あらすじ
春。風泰生は横浜の小さな酒場で雅子と出逢った。我儘も言わない、大人しい女だった。笑うと寂しそうな顔になる。男は女を愛し、女も男を愛した。そして、やがて別れた。それから時が経ち、風のもとに刑事がやってきた。雅子が殺されたと言う。俺にはもう関係ないと言い聞かせるが、風の中から雅子の姿は消えなかった……。男と女。それぞれの情念に心が波打つ。男の叙情と美学が静かに染み入る北方謙三伝説の一冊。(解説・小梛治宣)
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Posted by ブクログ
北方謙三『逆光の女』ハルキ文庫。
再読。北方謙三の初期ハードボイルド小説が5ヶ月連続で再刊された。第1弾は『友よ、静かに瞑れ』、第2弾が『過去 リメンバー』、第3弾が『黒いドレスの女』、第4弾が二人だけの勲章』で、この第5弾の『逆光の女』がラストを飾ることになる。
学生時代に読んだ『逃がれの街』で北方謙三のハードボイルド小説を知り、以来、北方謙三の全てのハードボイルド小説を読み続けた。多少、クサい所はあるが、男の生き様を描く北方謙三のハードボイルド小説は若い頃の自分にとっての人生の指針であったのは確かである。それだけに北方謙三が歴史小説家に転身したことは非常にショックであった。
本作は北方謙三が1980年頃、やっと自動車免許を取得してからイタリア車を乗り回し、まるでベテランのプロドライバーみたいな生意気な発言をしていた頃の作品である。主人公の作家の風泰生は自身がモデルで、作中での風の酒の嗜好や女性の扱い、運転技術、格闘術などはきっと北方の願望なのだろう。
奇妙な小説である。作家の風泰生が別れた矢部雅子という女性の死を知り、その真相を追求するというストーリーかと思えば、後半は雅子の死の真相は何時の間にか放置され、風泰生が次々と女性との出逢いと別れを繰り返す連作小説っぽい造りに変貌するのだ。勿論、ワイルドターキー、パイプ、マセラッティ、ジャズ、肉体闘争といったハードボイルドの味付けもある。
繰り返すが、極めて奇妙な小説としか言いようが無い。
作家の風泰生は横浜の小さな酒場で働く、矢部雅子と出逢い、その日のうちに男女の関係となる。我儘も言わず、従順で大人しい雅子だったが、時折、笑いながら寂しい顔を見せていた。やがて、雅子は妊娠し、当然の如く風泰生は中絶を勧め、雅子が中絶するや別れを切り出し、あっさり別れる、
それから時が過ぎ、風泰生の元に刑事がやって来て雅子が殺害されたことを知らせる。風泰生は自分とはもう関係無い女だと自身に言い聞かせるが、雅子の姿は風の頭の中から離れなかった。
風泰生は、別れた後の雅子の足跡を追ううちに、雅子が多数の男と付き合い、身体まで売っていたことを知る。
本体価格820円
★★★★