あらすじ
中国と日本の歴史書ほか膨大な資料を援用し、琉球王国にまつわる伝承に絡めて壮大なスケールで書かれた『椿説弓張月』。第2巻は、伊豆大島を実質統治していた為朝が官軍に攻め込まれ、決死の戦で敗走。そして崇徳院の墓参りにと讃岐国へ赴いたところ、一人の旅人との不思議な縁から肥後国へ導かれ、そこで……。臨場感あふれる戦いの場と、登場人物それぞれの運命が絡み合う愁嘆場も読みごたえ十分な新訳。
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Posted by ブクログ
滝沢(曲亭)馬琴は、映画にもなった里見八犬伝の原作『南総里見八犬伝』で知られるが、最初のヒット作はこちらだ。当時は『八犬伝』の馬琴ではなく『椿説弓張月』の馬琴だった。そしてテッパン葛飾北斎とのコンビ作である。
主人公は源為朝。源為義の八男で、頼朝の父・義朝の弟にあたる。大河ドラマ『平清盛』では橋本さとしさんが演じていた。乱暴者で父の為義に持てあまされ、九州に追放されたが、手下を集めて暴れまわり、一帯を制覇して鎮西八郎を名乗る。そのため、鎮西八郎為朝ともいう。
保元の乱では、父・為義と共に、崇徳上皇方につき、強弓と特製の太矢で大奮戦するが敗れ、伊豆大島へ流される。配流先でも国司に従わず、大暴れして伊豆諸島を事実上支配したことから、追討を受け自害。
…とあるが、義経ら英雄の宿命として、死んだとされても“実は生きていた”伝説が各地に流布する。為朝も同様で、八丈島、さらに琉球(沖縄県)に渡ったという伝説が生まれる。
冒頭は登場人物紹介である。為朝は史実では死んだとされたので、その身代わりになった鬼夜叉。為朝を愛した女性白縫と三郎長女。そして福禄寿。えっ福禄寿?
美女に心を動かされず、博学。100歳を越えているのに、お肌ツヤツヤで童顔。いいね!おや、頭が体の半分?でか!まっすぐ歩けるのか?
おや、でかいヤマネコまで出てきたぞ!灰色毛で短足、120センチの体長。さすが南方!なんでもよく育つ!いや、そういう問題じゃない!
さて、物語は保元の乱の終わりから。崇徳院方が敗北し、父為義も斬首。妻白縫姫も消息が知れず、亡くなったと思われる。崇徳院も讃岐の国で崩御。一人生き残った為朝は、大島の島守として生きる。武勇が知れ渡っている為朝は、なぜか女性と男性が分かれて住んでいる島を訪れ、同居を主張。女護島の三郎長女を妻として、あっという間に二人の男子をもうける。悪い代官を懲らしめたことで讒言を受け、大勢が攻めかかってくる。皆、為朝を逃がすために知恵を絞るが。
いやあ、皆、死ぬ。がんがん死ぬ。自分の筋を通すため、人のために死ぬ。死ななくていい所で死ぬ。大河ドラマを見ているため、実際には、赤穂浪士以来、切った張ったは起きていない。忠義のために死ぬ必要も、誰かを助けるために死ぬ必要も、ない。そんな時代の武士が、本書を読んで狂喜乱舞したのは、現代において、戦闘ものRPGが受ける理由と共通する。あり得ないから、ウケる。自分がやらないから、ウケる。
流れ流れて南下してきた為朝。僕の後ろに道はできる、ではなく、彼の後ろに死屍累々。それでも豪傑為朝は今日もゆく!