あらすじ
幾千年の時を超えて、あなたと恋をしている奇跡。
生き死にの極限に迫る、著者渾身の恋愛小説。
ひと月前に兄を亡くして天涯孤独の身となったわか子は、週に三日、空き家管理の仕事をすることになった。趣味の和歌を思い浮かべながら、何かが死んでいるような腐敗臭のする家で掃除をしていると、「なびかじな……」という藤原定家の和歌がきっかけとなって不意に景色が反転し、気を失ってしまう。目が覚めると、空き家の持ち主の河原さんと見たことのない青年がわか子を心配そうに見下ろしていた。それは時間のなかを旅してきたような、不思議な感覚で――。
雲=クラウド=記憶の保存庫
若さを失うことは、少しも寂しいことではないの――
過去の恋を思い出しながら、わか子は『源氏物語』の朝顔の君に自身を重ねてみる。
前世か先祖か幻か、わか子のなかに眠っていた女たちの記憶が動き出す。
装画:栗田有佳
装幀:大久保伸子
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Posted by ブクログ
40を超えて独り身のわか子は、定職につけず、唯一の肉親である兄も風呂で溺死をし、死ぬ所から物語ははじまる。兄の孤独を心配しているくだりがあるが、自分も、知人と呼べる人しかおらず、昔付き合っていた人も死に、ポツリポツリと亡くなっていく。和歌が好きという古風な趣味をもつ彼女だが、雇空き家管理のバイトに趣味の欄に書いた事がきっかけで、和歌に理解がある雇い主で、何とか受かり、空き家を掃除管理するのだが、ハエやドブネズミなどあまりの家の酷さに辞めたくなる。度々和歌が登場する。そんな中の雇用主のイケメンの甥だったか大学院生の子がその空き家を使いたいと訪れてから、わか子に芽生えた恋愛感情に、胸が痛くなった。特にマスクをとった端正な顔立ちに、近づきたいという気持ちを持ってしまった所。
年齢差の恋にわか子がおかしくなってしまったのか、空き家がそうさせたのか、彼女の後悔や願望がうつし出した幻の数々が痛々しく、生きることの辛辣さを感じた。