あらすじ
本書では、齋藤孝先生が『人間失格』の世界を「超訳解説」していきます。
超訳解説とは、太宰治や主人公の葉蔵の心情を読み解き、小説には書かれていない部分を想像しやすいように補完していくことです。
太宰や葉蔵が抱える世間への恐れ、生きるうえでの「ぎこちなさ」。
SNSの普及によって、新たな世間、「ニュー世間」ともいうようなものが形成された現代は、この感覚を誰もがリアルに共有できるはず。
その普遍性をクリアにし、いまを生きるヒントにする。
それが「超訳」であり、この本の目的です。
「超訳解説」は自分の内面を探る最高のガイド
本書では、小説「人間失格」を8つのブロックに分けて「超訳解説」します。
たとえば次のように。
・「恥の多い人生を送って来ました。」に秘められた意味
有名なこの一文について、齋藤先生は、「恥」こそが日本人の心情をひも解くキーワードだといいます。恥を知ることは、品性を持っていることであり、道徳心の表れである。多くの人は、恥を知り、世間とのズレを埋めるために何かしらの仮面をつけている。そこで大切なのは、「自分は何の仮面を被っているのだろう」と意識することです。
・居丈高に正論を語る人たちへの対処
葉蔵の周りには、葉蔵の嘘をとがめ、正論を述べる人たちがいます。正直者の皮を被り、責め立てることで自分の立場を強くするような人たち。それらを、有名人のスキャンダルを叩く現代の人たちになぞらえ、主体性や軸を持つことの大切さと方法を伝えます。
・なぜ簡単に死を選ぶのか
葉蔵は、ツネ子という女と、大した理由もなく、鎌倉の海で心中未遂をおこします。この感覚を生と死の「地続き感」とし、「YOASOBI」や「ヨルシカ」などの夜系アーティストに若者たちが心酔する現代の状況と合わせて、ひも解いて行きます。
こうして、世間を恐れて偽りの自分を演じる葉蔵の心を探るうちに、「自分のことが書かれている」と思えてくるでしょう。そんな「共感的読書」体験は、自分の内面を探る最高のガイドにもなります。
齋藤先生から、葉蔵によく似たあなたへ
各ブロックの最後に、「葉蔵とよく似たあなたへ」として、齋藤先生からの手紙を用意しました。
そこには、葉蔵と同じ苦しみを抱える「あなた」への、生き方のヒントが書かれています。
本書を読めば、『人間失格』のストーリーと意味を理解し、自分ごとに置き換え、解決策までも得ることができる。これが「超訳」の力です!
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
内面に向きあわずに過ごしているとどうなるか。うすっぺらい人間になります。(P.5)
しかし、内なる井戸のようなものに深くおりていくには、あるいは内面にある岩盤を掘るには、相当強固なドリルが必要です。太宰治は、自己という存在の最深部まで掘り進んだ人です。ものすごい感覚を持って、死ぬ気で掘り下げ、それを作品にしています。(P.6)
危険を冒して深海にもぐり、真珠をとってくるみたいなものです。ほとんど呼吸困難。というより、最も深いところの真珠を手に握ったまま、水死体となって浮かび上がったという感じでしょうか。この、「死ぬ気で真実をつかみとる」という意思、これが『 人間失格』が人気であり続けるもう一つの理由になっていると思います。(P.6)
…しかし、「この人間に真実があるか、ないか」ということになると、「深い真実がある」といえます。外から見るとダメ人間ですが、内面を見てみると大変な真人間。葉蔵は、ダメ人間の皮をかぶった真人間なのです。(P.7)
世の中には、この逆の人もたくさんいるのではないでしょうか。一般的に真人間に思われているけれど、実は誠実に生きているとは言えないような人間。だから、太宰は世の中の嘘に耐えられなかったのだと思います。世の中の常識、一般的な通念のようなものが積み重なって、人間の本質をおしつぶしているんじゃないか。「そんなものは嘘っぱちだ」と思って、『人間失格』の中でそれを暴いたのです。(P.7)
葉蔵が殻に閉じこもるのでなく、人間が信用の殻を閉じているというのがちょっと面白い表現ですが、共感できる人も多いのではないでしょうか。(P.48)
仮面をかぶることは、決して悪いことではありません。罪悪感を持つ必要はないと思うのです。とくに若いころは、世間とのズレを感じながらも、なんとかうまくやりたいと思います。それは人間としてのまともな感性を持っているからこそです。(P.53)
「予言」は将来の自分に対するきたいかんにつながります。うまくいかなくて挫折しそうなときも「偉い人になるという予言があるのだから」と支えになってくれることもあります。(P.73)
縁がある・ないというのは、人生の中で助けになる感覚だと思います。縁があると思えば、前に進む力になるし、何かうまくいかなかったときは「縁がなかった
」と思えばラクになります。(P.75)
…世の中の合法のほうが恐ろしく、非合法の世界のほうがラクな気持ちになれます。それは、正義とされているものにこそ、嘘臭さを感じているからでしょう。(P.88)
嫌悪感は、いったん強く持ちすぎると厭世観につながります。世の中のあらゆるものがイヤになります。そして究極は、「世の中のみんなを殺すか、自分が死ぬか。」そんな思考になってしまいます。(P.91)
…怖いと思うことも、一つひとつ課題を見つけて着実にこなしていくことで、自然と恐怖心は少なくなります。人づきあいも、怖いから避けるより、飛び込んでいって少しずつ経験値を上げるのです。(P.95)
幸福を味わったことがなければ、幸福が訪れたときに怖くなって自分からはなれてしまう(P.102)
一緒に死ねるくらいの感覚を持てる人とともに、苦しみを乗り越えていくほうが美しく健全です。(P.119)
現代でも「いい人だ」と思ってもらいたいから、ちょっと話を「盛る」というのは実際よくあることです。盛ってしまう「哀しい性癖」は、ほとんどの人が持っていると言えるかもしれません。(P.131)
葉蔵は自己分析しつつ、世間と自分を対比し続けているので大変です。世間は強いうえ、朦朧としてつかみどころがないものですから、常に戦っていたらさぞかし心が疲れることでしょう。(P.133)
葉蔵は、常に世間と自分を対比して考える癖がついています。これはしんどいはずです。特定の個人と戦うならまだいいですが、抽象的で正体のわからないものと戦っているのですから。そして、敗北の態度をとることになってしまう。そうやって世間に流されていった先が「人間失格」なのです。
…その軸となるのがアイデンティティです。「これが私だ」と思えるものがあると精神的にとても安定します。(P.142)
鈍感力の獲得は、生きていくうえで必要なことです。批判は「見ない」というのも、ディフェンスです。(P.156)
世間という実体のないものと戦う必要はないのです。(P.165)
齋藤孝先生の面白く、分かりやすい解説と、アドバイスが心に響く。太宰治の『人間失格』は、読むと苦しくなるよと聞いたことがあり、まだ読めていないが、この本を読んで強く惹かれた。人間という生き物を全て包み隠さず描いた作品だからこそ、傑作と言われ、読み継がれているのではないかと思った。
自分の内面を深く深く掘り下げて自殺していく。表面だけで何も見ようとしない人よりはよほど素晴らしい生き方だと感じる。考えすぎだよ、と言いたくなる所もあるが、考えれば考えた人ほど人生に味が出るのかなとも思う。う〜ん、生きるのって難しい…
Posted by ブクログ
太宰治の「人間失格」を解説しています。
なぜ今「人間失格」なのか。
それは、この作品で扱われている「生き
づらさ」の問題が現代にも通じるテーマ
であるからと齋藤氏は言います。
「人間失格」の主人公は世間というもの
が分からず、他人の目が怖いと感じます。
外見では道化役を演じ、明るく振舞って
いても、心の中では不安だらけなのです。
SNS全盛の現代でも、一つ間違えると
世間から攻撃を浴びてしまうことがあり
ます。
世間は怖いのです。
コロナ禍においても、近所で感染者でた
時は犯人捜しのようにその人を特定しよ
うとした地域もあったらしいです。
人間が、世間が一番怖いのです。
そんな今の時代にこそ「人間失格」の
主人公が恐るべき世間と対峙して、どう
自分の内面を掘り下げたのかは、まさし
く現代社会に生きる我々にとって見習う
べき点があります。
ラストの「幸福も不幸もない」「ただ一
切は過ぎていく」という有名な主人公の
悟りにも似た境地に救われる一冊ですね。
「人間失格」という作品は。
Posted by ブクログ
人間失格を読んだことがない人や、深く理解できていない人にお勧めかも。
人間失格の主人公は、ダメ人間に見えて、実は繊細で他の人にはない感性を持っているのかもしれないということが分かった。
読者に考えさせる要素があり、面白かった。
Posted by ブクログ
元々人間失格が好きで、新しい知見を得たいと思い購入。現代のアーティストや漫才師などを例にとる部分もあり、人間失格はちょっと読みにくいなーって方にも分かりやすく書かれていると思います。
Posted by ブクログ
「人間失格」を読んだことがあるけど、そのときは葉蔵に共感できる節は少しあったけど、あくまでも自分と重なることはほとんどなく、どうしようもない人だな〜って感想だった。
この超訳を読んで一番心に残ったのは、世間は個人だということ。SNSで批判してくる人も、メディアで取り上げられてることも、世間の皮を被った個人。自分のことは世間に合わせるんじゃなくてちゃんと自分で考えて決める人間になりたい。
この本を読んで、最初よりも葉蔵の自分と重なる部分を見つけられたし、こんなふうに苦しんでいる人もいることがよく分かった。みんなにおすすめしたい一冊。
Posted by ブクログ
■“繊細さん”(HSP)は読んでおきたい。病的なほど繊細で敏感な心理に共感、著者の行間解説に納得■
原著(太宰治)は、そのタイトルの重苦しさや内容の暗さから、あえて再び手に取ろうと思うことがなかった。
ところが、たまたま寄った書店で本書が平積みされており、タイトルの重厚感を残しつつもライトなタッチのイラストの表紙を見て、思わず手が伸びてしまった。
(表紙に騙されないぞって思ってるけどやっぱりビジュアルって大事かも。もちろん内容がライトになるわけではない。)
原著のストーリーに沿いつつ、要所で著者の解説や考察が挿入されているため、ストーリーを追体験できるとともに、原著ではスルーしてしまっていた行間の意味や著者のていねいな洞察が、表紙に似合わぬ(?)濃密な内省の時間を生んでくれる。
ただし、ダイジェストなので分量は少ない。
例えば罪と罰について。
僕は、罪あるところに罰が下されるという、仏教的に言えば因果応報、キリスト教的に言えば、自分の蒔いた種は自分で刈り取るというような考え方をおおむね信じている、いや、そう信じたい。
ただ現実は不条理で、そんな単純な考え方だけで説明できるほど単純にはできていない。
何の罪もない人間や無垢な子どもたちが神からの無慈悲な罰ともとれる理不尽な目に合う事例は珍しくない。
この世の「罰」はあらかじめ宿命として定められているのだろうか。それとも神様の気まぐれ、偶然という名の運命のいたずらが左右するのだろうか…そんなことをつらつらと考えさせられる。
ところで、本書(もちろん原著でもいい)は“繊細さん”(HSP)にお勧めしたい。かく言う僕も繊細さんを自認している。主人公の病的な心理に没入し、時には自己投影しつつも、著者の冷静な視点と解説が章ごとに待っており、現実世界に連れ戻される。
あらためて最初から通して原著の世界にどっぷり浸りたくなった。