あらすじ
本書は、志を遂げぬままこの世を去った担当編集■■■■の”強い希望”を受け、遺された者により刊行させていただきました。
【寄稿作家】
梨
朝倉宏景
和田正雪
八方鈴斗
尾八原ジュージ
贈り物のような顔をして、■■は私のもとへとやってきました。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ここ最近読んだホラーアンソロの中では一番好き。
それぞれの話がどれも抜かりなく嫌。テーマにちゃんと沿った上で本当に嫌。素晴らしい。
最後のQRコードも、本編が最悪だからこそちゃんと輝いている。こういうのはもういいよって食傷気味なあなたにも読んでほしい。
ギニーピッグの瘡蓋/梨
男性妊娠切腹ロマンポルノホラーという触れ込みがもう気になって気になってしょうがなかった。なんだよそれってちょっと面白半分で読んだけど、読み終わってみたらそれはもう男性妊娠切腹ロマンポルノホラーとしか言いようがない作品だった。私はここに恋心を見ました。芽吹く前に永遠に始まることができなくなった恋を。そう考えたらビンは自分の夢を叶えた上に熱烈なファンまで得て、それはもう幸せなのではと思うのです。それはそれとしてこれが許されるのは違うだろという気持ちもある。
じゃんけんちゃん/朝倉宏景
この手の仕掛け自体はよく見かけるんだけど、説得力がちゃんとあって、嫌さにとても寄与しているので読んでて楽しかった。幼さは愚かさではなくて、本当に純粋に信じたいっていう切実さがこの結果になったんだと思うと、許せないよ、親のことがさあ......
にこにこ/和田正雪
じゃんけんちゃんとこの話と次の観察記録は譲るの使い方が全く同じな訳なんだけど、三つの中だとこの話が一番現代怪談っぽいなと思った。アイドルの変なファン。なんで自分を好きかも分からない、一瞬の触れ合いを繰り返すファンという存在ってよく考えると確かに怖い。別に幽霊じゃなくたって、分からない怖さ自体はあるもんね。そういう恐怖心のヒビみたいなものを思い切り広げてみました!っていうのが上手くて好き。
観察記録/八方鈴斗
惨いねえ〜。私はある種これをカニバとして読みました。
良かれと思ってやった全てが自分と結衣を取り返しがつかないくらいぶち壊しているということを知った時の絶望感ったらない。自ら選択して全てを行なったというところがまた最悪さに拍車をかけていて、一周回って気持ちよさすら感じるくらいだ。どれだけ言い訳しても、最後の最後で破壊することも死ぬこともできずに他人に押し付けようとしている時点で軽蔑されて当然なんだよなこいつ。でもそういう弱さが人間らしくて可愛い。
いないのと同じ/尾八原ジュージ
ジュブナイルに隠された救いのなさの塩梅が絶妙。お譲りしますの使い方も好きだった。条件を踏まないように、関わり合いを持たないように。そういうルールを踏まえたバッドエンドとグッドエンドを並行して見られるのエンタメとしての楽しさがすごかった。
佐々原くんはもうずっと前に手遅れだったんだろうから、関わり合いにならないという選択肢は完全に正しいのに、どうにも寂しくて苦しい気持ちにさせられてしまう。
いないのと同じって割り切るのって難しいよね。
Posted by ブクログ
もし、霊感を他人に受け渡すことができたら?
ホラー小説の最前線を走る作家たちによる、「霊感の譲り方」アンソロジー。
本書は、逝去した担当編集■■■■の遺志により刊行しました。
「霊感の譲り方」をテーマとしたホラーアンソロジー。
霊的な怖さもありますが、やっぱり故意に他人に霊感を譲り渡す、という行為のその自己保身や悪意の部分が一番怖い気がします。
私個人は霊感どころか完全なる零感なんですが、亡くした人に会えるかもしれないという誘惑に惹かれてしまう気持ちはわかる気がします。
その喪失はいつかは越えて行かなくてはいけないものだとわかっていても、せめてもう一度話したい、微笑んで欲しいという気持ちは消せない。自分もその痛みを知っているのに、その弱さにつけ込む醜悪さが恐ろしい。そういう意味では、八方鈴斗さんの『観察記録』が一番怖かったです。
人の醜さという観点では、朝倉宏景さん『じゃんけんちゃん』も後味が悪い。綺麗で純粋なものが好きなので、それが汚れていく様は絶望感が強いです。
尾八原ジュージさん『いないのと同じ』も好きでした。小学生が語り手で、これは悲劇的であり寂しくもあるけど温かみもある気がする。