あらすじ
今日に至るまで絶大な影響を及ぼし、議論を引き起こし続けているフランスの哲学者ジル・ドゥルーズ(1925-95年)は、デイヴィッド・ヒュームやアンリ・ベルクソンなどを対象とした哲学史研究から学問的経歴を開始し、主著『差異と反復』(1968年)、そして『意味の論理学』(1969年)を公刊して、その地位を確かなものとした。
飛躍を求めたドゥルーズは、精神科医フェリックス・ガタリ(1930-92年)との「二人で書く」企てに挑戦し、物議を醸した『アンチ・オイディプス』(1972年)、『千のプラトー』(1980年)を送り出す。さらに晩年には映画論や芸術論に取り組み、その全容は公刊が始まった講義録を通して、より明らかになりつつある。
こうした多彩な相貌を見せるドゥルーズの「哲学」全体を貫く「原理」はあるのか? あるとすれば、それはどのようなものだったのか? 「20世紀最後の哲学者」の方法と対象を精緻に分析し、その核心と実践的意義に迫った本書は、広く評価され、多くの読者を得てきた。生誕100年、没後30年を迎える2025年、改訂を施し、新稿を加えた決定版として、講談社学術文庫に登場する。
[本書の内容]
第I章 自由間接話法的ヴィジョン――方 法
1 自由間接話法
2 哲学研究の課題
3 哲学の課題
第II章 超越論的経験論――原 理
1 超越論哲学と経験論哲学
2 無人島
3 出来事
4 超越論的な原理
5 超越論的な原理の発生
第III章 思考と主体性――実 践
1 思考の強制
2 思考の習得と方法
3 物質に付け加わる主体性
第IV章 構造から機械へ――転 回
1 ガタリとの出会い
2 構造と機械
3 構造と構造主義
4 セリー、ファルス、原抑圧
5 『アンチ・オイディプス』と分裂分析
第V章 欲望と権力――政 治
1 ミシェル・フーコーの歴史研究
2 『監獄の誕生』における二つの編成
3 権力と二つの編成
4 一元論と二元論
5 欲望と権力
6 欲望のアレンジメントと権力装置
文献一覧
研究ノート
I 自然主義について
II 総合的方法
III 法/制度/契約
IV 個の心と衆の心
V 国家と考古学
追加された研究ノート
I スピノザにおける個体の概念と微分法
II 類似的他者の概念
III ドゥルーズの政治的発言
IV 絵画とアナロジー
V 目と手、ビジュアルとマニュアル、エジプトとギリシア
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
何回でも読み直したい作品
ここ最近で一番、日常における認識にざらつきを与えてくれる本だった
p.131
人が積極的意志(「…をしよう」)によって真理に至ることはない。真理は常に、思考を余儀なくされたことの結果として獲得される。人は思考するのではない。思考させられる。思考は強制の圧力によってのみ開始されるのであり、それを強制するシーニュは常に偶然の出会いの対象である。
p.298
欲望のアレンジメントは、権力装置を伴うだろう(…)だが、権力装置はアレンジメントの様々な構成要素の中に位置づけられねばならない。(…)権力装置とは、したがってアレンジメントの一構成要素ということになるだろう。
Posted by ブクログ
哲学者・國分功一郎先生が記すジル・ドゥルーズの研究書です。ドゥルーズの方法と対象を、國分先生が精緻に分析し、その実像に鋭く迫ったものですが、お読みになる場合には「格闘する」と言う言葉が当てはまります。
正直なところを言ってしまえば、僕は國分功一郎先生の本に出会わなければ、ジル・ドゥルーズの哲学に関心を持つことはなかったのかもしれません。本書は哲学者、國分功一郎先生によるジル・ドゥルーズの哲学を読み解いた『研究書』であります。
元々、國分先生の専門はスピノザ研究との事で、全体の構成や「発生」はヒューム。「潜在性」についてはライプニッツからのアプローチが行われております。
ただ、本書を読むにいたってはドゥルーズ・國分の両哲学者と『がっぷり四つに組んだ』状態と言う言い方が相応しく、
「ちょっとかじってエッセンスでも。」
と言う安易な姿勢で読み始めると、手痛いしっぺ返しを受けることでありましょう。
僕は自分でも思ったほど多くの哲学についての関連書を読んできたわけではないんだな、と言うことに改めて気づかされたわけですが、國分先生による丁寧な語り口は本書の中でも健在であり、そのスタンスが一貫して存在していたことについては、敬意を表したいです。
國分先生は本書のテーマの一つとして、『政治的ドゥルーズ』と『非政治的ドゥルーズ』と言う「二つの像」があることを示し、前者を許容する側がいる一方で、後者を批判する側がいる。ドゥルーズはそれに応えるために、ガタリとの『共著』と言うスタイルをとったと論じているのです。
それを存分に展開させたのが第5章で、『監獄の誕生』などで有名なフーコーからアプローチをかけ、結論部で
『ドゥルーズが権力構造の分析を通じて現代社会に下した判断は、決して薔薇色ではない。しかし、そのドゥルーズの哲学が自由を志向するものであった、という事実は我々に勇気を与える。』(p225)
と記しているのです。
と、ここまで書いておいてやはり、本書を読んでこうして文章にしたためるということはまさに『格闘』そのものでありました。
西洋哲学や、ドゥルーズについて余り予備知識がない、と言う方にはあまりお勧めできませんが、僕は國分先生の人生相談『哲学の先生と人生の話をしよう』(朝日新聞出版)を先日読んで、そのあまりの切れ味の鋭さに
「この人の奥には一体何が潜んでいるんだろう?」
と言うのがきっかけでありましたので、その一端を知ることができたのは、僕にとって幸いでありました。
※追記
本書は2025年9月11日、講談社より『ドゥルーズの哲学原理 (講談社学術文庫 2880)』として加筆修正の上文庫化されました。