あらすじ
ヤンソン研究の第一人者が8年の歳月をかけて書き上げた遺作にして、決定版評伝。ムーミン谷はなぜ生まれたのか。いったいかれらは誰なのか。その謎はトーヴェ・ヤンソンの生涯をたどると見えてくる。
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Posted by ブクログ
"戦争という非日常が日常に入りこんだ衝撃で、「仲のよい芸術家の家族」という美しいファサードは吹っ飛んで、ガラクタや瓦礫があらわになった。だからヤンソンは、記憶のなかの子ども時代を創造的に再構築した。それがムーミン世界だったのだ。"
面白かった……そして何より今の時代に読めて良かった。
ファインアートを志しながら、挿絵や風刺画の世界で評価を得た画家がなぜムーミンを書いたのか。
何よりも、トーベ・ヤンソンという人はどんな芸術家、彼女の母語で言うのなら「コンストレル」だったのか。
芸術一家に生まれた少女が、両親から薫陶を受けながらもオリジナリティを獲得し表現の世界に飛び込む。しかし時代背景は彼女の創作活動に影響を与え続ける。
記憶の中の子ども時代を再構築する。それがムーミン世界である。このことを示すために著者が集め続けたヤンソンとその周りの人々の記述たち。
"ヤンソン作品は虚実の混ざりぐあいの差こそあれ作者の分身であふれている、といっていい。「ムーミントロール」「ちびのミイ」「トフスラン」「トフト」は確実にヤンソンの一面を具現化する。"
ムーミン谷の仲間たちはトーベ・ヤンソンそのものでもあるし、トーベの周りにいた人々そのものでもある。
ムーミンシリーズとムーミン世界の見方が変わったし、これから読むムーミンも楽しみ。
そして、この本はトーベ・ヤンソン研究の第一人者である著者の遺作となった。どうか後書きまで全て読んでほしい。芸術家と、その芸術家を研究し続けた研究者。これはふたりの歩んだ人生そのもののように思えた。