あらすじ
ウクライナ侵攻におけるプーチン・ロシアの思想的根拠として注目を集めた「ネオ・ユーラシア主義」。その見立ては正しいのか。大国の戸惑いを反映する思想の実相を、第一人者が解き明かす。
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Posted by ブクログ
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻。それを指揮するプーチン大統領の念頭にはネオ・ユーラシア主義があるとする声があった。その思想についてロシア思想史研究者が紹介する。
ネオ・ユーラシア主義は哲学者から政治家まで幅広い人々によって語られ、その立場によって微妙に中身も異なるため、これがそうだと指させる単純なものではない。ただ共通点として、
ポスト冷戦期の世界で「西側」の思想や経済体制こそ「正しい」とされる価値観への反発、ロシアを「西側」世界とは異なる「ユーラシア」(ヨーロッパとアジア)として定義していること、いずれは「西側」に対抗する「極」となり得る未来に期待していること、が挙げられる。
本書ではプーチンがネオ・ユーラシア主義を信奉していると結論づけるのは早計に過ぎると見ている。ただしプーチン政権のキモである反リベラリズムはネオ・ユーラシア主義と重なる部分がある。ネオ・ユーラシア主義と聞くとドゥーギンの名が即座に連想される(というか彼しか知らない)がネオ・ユーラシア主義は彼の専売特許ではない。プーチン政権のブレーン、プーチンのメンターと紹介されることもあったものの実際には彼とプーチンの関連はほぼない。これは意外だった。ドゥーギンが自身をそう演出しているのだという。にも関わらず彼の顔写真が帯なのはセールスのためかな。
極右でオカルトやスピに親和性のある「ビッグマウス」のドゥーギンより、グローバリズム批判、西側世界へのカウンターとしてネオ・ユーラシア主義を提唱したパナーリンの考えの方が現実的かつ思想的な深みがあって面白い。独善的な西側的世界観、資本主義へのオルタナティブとしての思想。社会主義は失敗したけれども、ロシアって本当に興味深く、存在感ある国である。
「ロシアのアイデンティティは重層的である。「西」であり「東」であり、ヨーロッパでありアジアである。多民族・多宗教が重要な要素でありながら、正教(キリスト教)文化圏としての色も濃い。現在の国民国家とかつての帝国としてのイメージが重なり合い、内向きであったかと思えば、時に帝国主義の顔も見せる。先進性と後進性を併せ持ち、近代性と前近代性が混在する。様々な意味で矛盾しているのに、トータルで見れば一体性があるように思える。こうしたロシアの複雑さを、新旧のユーラシア主義は捉えようとした。」