話。
三味線の兎一郎、師匠の銀太夫、師匠の相三味線の亀治、兄弟子の幸太夫、みんな文楽に貪欲で、チャーミングなキャラなのに舞台上では底知れない凄みがある。
小学生のミラちゃん、健が恋した真智さん、銀太夫の妻の福子さん、謎の多いアケミちゃん、文楽に惚れた男の周囲にいる女性はみんな強くて美しい。
熱量高く生きる人々が愛おしく、文楽を観に行きたくなるようなお話でした。
流石です!
仏果の世界は全くわからなかったので、物語に入り込めるか心配だったんですが、
やっぱり三浦しをんさんの書かれる世界は素晴らしいです!どんどん物語の中にのめり込めました!
もっと読み続けていたいと思う作品です!
Posted by ブクログ
大好きな文楽がこんな青春胸熱展開のお話になって現れてくれたことに感謝。作品に対する思いや考察、表現の妙、芸の厳しさ、伝えていくことの重責、重たいけどそれをしっかりと受け取って、繋いでいこうとする登場人物たちに感動した。伝統芸能は面白い。真智さんとの恋もはらはらしたけどそういう愛の形もありでミラちゃんもかわいかったから文句なしに面白い小説だったと思います。
Posted by ブクログ
人形浄瑠璃・文楽の舞台に立つ男たちの話。義太夫に人生のすべてを捧げる、恋人は二番目という健の人生を追って、芸事に人生をかける姿勢に尊敬の念が出ます。人形浄瑠璃に限らず、歌舞伎、俳優、声優等誰かを演じる仕事では、その役の「人生」を深く理解しなくてはならない。深く理解するには仕事への情熱が必要だと感じました。
真智もミラちゃんも結構肉食というかグイグイで、これが大阪人か!?ってなりましたw 自分が接したことのないタイプに触れられるのも読書の醍醐味〜
Posted by ブクログ
読んでいる間に、たまたま大阪なんば周遊する機会があったので、親近感倍増でした。(エッセイを除いて)殆どの作品を読んでいますが、「風が強く吹いている」に通じる、終盤の吹っ切れた疾走感が気持ちいいです。他の作品もそうですが、じわり…ではなく、一気に盛り上がる筋で読者を引き込む型が得意なのかな。ただ、書き振りとして、大好きな作家さんなのは変わりないのですが、小中学生の作文がごとく、「××は、『〜』と言った」の連発は、いただけない。一度気になると、ストーリーよりも、文体に気が取られてしまいました。
Posted by ブクログ
何という爽やかな読後感。文楽というあまりなじみのない世界なのですが、そこの人間関係が面白い。師匠のライバルに弟子入りするくだりは、なかなか熱いです。
文楽の登場人物の解釈に悩む主人公。そのヒントが日常の出来事にあったり、逆に日常の悩みに文楽が絡んできたりと、文楽の筋や登場人物に日常が絡んでいく展開が素晴らしい。
「心中天の網島」が特によかったなぁ。文楽に興味を持つことができました。
Posted by ブクログ
「生きて生きて生きて生き抜く」
健の熱さがびしびし伝わってきました
文楽って難しい だからこそ面白い!
しをんさんの作品の登場人物は、本当に生きている気がしてきます
どこかにいる健太夫、長生きしてね
Posted by ブクログ
あなたは、日本の”伝統芸能”と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
”歌舞伎”です。いや、”能楽”でしょう。おいおい、”狂言”を忘れてどうすんねん…。はい。この質問にはさまざまな声が聞こえてきそうです。私たちの国には古の世から伝えられてきた数多の”伝統芸能”が存在します。江戸時代に隆盛を極めたこれらの”伝統芸能”は一度は何かしらご覧になったことがあると思います。かく言う私も”歌舞伎”は高校生の時に学校行事として鑑賞に行き、大人になっても幾度か足を運んでいます。オペラやバレエはそれはそれで華やかな魅力がありますが、日本の”伝統芸能”にはやはり独自の魅力があると思います。
そんな”伝統芸能”の中には、ユネスコの無形文化遺産に登録されているものもあります。上記した中では”能楽”、”歌舞伎”がそれに当たります。一方でもう一つ指定を受けているものがあります。そう、それが『文楽』です。”人形浄瑠璃”という言い方をすれば聞いたことがあるとおっしゃる方も増えるでしょうか?『人形』の印象が強い『文楽』。しかし、そんな『文楽』は、人形遣い、三味線、語り手(大夫)が一体となって舞台を作り上げていく総合芸術でもあるのです。
さてここに、そんな『文楽』の舞台裏を描いた物語があります。一人の語り手=『大夫』に光を当てるこの作品。そんな『大夫』の『文楽』に対する思いが物語を引っ張っていくこの作品。そしてそれは、『文楽』という”伝統芸能”の奥深さに読者が感じ入る物語です。
『おまはん、六月から兎一郎と組みぃ』と『楽屋の胡蝶蘭に水をやってい』る時に銀大夫に言われたのは主人公の健(たける)こと笹本健大夫。『「これって、一鉢いくらぐらいするんだろ」と考えていた』ため反応が遅れ『聞いとるんか、こら』と扇子を投げられ『聞いとります』と答えた健。『あの』と『おずおずと切りだした』健は『兎一兄さんと組むんですか?俺が?』と聞き返します。『そや』と返す銀大夫は『若手のなかで、あれぐらい弾きよる三味線はおらんで。おまえにはもったいないぐらいや』と続けます。それに『や、それなら俺は亀治兄さんがいいです』と返す健に『アホ』と言う銀大夫は『亀ちゃんは俺の相三味線や』と『憤然と』します。しかし、『師匠。俺、兎一兄さんといっぺんも話したことないですよ。十年間、ほとんど毎日顔合わせとるのに、いっぺんもですよ』と続ける健。そんなところに『銀師匠』とやってきた亀治は『ちょっと稽古をつけていただきたいところがある』と言うと、銀大夫を連れて行ってしまいます。『ええな、健。もう決まったことや。兎一とみっちり合わせとき』と言い残して楽屋を後にした銀大夫を見送る健は、『「黄金に勝る銀大夫」と称される人間国宝も、亀治のまえでは形無しだ』と思います。そして、『俺に兎一兄さんと組めとは、どういうことだろう。厄介なことになりそうだ。というよりも、厄介事を押しつけられそうだと言うべきか』と『楽屋で一人、困惑のうなり声を上げ』る健は、『とはいえ、師匠の意向は絶対だ』と考えます。『義太夫三味線、鷺澤兎一郎の評判は、文楽の技芸員たちのあいだでだいたい一致していた。曰く、「実力はあるが変人」』、『兎一郎に関する妙な噂は、枚挙にいとまがない』と思う健。
場面は変わり、『連日ほぼ満員』という『国立劇場で行われる東京公演』で『舞台袖から、「幕開き三番叟」を眺める』健。そんなところに『ここにおったんか。師匠が呼んだるで』と『兄弟子の幸大夫』に声をかけられた健は、『幸大夫に付き従い』『舞台裏から楽屋の廊下に入』ります。そこには『部屋の一番奥の鏡台を背に座り、戸口に立つ健をじろりとにら』む銀大夫と、『そのまえに』『正座して』座る亀治と兎一郎の姿がありました。そして、『健』と切り出した銀大夫は『おまえまだ、兎一郎と一回も稽古しとらんらしいな』と『重々しく口を開いた』銀大夫に、『すんません』と返す健。『もう一カ月もないで。はじめて一緒に床に上がるいうのに、なに考えとるんや』と続ける銀大夫に、『なに、もなにも、稽古しようにも兎一郎がいなかったのだ』と内心思うも『「すんません」とひたすら謝』る健。そんな時、『銀大夫師匠。こちらのお弟子さんと組むというのは、来月の公演かぎりのことでしょうか』と『思いがけ』ず語り始めた兎一郎。それに、『しばらくは、あんたと健のコンビでやってもらう。これは、俺だけの考えやない。蝶二はんも同意しはったことや』と動じることなく返す銀大夫に、『お断りします。俺は特定の大夫と組むつもりはありません。来月の公演だけにしてください』と毅然とする兎一郎。それに銀大夫は『あほう!』と『八十歳の老人とは思えぬ俊敏さで立ちあがり、扇子で健の頭をしこたまはた』きます。『なんで俺を殴るんですか!』と抗議する銀大夫に『俺の弟子やからや!』と言い放つ銀大夫。そんな銀大夫は『急に話題』を変え、『健。おまはん、ぼらんちあに行ったったな』と、『小学生への文楽指導ボランティアのこと』を話し出します。『どや、楽しくやっとるか』と訊く銀大夫に『はあ、まあ…』と答える健。『そうかそうか』と『満足そうにうなず』く銀大夫は『兎一郎、あくまでも健と組みたない言うんなら、あんたにも新津小学校に行ってもらうで』と続けます。それに、『えっ』、『銀大夫師匠、それは…』と狼狽し出した兎一郎に、『そんなら、健と組みなはれ』と言う銀大夫は『「話は終わり」と手を振』ります。そして、『六月の大阪公演で組む』ことになった健と兎一郎のそれからが描かれていきます。
“文楽に情熱を傾ける若手大夫の奮闘を描く青春小説。健は大夫の人間国宝・銀大夫を師匠にもつ。ある日師匠から、技芸員から「変わり者」と噂される三味線、兎一郎と組むように言われる。不安と戸惑いを覚えながら稽古に臨むが、案の定、兎一郎は全く違う演目をひき始める…”と内容紹介にうたわれるこの作品。表紙のイラストに描かれる『文楽』の世界が描かれていきます。とは言え、『文楽』と言ってもピンと来ない方も多いと思います。かく言う私も全くピンときません。日本の”伝統芸能”の一つ…この程度です。私は三浦しをんさんの小説をほぼコンプリートしているのですが、この作品のことを長らく存在は知っていても手を伸ばすことに躊躇してきた理由がここにあります。なんだか、難しそう…それが私の正直な思いの一方で、しをんさんコンプリートのために重い腰を上げて手にした作品、それがこの作品を読むまでの経緯です。では、そんな作品を出された作者の三浦しをんさんはどのようにして『文楽』と出会われたのでしょうか?
“大学の専攻が、演劇・映像で、特に自分が好きだったのが、民俗芸能系と、伝統芸能だったんです。ですので、一番最初は授業で劇場に行って、おもしろいなぁと思いましたね”
そんな風に『文楽』との出会いを説明されるしをんさんは、その後、作家となられエッセイを連載されるようになります。そして、そのエッセイをまとめたものが2007年5月に刊行された「あやつられ文学鑑賞」という『文楽』入門とも言える作品になり、さらに同年11月に刊行されたのが『文楽』を題材に執筆されたこの作品です。そうです。私が遠ざけてきた『文楽』は、しをんさんにとってはとても大切な位置付けになるものなのです。
…と書いてきても『文楽』の知識が全くない人間にはどうしてもそこにハードルを感じます。しかし、心配はいりません。しをんさんは私のような『文楽』って何?という全くの初心者でも知らず知らずのうちに物語に馴染んでいけるように分かりやすく物語を展開してくださいます。とは言え、実のところ『文楽』のそもそも論はどこにも記されていませんので、こんな時は、ChatGPTさんの力を借りましょう。
● 『文楽』について100文字以内で説明してください
ChatGPTさん: “文楽は、日本の伝統的な人形劇で、江戸時代に発展しました。人形遣い、三味線、語り手が一体となり、感情豊かな物語を表現します。特に美しい人形と細やかな演技が特徴で、歌舞伎と並ぶ重要な国舞台芸術とされています”。
はい、ありがとうございます。要点をしっかり押さえた分かりやすい説明ですね。便利な時代になりました(笑)。一方でこの作品は『文楽』というより、『文楽』の世界に身を捧げる人たちの生き様を描いた物語とも言えます。では、そんな人たちが見せる舞台裏について今度はしをんさんの語りに耳を傾けてみましょう。
● 『文楽の舞台裏』について
・『文楽の技芸員は、大夫、三味線、人形遣い、あわせて九十人弱』
・『同じ顔ぶれで、何十年も一緒に公演の日々を過ごす。基本的には、一月ごとに東京と大阪の劇場を行き来し、合間には地方公演があるから旅もする』
・『先輩と後輩。師匠と弟子。芸の道を行く同志でありながら、矜持のぶつかりあう好敵手。複雑で濃密な人間模様が繰り広げられている』
なるほど。『先輩と後輩。師匠と弟子』という昔ながらの厳しい芸の世界がそこにあることがわかります。物語では、そんな『文楽』の舞台裏が全編に渡って描かれていきます。そして、そこで演じられるさまざまな作品が順に紹介されてもいきます。少し見てみましょう。
・菅原伝授手習鑑(寺子屋の段): 『菅原道真の息子の首を差しだせ、と命ぜられた大人たちが、身代わりにふさわしい子どもを必死になって物色する話』
なんだか物騒ですね。主人公の健も『いくら主君の子を助けるためとはいえ、そりゃないだろ』とこの物語を嫌がります。
・ひらかな盛衰記: 『木曾義仲が源義経に討たれたことによって起こる、義仲の遺臣と鎌倉方との攻防を描いた時代物』
こちらも『「主君の子の身代わりに、自分の子が死ぬ」という、文楽でおなじみの王道パターンを取り入れている』作品のようですが、健は釈然としない思いを抱いています。この主人公の人間臭さというか、我々でも抱くような思い同様に物語を見る健の姿が彼への親近感に繋がり、そんな健の目を通して『文楽』の作品に親しく接していける効果を生んでいきます。最後にもう一つ有名な作品をご紹介しておきましょう。
・女殺油地獄: 『油でぎとぎとになりながら、若い男が女を殺す話』
えっ?という感想を抱かれた方もいらっしゃると思いますが、実はこれは、健がボランティアで小学生に『文楽』を教えていることと関係します。このなんとも言えない物語を健は小学生にこんな風に説明するのです。確かに極論そうなのだと思いますし、実際、『小学生たちは甲高い声で、「気色悪いなあ」「そう?むっちゃおもしろそうやん」としゃべりまくる』という反応を見せてくれます。
では、そんな『文楽』を演じる場面も引用しておきましょう。『女殺油地獄』の『河内屋内の段』です。『嵐のように激しく、緊密に展開した』という健と兎一郎が務める舞台の様子です。
『床本を開き、「掲諦掲諦波羅掲諦」と健が語りだした瞬間から、客席と舞台はどことも知れぬ時空を漂いだす。三百年前の大坂と、現代の大阪と、これから三百年後の大阪とが渾然一体になった、劇の力だけが導くことのできる場所へ。そこでは時間を超えて、ひとの心が交じりあう』。
↓
『本舞台では与兵衛の全身から、自由への希求が色気となって放射した。兎一郎の三味線は、破壊への激しい欲望を叩きつけ、ひるむ臆病さを掬いあげ、うねりとなって劇場じゅうの空気を揺らした』。
↓
『健は語る。健は感じる。ときとしてひとの魂が行くことになる、暗い道がどこまでものびている。与兵衛はもうすぐその道を行く。「越ゆる敷居の細溝も、親子別れの涙川」』
一部の抜き出しではなかなかわかりづらいと思いますが、『文楽』の確かな舞台がそこに浮かび上がります。”物語好きは、ハマりやすい芸能”という『文楽』の世界。これは、確かに本物の舞台を見たくなりますね。
さて、そんな『文楽』の舞台裏を取り上げたこの作品は主人公の健をキーに二つの舞台が並行して描かれていきます。一つは『文楽』で大夫として修行の日々を送る健の姿を見るもの。そして、もう一つが、そんな健が小学生に『文楽』を教えるボランティアをしている姿を見るものです。物語はそんな両者が一体になっていく様が描かれていきます。そんな物語は、主人公の健が師匠である銀大夫から『おまはん、六月から兎一郎と組みぃ』と言われたことから動き出します。『実力はあるが変人』と噂されている兎一郎は、一癖も二癖もある人物であることが描かれ、当初は組むことに躊躇していた健ですが、銀大夫の強い意向を受け、兎一郎と組むことになります。
『ええか、大夫と三味線は夫婦みたいなもんや。夫婦が仲ええ必要あるか?』
納得できるようなできないような微妙な言葉ではありますが、言わんとするところは理解できます。健も色々と思うところはあっても『師匠の意向は絶対だ』と思う中に、兎一郎との関係を築いていきます。
『恒常的にコンビを組むと決まったからには、少しでも歩み寄りたかった。気むずかしい兎一郎に振りまわされ、稽古が疎かになるのは絶対に避けたい。せっかく劇場に足を運んでくれた客のまえで、中途半端な義太夫を語りたくなかった』。
あくまで真摯に『大夫』の役割に、『文楽』に向き合っていく健の姿が描かれていきます。そんな健は上記した通り『小学生への文楽指導ボランティア』を続けています。物語は舞台に向けて稽古に励んでいく健とは別に『ボランティア』の場で別の顔を見せます。しかし、共通するのはあくまで『文楽』に真摯に向き合う姿勢です。
『負けられない。負けたくない。ほかのものの芸と比べてではなく、自分のなかにある理想の語り、理想の音に、負けたくなかった。どうせ届きやしないと諦めて、怠惰に流れるような真似はしたくない』。
『文楽』を極めようとする健の一途な心の声が読者にも響いてくる中に物語は展開していきます。このあたりは、「舟を編む」、「愛なき世界」、そして「風が強く吹いている」といったしをんさんの熱さが前面に出る物語群に流れるものと全く同じです。『文楽』の舞台裏を描いたこの作品。そこには、『文楽』を極めんとする人たちの真摯な心に触れる物語、『文楽』の舞台裏を包み込む熱さに包まれる物語が描かれていました。
『もし文楽の神さまがいるのなら。健は楽屋の通路を歩きながら願った。俺を長生きさせてくれ。もらった時間のすべてを、義太夫に捧げると誓うから』。
そんな思いの先に『大夫』の道を極めていこうとする主人公の健。この作品では、そんな健の姿を通して『文楽』の舞台裏を興味深く覗き見ることのできる物語が描かれていました。『文楽』の奥深さを感じるこの作品。そんな『文楽』にかける人の思いの強さに感じ入るこの作品。
『文楽』に興味のある方はもちろん、どんなものか覗いてみたいという方にも是非手にしていただきたい、熱い、熱い物語でした。
Posted by ブクログ
健(たける)は文楽の技芸員で大夫(たゆう)。文楽の技芸員は大夫、三味線、人形遣いあわせて90人ほどで同じ顔ぶれで公演の日々を過ごす。大きく文楽の家系の者と研修所出身の者がいる。健は高校の修学旅行で文楽を知り研修所に入った。18で研修所入り、2年後に銀大夫に弟子入りして、今年で十年目。とにかく芸に熱心で、いかに極めていくか、毎日どのように過ごしているかが、文楽十年目の健の生活から私たちも学べ、健の真っ直ぐな向上心が気持ち良い。でもやっているのは人間だから、もちろん人付き合いの問題もあるし、恋もする。夫婦喧嘩も。健は芸に邁進し、モテなくもないが、移動ばかりで長続きしないので積極的に付き合うのを止めていた。しかし、突然恋の川は流れ出す。これは芸の道を一段深める時の話であり、文楽への誘いであり、魅力的だが恋するのに難しい立場の青年の恋物語であり、人間模様の話。これまで読んだ三浦しをん作品より笑い少なめで、内容も濃かった。『幕開き三番叟』『女殺し油地獄』『菅原伝授手習鏡』『契情倭荘子』『仮名手本忠臣蔵』『日高川入相花王』『ひらかな盛衰記』『艷容女舞衣』『本朝廿四孝』『心中天の網島』『妹背山婦女庭訓』あたりの演目はあらすじを知っていたほうが断然この本を楽しめます。
大人の恋愛が描かれたりするので、中学校以上。文楽は観たことないので、演目を勉強して、観劇したいとおもいました。
Posted by ブクログ
あまり馴染みのないジャンルでありながらその独特の雰囲気を感じさせ、世界観に入り込ませる描写と、人間関係の複雑さがありつつも、邪魔しない程度にコメディ風な部分がありテンポよく進むので読みやすかった。
Posted by ブクログ
三浦しをんさんの小説の登場人物はいつも魅力的で、文楽という私には馴染みの薄い世界であっても、すぐにひきこまれてしまう。
今回も、主人公が、等身大の悩みを抱え、ときに恋愛に振り回されたりしながらも、周囲のひとたちと切磋琢磨しながら、芸の道をひたすすむ様がとても良かった。
文楽、一生縁がなさそう、と思っていたのに読後、人形浄瑠璃について調べてしまっていた。意外なほどに身近なテーマで、演出も豪華で、エンタメ性のあるものなのだと知り、驚いた。
Posted by ブクログ
文楽ってほんとに馴染みがなくて読み進められるかな…と思ってたけど、
三浦さんの書く文で情景が浮かんだ。すごい…。
ひとりひとり性格や文楽に対しての取り組み方は違うけど、真剣に人生をかけて取り組んでいる様はみんな一緒で、
必死さをひしひしと感じた。
主人公が役を演じているとき、自然と息を飲んでしまったよ。
Posted by ブクログ
しをんさん凄いです。
これを読むと文楽を見に行ってみたくなります。
箱根マラソンの話の時もそうでしたが、しをんさんの本を読むと、今まで興味のなかった事を始めてみようかと思ってしまいます。
さすがにマラソンは断念しましたが、文楽は行ってみようと思います。
Posted by ブクログ
偶然にも、文楽を観に行く日に読み始めました。YouTubeで演目を調べながら、読みました。読み終わっちゃうのが寂しくなるほどに面白かった。文楽、もっと調べてみよう。
Posted by ブクログ
先日文楽を拝観する機会があり、無性に文楽を題材にした本が読みたくなって、久しぶりに手に取った。初めて読んだあの頃よりも、文楽に対する解像度がぐっと高まっているからか、ありとあらゆる光景、三味線の音色が聴こえてくるような気がして、もう私は文楽の虜になっているようです。解説文にもありましたが「人間ってこういうもので、弱さと悲しさが美しくもある」という真理を解いてくれる文楽の面白さたるや…三浦しをんさんのおかげで、文楽に対する熱がより高まったので、近いうちにまた観劇して参ります。
Posted by ブクログ
人形浄瑠璃・文楽。大夫と三味線は夫婦みたいなものと最初の方に読んでからこの物語は想像し易かった。人形遣いの人々に興味は湧いたが今回はあまり伺えず。個人的にはここまで深く文楽の芸が描けているのだから恋愛系ではなく、文楽にもっと深く悩む青年の様子がみたかったかもしれない。。
Posted by ブクログ
私、学生時代の最後の二年は大阪で過ごしていました。
その当時気に入って通ったのが文楽。日本橋(にっぽんばし)まで電車で通い、国立文楽劇場でひと時を過ごす。結構通いました。
今となっては、文楽が好きだったのか、文楽が好きな自分というイメージに酔っていたのかは分かりません。でも、そういう歴史にまみえることが出来る関西に居られたのは幸せな思い出の一つであります。
梅田で電車を降りて曽根崎警察署を発見すれば、『すわ、曾根崎心中の曽根崎か』となり、大阪城を見れば、『やや、豊臣秀吉の築城ぞ』となる。
もちろん、私の出身の東京はじめ、東日本にも史跡はあります。ただし、生活に息づく感は余りない気がします。
江戸城跡は皇居になっていますが、普通近寄りませんよね。あとは何だろ。大森貝塚とか?大森とかじゃあ駅降りないなあ。
いずれにせよ、私が数年を過ごした大阪では、そこここに、かつて教科書で習った事柄が「でん」と鎮座し、歴史の中に生きている気がしたのでした。
・・・
で、やっと本題です。
本作、三浦しおん氏による文楽をテーマにしたエンタメ小説であります。2007年の作品。
人間国宝の太夫に弟子入りした健の成長物語、とでも言いましょうか。
主人公は太夫という、文楽でいう語り手パートの男性(といっても30歳)。相方となる三味線引きとの関係構築、気難しい師匠の面倒、そして気になる女性と芸事への専心との間の葛藤など、ドタバタになりすぎず、かつ面白さもある、良くまとまったエンタメ小説となっております。
ついでに言えば、古典・文化の理解・解釈の仕方についてもとても参考になりました。
古典(芸能)って教科書に載っていても面白くないですよね(うちの子どもたちは散々無理だとか意味不とか文句を言っていた)。
主人公の健も、登場人物の気持ちがどうしても理解できず、状況や本人の立場に沈潜してどのように表現すればよいかを考えあぐねていました。
古典芸能に限らず、外国語作品、ないしは時代を超えた作品、或いは歴史、いやいや、もっと大風呂敷を拡げればあらゆる事柄は彼我との差を認識しつつ、相手側に沈潜する、当時の状況を鑑みて解釈するべきなのでしょう。
なーんてことにも考えさせられる作品でありました。
・・・
ちなみに私が学生時代やっていたフラメンコも何となく文楽と似ているかもしれません。
バイレ(踊り)に注目が集まりますが、ギターとカンテ(歌い手)とのバランスと調和があって舞台が整います。
文楽も人形使い、太夫、三味線と三者の合致があり舞台が整うのだろうと思いました。
まあこういうとバンドとかもそうですがね。
完璧にシンクロしたときの気持ちよさってのはこれらの芸事はどれも感じられるのだろうなあと思いました。
・・・
ということで久しぶりの三浦氏の作品でした。普通の人がうかがい知れない伝統芸能の内実や葛藤をエンタメに仕上げた佳作と感じました。
三浦しおん氏の作品は私のお気に入りになりそうな予感です笑 今後も渉猟して参ります。
Posted by ブクログ
知人に誘われて文楽を初めて観劇し、その後、さらに理解を深めたくこの書を選んだ。
文楽入門の書としてはとても分かりやすく取っ付きやすかった。
が、全くの素人では、演目の内容にも絡めてのストーリー展開の為に理解しにくいかもしれない。
文楽感鑑賞も、この書も、文楽についての事前予習が必須です。
Posted by ブクログ
文楽のこと何も知らない、なんなら忠臣蔵のストーリーすら知らない。YouTubeで上がってる文楽を見たら、三味線の音色の多様さにびっくりした。
銀師匠さんが最高にかわいい。
Posted by ブクログ
天真爛漫スカッと爽快朝ドラのような物語。
わたしの間道路ポイントは兎一郎がたけると組むと決めて銀の字に挨拶に行くところ。
そして、酒井順子の文庫解説もとてもイケてるのでした。
Posted by ブクログ
文楽
が義太夫(歌)と三味線と人形で構成されていることすら知らなかったから、知らないこと満載で楽しめた。一回でもいいから生で見てみたいなあ。
健大夫の修行は続く!
Posted by ブクログ
文楽ってなんだっけ、、?って感じだったけど、面白くてサクサク読み終えてしまった!
文楽に真摯に向き合う健が超かっこいい!
恋愛は芸の肥やしになる的なこと、芸能の人はよくいうけど、こういうことなんかな〜って思って読んだ。