あらすじ
世界一周の歴史をたどれば、近現代史の意外な横顔が見えてくる――「ダーウィンの進化論は世界一周なくしては成立しなかった?」「マゼランはなぜモルッカ諸島を目指したのか?」「19世紀の世界一周パックツアーの旅程とは?」などなど、国際報道に携わる日経記者が、横浜、香港、ロンドン、ジュネーブまで、各都市を自ら旅しながら、500年の歴史を振り返ります。カラー口絵つき。
【目次】
はじめに なぜ人は世界一周を目指すのか
第1章 横浜 渋沢栄一と世界一周の意味
第2章 モルッカ諸島 マゼランと世界を見る目
第3章 ロンドン トマス・クックと世界一周の民主化
第4章 香港 パンナムと空の旅の黄金時代
第5章 ニューヨーク 日航世界一周と「国民の悲願」
第6章 ブリストル コンコルドとスピード信仰の時代
第7章 ダンディー 世界一周取材「レディースツアー」
第8章 ジュネーブ ベルトラン・ピカールと21世紀の旅行
おわりに
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Posted by ブクログ
一度はやってみたい世界一周。でもそんなに長く家を空けておくことはできない。できる人は金と暇のある人だけ。
というわけで、まず登場したのが大河ドラマ『青天を衝け』に登場した渋沢栄一。激動の幕末から明治維新を迎えた栄一は、欧米視察を主目的とし、時のアメリカ大統領にまで逢っている。決してお気楽な漫遊旅行ではないのだ。一方同時代のアメリカ人カーネギーは、栄一が軽視したアジアを重要視。
「行って、われわれがいかに偏見に縛られているか、われわれ自身の進歩の多くがいかに波乱万丈で不確かか、いかにほとんどすべてが均衡しているかを、自分の目で確かめてほしい。最良のものをすべて持っている国家はなく、いくつかの利点に恵まれない国家もない。また、どの社会にも、自国の再興・最良の人々と肩を並べるような人格的特質を備えた人物が数多く存在するのだ(p56)」
世界一周を初めて成し遂げたのはマゼラン。しかし彼は旅の途中で殺されてしまった。但し現地民の間では、マゼランを殺したラプラプ(名前がやけにかわいい)が英雄視されており、勲章にも冠されている。そんなものである。マゼランの時代、博愛精神あふれるキリスト教の布教も、世界一周の目的の一つでもあったが、結果的に彼等が訪れた先は悉く侵略され、汝の敵を愛せよ状態ではなくなっている点が皮肉である。
当初船によるものだった世界一周は、やがて空の旅に移る。パンナムのファン・トリップは
「ひとつの国家やひとつの大陸だけでなく、やがて地球全体がひとつの地域となる。それは比喩的に言えば、通りを隔てた向こう側にあるようなものだ。この事実が人間関係の分野に及ぼす影響はとてつもなく大きい。(p171)」
と述べているが、現在さらに、世界が通りを隔てた向こう側にある感覚をもたらすのはSNSである。つまり行かずして世界を体感できるのだ。
ただ、それでも人は、旅への郷愁、好奇心をおさえられない。旅とは、それだけの魅力を備えている。