あらすじ
本を読もう。もっともっと本を読もう。世界という名の一冊の本を。「書かれた文字だけが本ではない。日の光り、星の瞬き、鳥の声、川の音だって、本なのだ」本を読みながら、私たちはあまりに多くの人と、言葉と、景色と出会い、別れていく。友の魂へ、母の魂へ、あるいは遠く離れた異国の魂へ。詩人がのこした祈りのための、そして人生を読み解くための傑作詩集。解説 岡崎武志
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Posted by ブクログ
長田弘さん没後10年だそうです。
享年75歳だそうなのでもしご健在ならまだ85歳です。
私の父も26年前に59歳で亡くなっているので、二人とも生きていたらひとつ違いでした。
長田さんの詩集は全部読んだつもりでしたが、これは未読でした。
「ファーブルさん」
Ⅲ
どんな王宮だって、とファーブルさんはいった。
優美さにおいて精妙さにおいて、一匹の
カタツムリの殻に、建築として到底およばない。
この世のほんとうの巨匠は、人間じゃない。
この地球の上で、とファーブルさんはいった。
人間はまだ、しわくちゃの下書きにすぎない。
われわれ貧しい人間にさずかったもののうちで、
いちばん人間らしいものとは、何だろうか。
「なぜ」という問い、とファーブルさんはいった。
ものの不思議をたずね、辛抱づよく考え抜くこと。
探求は、たくましい頭を必要とする労働だ。
耳で考え、目で考え、足で考え、手で考えるのだ。
理解するとは、とファーブルさんはいった。
はげしい共感によって相手にむすびつくこと。
自然という汲めどつきせぬ一冊の本を読むには、
まず身をかがめなければいけない。
「世界は一冊の本」
本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。
書かれた文字だけが本ではない。
日の光、星の瞬き、鳥の声、
川の音だって、本なのだ。
ブナの林の静けさも、
ハナミズキの白い花々も、
おおきな孤独なケヤキの木も、本だ。
本でないものはない。
世界というのは開かれた本で、
その本は見えない言葉で書かれている。
ウルムチ、メッシナ、トンブクトゥ、
地図のうえの一点でしかない
遥かな国々の遥かな街々も、本だ。
そこに住む人びとの本が、街だ。
自由な雑踏が、本だ。
夜の窓の明かりの一つ一つが、本だ。
シカゴの先物市場の数字も、本だ。
ネフド砂漠の砂あらしも、本だ。
マヤの雨の神の閉じた二つの眼も、本だ。
人生という本を、人は胸に抱いている。
一個の人間は一冊の本なのだ。
記憶をなくした老人の表情も、本だ。
草原、雲、そして風。
黙って死んでゆくガゼルもヌーも、本だ。
権威を持たない尊厳が、すべてだ。
200億光年のなかの小さな星。
どんなことでもない。生きるとは、
考えることができるということだ。
本を読もう。
もっと本を読もう。
もっともっと本を読もう。
Posted by ブクログ
初めての作家さん。詩って難しい言葉とかを使って、何を伝えたいのかよく分からないのとか多くてなかなか合う作家さんを見つけられないんだけど、長田さんは誰もが使うような平面な言葉を使って詩を書く。逆にそれがストレートに伝わって自分的には心に響く。とにかく他の作品も呼んでみたい。迷ったら絶対読むべきです。
Posted by ブクログ
長田さんの詩は、言葉が丁寧でスッと心に入ってくるので好きです。言葉の森の中を歩き、森林浴をしているような爽快感がありました。心身の柔軟性が得られたかのようです。
長田さんの友人、ご両親が亡くなり、その別れを詩にしたものがありました。それぞれの人物と長田さんの気持ちの距離感が分かり、興味深かったです。
タイトル「世界は一冊の本」の詩は、この本の最後に載せられています。きっと有名な詩だと思うのですが、私は初めて知り、今日はいい詩に出会えて得した気分です。
手のひらにある小さな本と、世界の対比がとても素敵です。本を読むことも生きることの一部であり、自然はもちろん、あらゆる経験から考え、感じることの大切さをメッセージとして受け取りました。
【その他、心に残った詩】
「人生の短さとゆたかさ」「立ちどまる」「ことば」「ファーブルさん」
☆2025年は長田弘さん没後10年