あらすじ
江戸も令和も、国家の命運は米価で決す!
世界初の先物取引所で繰り広げられる、享保の知られざる米騒動――大坂商人vs.将軍吉宗。究極の頭脳戦の行方はいかに!?
時は江戸時代、天下の台所――大坂堂島には全国から米が集まり、日々、値が付けられ膨大な取引がされていた。特に盛んだったのが、先々の米価を扱う先物取引(デリバティブ)。商人たちは紙と筆と頭脳を用い、利鞘の多寡で泣いたり笑ったり。
一方の江戸では、将軍吉宗はじめ、幕閣たちは忸怩たる思いを抱いていた。米価の変動はすなわち武士の年貢収入の変動であり、あろうことか、それらを商人たちが汗もかかず、意のままに決めている。そんな不実の商いは許すまじ、と堂島を支配すべく動き出すのだが……。
市場の自治を守らんとする大坂商人たちと、武士の誇り(とお金)を懸けた江戸幕府との究極の頭脳戦!
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Posted by ブクログ
副題 享保のデリバティブに惹かれて、読み始めた。
江戸時代の大坂の事情なんてほとんど知らない状況でも、
経済小説として楽しむ読めた。
特に、先物取引は何のためのものか、という問いに、
出てくる者たちがたどり着く過程が非常に楽しかった。
その視点が将軍吉宗をして、一徳川大名の視点から、全国の将軍としての俯瞰的視点となり、享保の大飢饉を最小限の犠牲に留めようとする、主体的な動きへと変化させる。
ちょっとした気分で手に取ってよかったと思う。
なお、デリバティブの機能とは
・大勢が価格決定に関わることで、価格調整弁としての機能
・将来の価格安定による生産者の安心
といったところだろうか。
Posted by ブクログ
昨秋(2025)、新聞書評で見かけた一冊。
享保の改革の様子、暴れん坊将軍で有名な吉宗がなぜ米将軍ともあだ名されていたかが良く分かる(笑)
副題に、「享保のデリバティブ」とあるように、これは経済小説だ。天下の台所と呼ばれた大阪では、江戸の中期には米取引が発展、一大市場を成していた。そして、そこでは現物の売買だけでなく、現代のデリバティブ取引と同じ仕組みを持つ「帳合米」の取引が発達していたという話。
それを、ひとりの仲買人を通し、大阪堂島で繰り広げられる米取引の様子と、権力で価格を統制しようとする幕府との丁々発止の駆け引き、交渉の様子が描かれる。
その中心事物である垓太と、将軍吉宗は、10代の若いころに、堂島の米市場で会っているというエピソードを挿入することで、物語に厚みと人間味を加味する、なかなか巧い建付けだ。
「帳合米」は、実は、幕府非公認のグレーゾーンの市場でもあったという。
故に、大阪の商人たちに米価を随意にコントロールされていると江戸の御家人、幕府役人たちは訝る。米価を上げ御家人・侍の生活を向上させようと、江戸幕府――徳川吉宗と大岡忠相――が、江戸の名商を大坂に派遣し、米取引市場の乗っ取りを図る。
それに対して、市場の力を信じ、大坂の米取引を守ろうとする垓太ら米商人たちが立ち上がり、幕府と対峙するというのが大筋だ。
ここで、そのデリバティブの妙を活かした経済合戦が展開されるのかと思ったが、意外や、垓太が江戸へ直談判、帳合米の仕組み、市場メカニズムの重要性の理解を吉宗、大岡に求めるという展開は、ちょっとテンションが下がった。これを交渉の場でなく、相場の中で、相手に身を以って知らしめるような展開とできなかったかと、少し残念。
ただ、交渉の場に、本来いるはずもない吉宗が、屏風の陰から盗み聞きしていたというのは、落語的で面白かったりもする。
日本史上もっとも資本主義が進んでいたといわれる江戸時代。その中心の堂島の米取引所の実態を詳細に描き、エンターテインメントに仕立てたのはお見事だった。
垓太のこの言葉が、物語の核心を突いている。
「相場いうのは、運や勘で張るもんやない。情報(ねた)で張るもんや」