あらすじ
日本の人材開発研究の第一人者が12,000人の大規模調査を駆使して編み上げた、「一億総転職時代」最高のテキストが誕生!
・巷に溢れる「転職本」のいったい何が問題なのか?
・「マッチング思考」ではなく「ラーニング思考」の転職とは?
・圧倒的な効果を生み出す「アンラーニング」のすごさ
・「ミドルの転職」の結果を大きく分けるポイントはこれだ……
いま転職を考えている社会人はもちろん、これから社会に出る学生、悩める中高年ミドルまで、これからの働き方と日本社会を考えるうえで、全日本人必読の一冊。
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Posted by ブクログ
これまでの社会人の経験を振り返るための手がかりとして、本書を再読した。以下は気づいた点のメモ。
本書は、日本社会における転職を、感情的判断や偶発的出来事としてではなく、データと行動科学に基づいた体系的な現象として捉え直す試みである。その出発点として、著者らは日本の転職観に潜む「隠れた前提」に着目する。すなわち、本人が自分の志向や能力を正確に理解していること、その自己像が短期間では変化しないこと、企業や仕事の実態を求職者が十分に理解していること、企業と仕事が安定的に維持されること、そして両者が変化せずに相互に適合する機会を得られるという前提である(p.40)。しかし現実には、人も組織も常に変化し、予測困難な状況を生きている。こうした前提を無批判に受け入れると、転職の意思決定やキャリア形成を誤って理解する危険がある。この前提を解体するところから、本書の議論は始まる。
第1章では、人が転職意向を持つまでの心理過程が多角的に整理される。多くの場合、人は日常的な職務不満や組織の非合理性に接しても、即座に転職を決意するわけではない。不満の存在そのものよりも重要なのは、不満が「将来においても改善されない」と個人が予測するかどうかである。著者らは、職場の課題が時間とともに改善される見込みがないと判断したとき、つまり未来への期待がしぼむ時点で転職意向が強まるという研究結果を示す(p.62)。この状態はしばしば学習性無力感として説明される。努力しても状況が変わらない経験を蓄積することで、改善を試みること自体が無意味だと学習してしまう現象である(p.58)。
さらに、意思決定に過度の時間がかかり、会議が冗長で、組織の人間関係が硬直している場合、職場全体の「重さ」が心理的負担を増大させる(p.67)。形式的な手続きを重視しすぎる場や、変革に抵抗する文化が強い環境では、この重さが増幅され、働く人の疲弊感を引き起こす。そこに心身の不調、同僚の退職、転職経験者からの誘いといった「最後のダメ押し」が加わることで、離職意向は最終的な決断へと収斂していく(p.72)。このように、転職は突発的な選択ではなく、複数の心理的要因が累積するプロセスとして理解されるべきである。
この心理過程を定式化したものが「D×E>R」である(p.49)。ここでDは現状への不満(Dissatisfaction)、Eは転職力(Employability:転職市場で行動し、選択肢を探索し、職務経験を可視化し、応募行動を遂行できる能力の総体)、Rは転職への抵抗感(Resistance:経済的不安、組織への愛着、生活変化への恐れ、家族要因など)を意味する。転職が現実的選択肢として浮上するのは、不満と転職遂行能力の掛け合わせが、転職に伴う抵抗感を上回った瞬間である。この式が示すのは、転職意向と行動が「感情」と「行動可能性」の相互作用によって決定されるということである。転職力が高ければ、不満が比較的軽度であっても転職が視野に入る。一方、転職力が低ければ、不満が激しくても行動へ移れない。この点は、転職を行動科学的に捉える上で重要な視座である。
第2章では、転職活動そのものが「自己へのリフレクション(内省)の連続」であることが語られる(p.107)。転職活動では、過去の経験を棚卸しし、どのような場面でどのような能力を発揮したのかを明確化する作業が不可欠となる。これは単に経歴を列挙する作業ではなく、経験の意味づけを通じて「自分がどのように価値を提供してきたか」を再発見する過程である。この内省を積み重ねることで、個人の職業的アイデンティティは更新され、環境に応じて柔軟に変容していく。ここで重要なのは、エンプロイアビリティが固定的属性ではなく「行動として発揮される能力」であるという視点である。求人情報の収集、応募書類の改善、面接に向けた準備、ネットワークとの接触など、転職活動のあらゆる局面で、本人の学習と行動が問われる。
第3章は、転職後の幸福感を規定する要因に焦点を当てる。著者らの分析によれば、転職動機が前向きであるほど、転職後の幸福感が高まる。特に、社会的意義のある仕事をしたいという志向(ソーシャル)、スキル向上の志向(チャレンジ)、役職や職責向上の志向(キャリア)は、幸福感につながる三つの中心的要素である(p.113)。これらは、単なる逃避ではなく未来志向の接近動機であり、転職を通じて自己の成長軌道を設計することに関わる。逆に、現状から逃れるためだけの転職や、感情的反応に基づく転職は、結果を伴いにくい。
第4章では、転職が越境学習としてどのような意味を持つかが論じられる。越境とは、異なる制度世界に移動することで、これまで自明視していた行動様式や価値観を相対化し、自己の働き方を再構築する学習プロセスである。異なる組織文化に身を置くことで、新たな職務遂行規範、評価体系、人問関係の流儀などに接触し、自身の仕事観が刷新される。転職後に柔軟に働き方を調整できる者は、そもそも日頃から学習時間を確保し、経験を熟考している者であるというデータが示される。つまり、学習習慣の有無が越境後の適応を大きく左右し、キャリアの持続的発達に影響する。
第6章では、転職後の適応を組織側の視点から分析する。転職者の活躍は、個人の能力だけではなく、組織の構造や文化に大きく規定される。内部昇進を重視する組織では、暗黙知の共有が中心的役割を果たすため、外部からの転職者が職務を理解するまでに時間がかかる傾向がある。これに対し、専門性が中心となる組織では、外部採用が知識更新の手段として扱われることが多い。いずれの場合にも重要なのは、役割の明確化、初期段階での期待調整、情報提供、心理的安全性の確保という。
また、転職者自身による働きかけの重要性も指摘される。著者らは、転職後の適応において「自分も変わりうる存在であり、組織も変わりうる/変えられる存在である」という前提を採ることが有効であると述べる(p.240)。この前提に立つことで、転職者は受動的に組織に適応するのではなく、能動的に環境と相互作用しながら自分の働き方を整えていくことができる。フィードバックを求める行動(フィードバック・シーキング)や、人脈と情報ネットワークを構築する行動(ネットワーク・シーキング)は、越境後の不確実性を軽減し、職務遂行能力を迅速に高める効果を持つ。また、職種を問わず重要になるソーシャルスキルとして、関係形成、関係維持、そして適切に主張する力が挙げられる(p.249)。これらは転職後の職場適応に不可欠であり、組織の新旧メンバーとの橋渡しにも関与する。
第7章は、特にミドル層のキャリア発達を念頭に置き、転職後の行動変容を考察する。多くのミドル層は豊富な経験を持つが、越境後の環境では過去の成功パターンが機能しない場合も少なくない。このとき重要になるのが、経験の意味づけ、まず行動する姿勢、学びを実践に活かす態度、新しい居場所を自ら形成する能力、そして異なる価値観を持つ年下世代とうまく協働する柔軟性である。これらの行動は、単に転職後の適応に有効であるだけでなく、現職にとどまる場合でもキャリア停滞を回避し、環境変化への抵抗を弱める働きを持つ。
Posted by ブクログ
自分も何度か転職を経験して、いまもまた転職したい気になっている。いつも思うのが、現状逃避のような気持ちが根っこにあるんじゃないかなというところなんだけど、とにかくこの本は知識の面でもマインドの面でも学ぶところが多かった。
海外のキャリアアップ型の転職に比べ、日本の転職は条件が悪くなることが多い。それでも転職するのは、もとの職場の人間関係や働き方への不満からくる、いってみればネガティブ型の転職ということになる。
そして転職で「天職」にめぐり合うことを期待してしまうけれど、それもなかなか難しい。なぜなら――
「世の中に『完全転職』はありえない」というものです。
オリエンテーションでも述べたとおり、転職において世の中に存在しているすべての企業を選択肢として目の前に並べ、条件に完全に合致する企業を探し出すこと、マッチングを行なうことは不可能です。人の認識能力には限界があり、転職先の候補として選んだ企業の内部を隅々まで知ることもできません。転職というのは「限定合理性(限られた選択肢のなか、限られた判断資源のもとで物事を決めねばならないこと)」のもとで行なわれるものなのです。
さらに転職とは、いったん入る企業を決めてしまえば、後戻りができない不可逆的なプロセスであり、自らに一〇〇%合う転職先を合理的に選択するという「完全転職」は、そもそも不可能である、ということを、私たちは知る必要があります。(p.165)
ということで、自己認識と外部の印象を一致させるべくセルフアウェアネスを重視し、転職活動がゴールでなく一つの過程だという意識で、転職後をも見据えた学び直しの姿勢をもっていることなどが大事らしい。
幸せを求めて、現実を見据えて今度の転職活動に臨むようにしよう。
Posted by ブクログ
転職を考えている人、社員の離職で悩んでる人には読んでほしい。転職のノウハウではない学問としての転職が、データに基づき示されている。とても参考になる内容だった
Posted by ブクログ
確かに本屋に行って候補が多すぎて選べないということはある。ベターよりベストを求めた方が不満が少ない。転職はゴールではなく、その組織に馴染んで実力を発揮できるところまで行って初めてゴールになる。馴染むためには控えめにするのではなく、周りと気軽に接しつつ、自分を出していく。周りに染まってしまう前に、おかしいと思うことや疑問に思うことをメモしておいて然るべきタイミングで伝えるのが良さそう。
Posted by ブクログ
転職に向けた心の姿勢は、捨てる、変わる、開かれるを基本に。
それは、
過去のこだわりを捨てる
未来に向けて変わる
他者に対して開かれる
事。
合った会社を探すマッチング思考ではなく、転職後も学び、周りからフィードバックをもらい、転職先にあった自分の位置
を作っていき、自分が変化を覚悟する。ラーニング思考いく。
Posted by ブクログ
転職を考えて、その負の側面を忘れかけているときに読んだ方が良い本。特に30後半から40にかけての人にお勧めしたい。現在は転職先での不適合の研究が進んでいるのか、いろいろな提言が書いてあり、納得できる
Posted by ブクログ
転職を考えているなら、初めに読んで欲しい良書
シンクタンクであるパーソル総合研究所が発行しているだけあり
エビデンスベースで納得感がある点が良い
また、年代別の悩みや意識すべきことが網羅的に書いており
特にミドル層の転職や日本人の学びについても触れている
Posted by ブクログ
転職者の心理がデータを基づいて、解析されており、CAとして求められる責務ややるべき職務が明確化された。
人材紹介営業として従事する方には是非読んでいただきたい一冊である。
Posted by ブクログ
転職学
普通はこれができない
・自分のこと、やりたいことがよく分かっている
・そういった自分がすぐには変化した
アメリカが転職しまくるだけ
他の国はそうでもない
日本は不満が高じてそれが改善されない時に転職する
自分の能力を活かせるところに転職すべき
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経営学の組織の重さ
意思決定の重さ、場の重さ、人の重さ、会議の重さ
大企業は意思決定の重さ
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転職後の幸福に貢献するのは、キャリア、ソーシャル、チャレンジ
転職後に必要な支援は、ネットワークとフィードバック支援
後日追記(転職内定後、入社前)
直接的に成果がわかりやすいような支援は、自身の振り返りの機会を与えてくれる他者を探すフィードバックシーキング。これは入社後意識的に行ったほうがいい。例えば自分のこれこれの書類どうですか、とか、これって適切ですか、といった問いかけやそのフィードバック。
馴染んだ時、と言うのは言い換えると、転職先をうちの会社と呼び始めた時期。
出羽守にならないためには、経験から得たものを捨てると言うよりも、一度家に置いておくといった感覚のほうがよさそう。
出会いと適応。
Posted by ブクログ
・ビフォー
転職と部署異動は似たような影響、環境になると感じていましたがまさに考えと事実論がデータに紐付いて一致して良かったです。
・気付き
現状に不満を感じて転職するわけではなく、負の見込みに気づき、将来への期待や希望が持てなくなった時やめようと離職方向を強める。
現在は過去を意味づけ、過去は未来を構想し、未来は現在を方向づける
・Todo
転職エージェントへの登録、市場価値の把握。
世間体の技術評価と自己評価のGAPを埋める。
その市場価値を考えた上で日々勉強を怠らない。
=必ず目に見える行動を起こしていく。目標との差分を振り返る。
Posted by ブクログ
転職どうすれば良いのかなと思って読んでみた。
誰か一個人の経験ではなく、
大人数のデータを元にして
科学的根拠があり、信頼性がある本だと思った。
Posted by ブクログ
評価
まず最初の疑問は、中原先生はどちら派なのか?(転職推進か否か)でした。
感想
12000人の科学が日本を示すのか、日本はそれを世界と比較してどうみるか。
マッチングからラーニングへというのが中原先生らしいし、共感できる。一方企業の人事としては違う文脈で使いたいと思った。
第一講
日本の転職8割が不満。世界との比較から、長期雇用を前提としていることがよくわかる。
第四
学ばない人のマインドセットは、
地頭思考、仕事は運次第、ほどほどキャリアの三つであった。
Posted by ブクログ
転職というものを学術的に考察してるというか真剣に考察して体系化するとこうなるのかなというのが非常に分かりやすく書いてある。
不満✕転職力>抵抗値 の方程式は納得。
みんな不満が高まって転職に行き着く人が8割だそうですが、本当は「転職力」の方を上げて行かないといけない。
転職力もセルフアウェアネスをしっかり考えいる事で転職後の満足度を上げる事がてきる!
転職しないまでもこれを知っていると未来の満足にきっと繋がる。
Posted by ブクログ
ネガティブ理由な転職したとて同じ問題を繰り返しやすく幸福度は低く、ポジティブ理由の転職は良い。自己と客観的(他人)の認知が共に高水準だと転職に良い結果。面接人事はその組織の一要素でしかない。会社は現場のまとめ役や人事決定権保持者や運営役員や転職エージェントなど様々な意図のもと採用決定がなされるので食い違いや転職者的には聞いてた話と違うとなる。
転職後に早く組織に馴染むための方法も書いている。暗黙知を集める。誰が何を知っているのか教えてくれる人、フィードバックをくれる人を探そう。
ソーシャルスキル(コミュニケーション)には話しやすい開始、内容をいい感じにする継続、自分の意見を発言できる主張がある。普段の行動で信頼を蓄積して見合った影響力を行使する。だから転職したは信頼がないので影響力を発揮できない。
Posted by ブクログ
転職について体系的に整理してくれている良書。転職に悩んでる人には一度読んでもらいたい。
人事の仕事に関わっている者としても、とても勉強になりました。
マッチング思考からラーニング思考へ
内定・入社はゴールではない
Posted by ブクログ
転職したいと思う自分、転職した自分を客観的に見つめ直すために示唆を与えてくれる本だと思う。個人の経験に依拠したわけではない点が良い。
メモ
◯マッチング思考からラーニング思考へ
・自分にあっている会社を探すマッチング思考では以下の前提がある
1. 自分のことをよくわかっている
2. その自分はすぐには変わらない
3. 入りたいと思う企業仕事についてよくわかっている
4. 入りたいと思う企業仕事はすぐには変わらない
5. 入りたいと思う企業仕事に出会えること
・膨大な数の業種からベストを探す考え方で.自分や環境を固定的なものと捉えがち
・ラーニング思考は転職を通じて学ぶことで自らも変わっていくという考え方。
◯離職の方程式
・D不満×E転職力>R抵抗感
◯不満
・日本の転職動機の8割は前職への不満、長期雇用が前提なため組織の中に不満を溜めたまま留まってしまう。一方自ら働き場所を選ぼうとする意思が希薄なためその不満がさらに増幅してしまう。
・不満は持っていてもそれを解消するべく積極的に行動する人は少ない。
・人は抵抗や回避が難しいストレスや抑圧のもとに置かれると、その状況から何をやっても無意味ということを学習し、その改善のための努力すら行われなくなる(学習性無力感)
・不満を抱いているかよりも、その不満が変わる見込みがあるかどうかによって、心の状態や動機付けが変化する。
◯転職力
・ステータス(知識や経験、スキル)と、アクション(振る舞い方、考え方、マインドセット)の二つの側面
・アクションとしての転職力を左右するのが自己認識行動。これは、内面的自己認識と外面的自己認識(他者からどう見られているか)に分けられ、双方を高めていくことが転職後の満足度に正の相関を持つ。
◯転職動機の転換
・社会的意義を感じられる仕事をしたい、スキル向上、役職を上げたい、といつ前向きな動機が転職後の幸福感に繋がることが多く、不満ベースはマッチング思考になりやすく、幸福な転職に至りにくい。
・しかし転職動機は転職プロセスを通して変えることができる。そのための重要なアクションが転職相談。
・前向きな動機は、もともと自分の中にあったものが出てくるというよりは、深い自己開示とともに他者に語ることによって作り直されていくもの。もともと持っていた思いを再発見することもある。
・ドミナントストーリー(当たり前と認識している支配的な物語)に気づき、オルタナティブストーリーへ転換していく。他者はその転換を促す触媒のような存在。
◯雇用の流動化は進んでいない
・長期で見ても転職率は上がっていない、リーマンショック以降むしろ下がっている
・経済のサービス業化が進む中で、企業側の人材ニーズの高まりから人材サービス業、それに伴う広告が活発化している。転職情報社会化が引き起こされ、転職が身近で現実的な選択肢にらなったことが、肌感覚と数値のギャップの正体。
◯オンボーディング
・入社後のリアリティショックは、一枚岩ではない企業側の内部事情は求職者にはブラックボックスで目の前に現れた接点を企業の総体と見做さざるを得ない構造的な問題にある。
・自ら組織に馴染むセルフオンボーディング、特に意識的に行った方がよいのは、自身に振り返りや気づきの機会を与えてくれる他者を探すフィードバック・シーキング、人や知識に関する情報の橋渡し役を務めてくれる他者を探すネットワーク・シーキング