あらすじ
死霊、異常心理、怪物、狂信——
英国怪奇アンソロジーの定番作家、本邦初の短篇集。
古く平井呈一らに邦訳がなされ英国怪奇ものの一角をなすW・F・ハーヴィー。
鬼気迫る幽霊談、暗合と運命の交錯する奇譚から、精神の暗部を抉る不気味な物語まで、ときにブラック・ユーモアを漂わせて絶妙なアトモスフィアを醸しだす。
水木しげる漫画「むし暑い日」に翻案された「炎暑」、あるいは映画『五本指の野獣』の原作として後世のホラー映画に影響をもたらした「五本指のけだもの」等々、新訳が俟たれし異界への裂け目を顕わす作品をここに集成。
初訳3篇を含む新訳による珠玉のコレクション。
✺初訳作品「ミス・アヴェナル」「追随者」「ピーター・レヴィシャム」
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ハーヴィーの怪奇小説を9編収録。傑作は「炎暑」「五本指のけだもの」。何回読んでもぞっとする。看護するうちに生気を奪われる「ミス・アヴェナル」小説家がある日思いついたテーマを執筆しようとした瞬間起こる奇妙な偶然「追随者」が特に良かった。
Posted by ブクログ
怖いというより不思議という感想の作品が多い短編集。
啓示や憑依が絡んだり神や悪魔の存在を示唆する作品が多くキリスト教圏の中で生まれたものという印象が強い。
炎暑と道具の2編が特にそうした作家性を強く感じたのとビジュアルインパクトが強い表題作の3編が印象に残った。
Posted by ブクログ
「炎暑」や表題作など、数々のアンソロジーで作品が収録あるいは映像化されてきながら、日本ではこれまでまとまった形で紹介されていなかった英国怪奇作家ハーヴィーの短編集。初訳3編を含む9編収録。
・2人の男のふとした思い付きが偶然の邂逅によって不穏さを呼ぶ、怪奇小説アンソロジーのマスターピースでもある逸品「炎暑」。
・神経衰弱の女性の付添い看護を任された看護師の体験「ミス・アヴェナル」はヴァンパイアものの変奏とも読める。
・先祖の不行跡が怪異を起こす「アンカーダイン家の専用礼拝席」は舞台設定からしてM.R.ジェイムズ風。
・ポルターガイスト現象の解明のはずがサイコホラー色を帯びていく「ミス・コーニリアス」は、タイトルになっている女性はもちろん主人公も含め、登場人物が皆厭な感じ。
・「追随者」はクリエイターの思い付きが現実を侵食してくる点で「炎暑」と共通しているか。老人の1人が語るアジアで発見された貴重な古写本、失われた奥義のあたりは、何やらクトゥルー神話の世界と繋がるような気も。
・盲目の老学者エイドリアンの右手が本人とは別個の意思を持ち、学者の死後切り離されて大暴れする表題作「五本指のけだもの」。怪物ホラーであり、不気味でありつつも黒いユーモアに満ちている点でも、他の収録作品とも趣を異にしている。
怪物化した"右手"は何らかが憑依したと思しいが、エイドリアンの陰の人格が顕在化(ジキルとハイドよろしく)したのか―と考えるのは深読みし過ぎか。
・旅行先で死体を発見するものの、自分の記憶が抜け落ちていることに気付く「道具」、敬虔なクエーカー教徒で人格者の大おばの周囲で起こる異変「セアラ・ベネットの憑依」、殺人で死刑になった男と、彼が罪を犯す前に3度遭遇していた男「ピーター・レヴィシャム」。この3作品は収録作の中でも特に宗教色が強い感を受ける。
またその他の作品も"何かが起きた"ことは描かれていてもその原因や理由までは明確に書かれていない。因果律や"天の配剤"といった考えを超えた―人間の眼には不条理に映ることも全て神の手によるもの―とでもいう、ともすると諦観とすら思えてくるようなところも、作家ハーヴィー自身の宗教観、なんだろうか。
Posted by ブクログ
「炎天」(本書では「炎暑」)の印象が強いので、他の作品は大したことないように見えてしまうのでは.との先入観があったが、それとは異なる印象の作品で面白いものが幾つか載っていて楽しめた。いちばん気に入ったのは自然(地形?)の設定も独特な「ミス・アヴェナル」、謎のコンビの姿が目に浮かぶような「追随者」かな。「ピーター・レヴィシャム」は好きというのとは少し違うけど、救いを3度拒むという象徴的な筋書きと、ふしぎが平然と日常に差し込んでくる感じがモダンで印象的だった。
Posted by ブクログ
「2024年度のベストホラー!海外編第1位」
「このホラーがすごい!2025年版」
と書かれた帯の宣伝を見て、気になったので購入。
あくまで怪奇小説なので、怖いのが読みたいというよりは、不気味な話が読みたい人向け。
つまらないわけではないけど、帯の宣伝で高まった期待値に応えられるような作品ではなかった。