【感想・ネタバレ】脳と免疫の謎 心身の不調はどこからくるのかのレビュー

あらすじ

疲労・炎症のメカニズムからセルフケアまで

「脳の免疫細胞」と言われるグリア細胞の研究が進み、脳と免疫の相互作用が心身の不調、精神疾患、依存症などに影響を及ぼしていることが明らかになってきている。いったい脳の中で何が起きているのか。脳と免疫の知られざる関係とは。脳疲労・炎症のメカニズムだけでなく、病気との関連性や脳パフォーマンスの上げ方、セルフケアまで、気鋭の脳科学者が最新研究の成果をわかりやすく解説する!

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Posted by ブクログ

■新型コロナウイルスをきっかけとして全身に生じた炎症が脳に移行してしまうことで「ブレインフォグ」と呼ばれる認知機能障害を引き起こす可能性があると考えられている。ブレインフォグとはその名のとおり、まるで頭に霧(フォグ)がかかったような感覚とともに、集中力や記憶力の低下が起きる状態をさす。パンデミックの収束後も、このようなコロナ後遺症に悩む人々が少なくありません。実はパンデミック以前から、「自己免疫疾患」や「慢性疲労症候群」によっても引き起こされることが知られていた。
■免疫力が下がるときに起きていること
 「免疫力を下げる」要因は複数指摘されており、新型コロナウイルス感染症でも基礎疾患が重症化リスクを高めると言われていた。また、高齢者、肥満、喫煙も重症化の恐れがあるし、ストレス、睡眠不足、栄養不足などもある。
 免疫力の低下を防ぐためには十分な休養と睡眠を取り、栄養バランスの取れた食事を心がけること、ストレスを溜めないことが大切と言われる。
■炎症がすべてのカギを握っている
 私達の身体が、「本当は変化したくないけど、変化してしまったので元に戻す過程、つまり「恒常性(ホメオスタシス)」を維持する上で極めて重要な役割を果たしている。ホメオスタシスとは、すべての生命が共通で持っている原理・原則で、生体内の環境が一定の範囲内で保たれる動的な過程をさす。
 ざっくり言えば、炎症は、外部からの侵入者を排除し、損傷を受けた組織の修復を行い最終的には体の平衡状態を回復させる過程に不可欠なもの。その炎症の役割は大きく分けると、「外敵の排除」、「修復の促進」、「警告」の3つに分類できる。
 まず白血球などの免疫細胞が傷口に集まり、最近やウイルスを攻撃し排除しようとする。次に傷口周辺の血管が拡張し、血液量が増加する。これにより栄養素や酸素が傷口に供給され修復が促進される。さらに、傷口周辺の血管が拡張し、血流が増加することによって生じる「発赤」や体温の上昇により免疫細胞の働きが活発になる「発熱」、血管の透過性が高まることにより血液成分が組織内に漏れ、腫れを引き起こす「腫脹」、そして神経が刺激されることで感じる「疼痛」などの症状が現れる。これらの症状は異常が起こっていることを体全体に知らせる警告サインである。
■適度なストレスは脳を活性化させるが、過度のストレスや慢性的なストレスは免疫系の機能を低下させることがある。実際、身体から放出されるストレスホルモンは免疫応答を抑制する。つまり精神的なストレスが実際に身体に影響を与えてしまう。
■脳の免疫を担当する重要な細胞は「グリア細胞」である。特に「ミクログリア」は通常は脳の健康を維持するために損傷した細胞や異物の除去に貢献しているが、過剰に活性化すると神経炎症を引き起こし様々な神経系の病態を誘発する可能性も知られており、二面性を持つことが報告されている。
■血液脳関門とは何か
 脳は「神経伝達物質」を駆使して繊細な情報伝達をしている。従って脳の外部から何かしらの化学物質が侵入してくると、その活動が撹乱されて正常な働きができなくなる。それを防ぐために、脳に余計なものが入ってこないように守るバリアの働きをする仕組みが存在している。これを「血液脳関門」という。
■ドーパミンは「快楽ホルモン」と呼ばれるが、本来の働きは報酬の予測であり、それ自体が快楽を生み出すわけではない。脳内ではドーパミンが「これから報酬が得られそうだ」という予測信号として働くが、その予測が的中して実際に心地よい刺激が得られたとき、他の神経伝達物質(例えばエンドルフィンなど)がより直接的快楽を引き起こす。つまり、ドーパミンはあくまで「ご褒美を期待する」アクセル役であり実際の「気持ちよさ」を作り出すのは他の仕組みや物質との相互作用である。
■セロトニンは「幸せホルモン」と言われており、セロトニンを始めとしたアミン類が脳内で不足することがうつ病の原因であると考えられている。
 SSRIとは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」の略称で、ただでさえ放出量が減っているセロトニンが脳細胞に取り込まれてしまわないように阻害する働きがある。
 セロトニンの90%は腸で作られている。腸で作られたセロトニンは直接脳には届かないと言われている。一方、セロトニンの「前駆体」である5-HTPは脳に届く。5-HTPはトリプトファンというアミノ酸から作られるが、これを作っているのが腸内細菌であると言われている。従って、腸内細菌に問題がありトリプトファンから5-HTPが作られないと脳でもセロトニンが不足してしまうと考えられる。
 セロトニン自身は決して、「幸せホルモン」ではない。セロトニンの本来の働きは、最適な覚醒をもたらす自律神経の働きを整えることであり、その結果として、心のバランスを保つという働きが生じている。
■日常生活における実践方法
 「畏敬の念」が炎症性サイトカインの減少と関わっている可能性が示唆されている。 同じく大切なのが「感謝」の気持ち。たとえ小さなことでも「ありがたいな」「嬉しいな」と意識的に思うことで心が前向きになりやすくなり、ストレス反応も和らぐとされている。この「感謝」もポジティブな感情の一つとして注目されており、実際に「感謝日記」をつけることで幸福感や精神的な健康が高まるという研究結果も報告されている。
■交感神経系と副交感神経系の二つからなる自律神経系は相互作用こそが重要である。生命の本質は「常に変わらないこと」つまり恒常性にある。副交感神経系の働きの本質は昂った交感神経系を「元に戻す」ことにある。交感神経系が昂るのはそもそも、外界からの種々のストレスに対処するため。本当は変わりたくないけど外界が変化するから仕方なく変化するというかなり柔軟なことをやってくれている。
■慢性的な脳疲労を癒やす具体的な方法
 二つの原理と三つの原則。
 二つの原理。
①「禁止・禁止」の原理。これは自分で自分を禁止することをできる限りしないということ。
②「快」の原理。これは、自分にとって心地よいことを一つでも始めることを意味する。
三つの原則。
①健康によいとされることであっても、それが自分にとって嫌なものであれば、決してそれを行わない、または食べないこと。
②健康に悪いとされることでも、それが好きでやめられない場合は、とりあえずそのまま続けること。これによって、心理的なストレスを避けることができる。
③健康によくて、かつ自分がとても好きなことを一つでもいいから始める。または食べ始めること。

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2025年09月02日

Posted by ブクログ

病は気から、と昔からよく言われるフレーズがある。これは精神論のもと、気合いが入ってないから病にかかる、甘さを鍛え直す場面で使われることがある。これは非科学的なこととして、その因果関係に踏み込んだ研究は少なかった。著者は脳におけるグリア細胞の機能に着目し、精神作用が免疫に及ぼす影響を科学的に見いだしている。免疫が普通に働く場合は、正常な修復機能として問題ないが、免疫バランスが崩れたら、炎症などの異常が起きる。このバランスを保つ上での考え方を示唆している。ヒトは自分で栄養を作り出せないから、食べるという行為で外から栄養を取っているが、植物由来の成分を取ることが健康を保つ上で重要であり、その理由について、植物が外部環境から自身を守るために発達させてきた要素が免疫を高めることに効果があることを、詳しく説明している。食生活の大切さを再認識させられる。

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2025年10月19日

Posted by ブクログ

ホメオスタシスのためのストレス対応、神経伝達物質と受容体のシーソーゲーム。電気信号も化学信号に変換する事で柔軟で複雑な処理。脳のリンパを司るグリア細胞が脳をメンテ。睡眠重要。ノルアドレナリンで脳内血圧上昇。脳腫瘍はグリア細胞の癌。ループ回路のブレーキが効かなくなると精神障害。受容体の変化によって起こる離脱症状。身体の炎症物質→脳内炎症→グリア細胞の機能不全→メンタル不調。畏敬の念。感謝。自己コントロール感。新奇体験。迷ったら新しい方を選ぶ。適度な運動。とりあえず始める。結局、運動+睡眠+腸内環境+楽しく笑。

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2025年09月14日

Posted by ブクログ

人の認知としてのワンショット学習、これは、中々いい。
場を制す、底を抜く感覚に通じるか。まぁ、暗黙知だけど。
シーソーゲームってのも、面白いか。これは大地あってか。
ちとAIには、不向きだ。

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2025年11月06日

Posted by ブクログ

最近の脳科学で、グリア細胞の働きや脳内の炎症などの解明が進み、うつ病なども脳内の炎症が原因では無いかと考えられて来ている。
これまでの心身二元論ではなく、精神現象も脳内の科学的なメカニズムで説明が可能になりつつある。

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2025年08月28日

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