あらすじ
台湾在住の日本人である筆者が、歴史上内部に複雑な多様性を抱えざるを得なかった「台湾」という概念がどう作られてきたのかを描く。
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Posted by ブクログ
「親日的」、IT先進国、観光、東アジアの軍事的緊張などの文脈で語られることが多い台湾について、台湾在住の日本人研究者として、歴史、言語、文化などの観点から「台湾らしさ」とは何か、日本人としてどう向き合っていくか、を考察した本。身近だと思っている台湾について、意外に理解していなかったことを気づかせてくれる本だと思います。
まず、「台湾史」という概念自体が新しい概念であること、という意外性に驚かされます。説明を読めばなるほどと思いますが、1987年の戒厳令解除までは「中華民国史」という大陸の漢民族の歴史が教えられてきました。台湾には原住民(16部族。本書でも説明されますが、台湾では差別的意味合いはありません)、漢民族(本省人、客家人、外省人)が住んでおり、原住民はオーストロネシア語族です。漢民族の移住は16世紀後半からであり、清、大日本帝国、大陸から逃れてきた中華民国と支配者が続きます。著者は民主化以降、台湾の「台湾化」が始まったと記しています。
台湾の言語について、単純に発音の違いはあっても中国語なのではないか、と思っていましたが、著者によれば、本来、台湾語(本省人)、中国語(外省人)、客家語(客家人)、原住民諸語(原住民)とエスニシティで分かれているようです。台湾は100年近く外来者による支配により他者の言語を押し付けられてきた歴史があり、言語についても政治性を帯びてしまうということです。「台湾語」を始めとする本土語は「台湾らしさ」を象徴するものであり、公の場で何語を話すのか、ということ自体が意味を持つという状況については全く認識していませんでした。
こうした歴史や言語の状況を踏まえ、後半では「台湾らしさ」を考察します。日本人や中国人といった他者との対比から形成されてきたものから、他者の文化的影響も包摂したあり方が「台湾らしさ」なのではないか、というのが著者の主張するところではないかと感じました。
【目次】
はじめに
第一章 台湾へのまなざし
第二章 台湾のはじまり
第三章 その言葉はだれのものか──言語をめぐるカルチュラル・ポリティクス
第四章 「台湾らしさ」とはなにか──抵抗の諸相
第五章 「台湾らしさ」とはなにか──包摂の諸相
終章 「家族」としての台湾
あとがき
Posted by ブクログ
いわゆる歴史や政治の本とは少し違った視点で非常に面白かった。
・「親日だから台湾が好き」ってどうなのよ
・日本を肯定してくれる台湾=外国から礼賛される日本、で自己肯定感を取り戻している
・それは本当に台湾を見ているのか、「親日台湾」を通して目を向けている先は日本ではないか
という話が一番印象に残った。
Posted by ブクログ
こうして台湾の歴史を振り返ってみると、いかに複雑だったかということがわかる。
日本統治時代でいえば、近代化を進めたという光の側面もあれば、差別がひどく、尊厳を傷つけてきたという闇の側面ももちろんあった。
台湾人の心境としては、当然簡単に割り切れるものではない。我々日本人としてもその割り切れなさは一緒に抱えていかなければならず、「台湾=親日」という単純な解釈で、自分たちを間接的に慰めているようではダメだと、改めて自分自身に忠告したい気持ち。
台湾という国は複雑さの中で、国のあり方や台湾人としてのアイデンティティを模索している状況なのかと。この変化が激しい国際社会ではその方が、機敏に適応できそうだし、次世代の人にもちゃんとした国際感覚が身に付くんだろうな思う。逆に今の日本の状況に危機感すら覚える。
これからどんどん「らしさ」をアップデートしていくであろう隣国を、リアルタイムで知って、できれば肌で感じていきたいと思った。
Posted by ブクログ
わかりやすく知りたい所がまとまっていたと思う。
著者もこの本に対して起きるであろう色んな反論は認めつつも、生活者の視点として書かれる視点は面白い。
Posted by ブクログ
「台湾らしさ」とは何か。
たしかに、台湾と言えば小籠包や故宮博物館の展示物が思い浮かびますが、それは国民党が大陸から持ってきた「中国らしい」ものです。
また、台北のMRTなどは日本らしさがあり、日本人ならば既視感を覚えるでしょう。
台湾独自の「台湾らしさ」とは何か。
このテーマについて深く深く掘り下げている本書は、これまで台湾について書かれたものとは異質のものであると言えます。
常にどこかに支配されてきた台湾。その歴史的経緯にかんがみ、独自の文化と言えるものが発展してこなかったのではないか? との疑問に答える良書です。
少なくとも私は、この本での丁寧な考察を追うことにより「台湾らしさ」についての理解が若干理解が深まったような気がします。
また、この本、台湾でも発売されないかな、とは思いました。