【感想・ネタバレ】八月のセノーテのレビュー

あらすじ

「この街は少しずつ沈んでいる」──そんな噂が流れる人工島で、タワマンに住む水泳部の仁寡は厳しい父の目を盗み、夜な夜なノートに空想の世界を描く。苦しくも美しい「中学一年生の夏」を鮮やかに描く。第10回林芙美子文学賞受賞作「森は盗む」も収録。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

裕福で暴力的な父。見て見ぬ振りをする母。理不尽な学校生活。心の支えになる異性の幼馴染。美しい海の景色。人工島で暮らす閉塞感。日常がどれほど苦しくても、幼さゆえにどこへも行けない。少年はノートに絵を描き、イマジネーションの世界に救いを求める。
湊かなえさんの原作で、何度も繰り返し観たドラマ『Nのために』を彷彿とさせる世界観の小説だった。

少年が父親の暴言や暴力に直面させられるシーンが何度か出てくる。そのどれも、生理的反応として時に否応なく流れてきてしまう涙以外、彼の表情や感情などについての描写はない。その描写がないことで、父親の言葉が自分の中に浸透してしまわないように、心を無にして、必死に抗っている少年の姿が浮かんだ。屈辱、羞恥、憎悪、憤怒。否応なくさまざまな感情が押し寄せてきてしまっても、せめてもの抵抗として、それらを表に出すことだけは断固拒絶する。理不尽な親からの言葉や仕打ちに対する、圧倒的な無力さを思い知って、どうすることもできないと悟ったとき、無力な人間は全ての感情を放棄して、空想の世界に逃げ込むことしかできない。

『Nのために』もこの小説も、自分の幼い頃を重ねて苦しくなった。大人になってからも、忘れていたい記憶がときどき不意に戻ってくる。友達によく言われた。ずっと鼻歌を歌っているね。ずっと本を読んでいるね。ずっとぼーっとしているね。そうね、だってそうやって気を逸らして、自分を守るしかなかったから。

最後、いきなり物語が終わってしまって少し呆気に取られたけれど、読み終わってしばらく時間が経ったら、あのくらい開けた終わり方が逆に良かったのかもしれないと思うようになった。主人公は、まだどんな未来でも描いていける幼い二人なのだし。最後にプールの底で見つけたものが本当に「セノーテ」だったのなら、それから彼らはどう生きたのだろうと、余韻の中で想像している。

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2025年10月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ


「逃げられへんのではなく逃げへん」という文章が印象に残りました。自分で逃げないことを決める意思。何から逃げないのか。親から。祖母から。はたまたそれ以外。
少しずつ沈んでいる街から逃げない覚悟。
純文学の中では読みやすいけれどわかりそうで、わからない。何かが掴みきれない。
もう一度読みたいと思いました。

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2025年07月10日

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