あらすじ
代表者失踪、事業停止、内部留保ゼロ――知らないと危なすぎるM&A(合併と買収)トラブルの全貌。仲介業者が莫大な利益を得る傍ら、売り手と買い手が大損害を被る事例が急増。その実態を描く。朝日新聞デジタルの人気連載に大幅加筆。
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Posted by ブクログ
これは面白かった。
中小企業のM&A(買収、合併)におけるトラブルの現状を克明に描いてる。
これまでは売り手側の企業の中身がよくわからず、買った後に簿外の債務が発覚したり、問題社員がいたりとか、買う側のリスクが問題視されていた。
ただ、この本の内容は売り手側の企業が陥ったトラブルのケースを描いている。
業況が厳しい中小企業を買収し、現預金だけを抜いていく。当然その企業の資金繰りは回らなくなるし、借入は返済できなくなる。借入の保証人は変更されず前の保証人のまま。そんな悪質な買い手が現れた。
半ば詐欺みたいなやり方を繰り返す買い手企業。そんな買い手企業を紹介したM&Aの仲介業者に責任はないのか?買い手企業の調査は十分だったのか?売り手側に防ぐ手立てはなかったのか?高額の仲介手数料は妥当なのか?いくつかの事件の関係者に取材することで、M&Aに潜む闇を明らかにしている。とても面白かった。
中にはそこまでのことをやらかして、全く悪気のない買い手側の代表者もいた。しかもほとぼりが冷めたらまたやりたいと。呆れた。
中には仲介側の使命感から、買い手の危険性を指摘し、やめたほうがいいとアドバイスしながらも、売り手側の強い意思により売買してしまった事例もあった。さすがにその場合は仲介の金融機関を責めるのはかわいそうかなと思った。ただ高額の報酬はもらってる訳だし、売り手企業の将来を守るという観点から、もっとできることはあったのではないかと思う。
高額の報酬がもらえるっていうところから、売買は何とか成立させたいと言うインセンティブが働く。担当者としては数字が欲しい結果はずだ。多少怪しい部分があったとしても、制約さえしてしまえば仲介手数料がもらえるこの構想自体に問題があるのかもしれない。
未熟な部分が多いM&Aの業界、資格制度や罰則規定などまだまだ整備する部分が多いと思った。いずれにしろ、中小企業が元気になっていく未来でなければ、日本の将来は暗い。
引き継ぐものがいない事業を新たな経営者のもとにつないでいく「M&A」はこの先も増えていくだろう。どこに罠が住んでいるのか、きちんと学び、自主防衛していくしかないと思う。
それにしても、詐欺まがいな買い手側企業の社長にも取材して話を聞いている所がすごい。取材力が高いため、ルポの内容にリアリティがある。現代の抱える闇の一部を学べた。良書。
Posted by ブクログ
個人社名実名でのM&Aの課題。
事業継承や統合後の成長やシナジーを目的に掲げられるが、実態として一時的な資金の獲得や、仲介会社の成功報酬のために使われてしまっている。経営資源を維持できないM&Aは本末転倒。
資金を流出され、元株主の債務保証もされないという詐欺などから自主規制を強めようとしているが、当事者の知識や認識による部分は大きい。一部のトップ層が正しい視点を持っているのは救い。
珍しく普通にちゃんとしたルポ。