あらすじ
フェミニズムを目撃する新しい紀行文学
「女性、命、自由!」デモの叫びが響くテヘランで、ニコラ・ブーヴィエの名著をたどり直す冒険が始まる──。
『世界の使い方』は〈僕〉にとって聖典のような存在だ。彼が旅した景色を自分で確かめるのが長年の夢だった。パリからテヘランに向かう飛行機では、一睡もできなかった。携帯電話にフランス外務省からの着信があり、イランで監禁される危険性を告げられていたからだ。
22歳のクルド人女性が、「不適切な服装」を理由に道徳警察に逮捕され殺害された……マフサ・アミニ事件をきっかけに、イラン全土で抗議運動が起きていた。そのデモ活動に参加した、同じくZ世代で16歳のニカ・シャカラミも被害に遭う。女性たちが髪を風になびかせながら抑圧に立ち向かう姿を目撃し、〈僕〉は、イランの過酷な現実を突きつけられる。砂漠が広がる大地の上、「死者の背後では千の心臓が鼓動する」。
テヘランからエスファハーン、ペルセポリスを経てザーヘダーン、サッゲズに至る縦断記は、傷ついた世界を生きる者のため「世界の傷口」に命がけでペンを差し入れる新しい紀行文学。アカデミー・フランセーズ賞受賞の作家の日本デビュー作。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
イランはシーア派イスラム教独裁政権下での女性抑圧、スンニ派への抑圧、経済の悪化という悪評で知られている。
しかしイランでの抗議運動が実際にどのような形で起こっているのか、浅学ながら私はこの本で初めて知った。
組織的なリーダーがいるわけではなく、一人一人が勇気を出して抗議し、それぞれが徐々に呼応しあって大きな畝りになっていったのだ。
市民生活ではヒジャブを外して抵抗の意を示す人、それを通報しないことで静かな抵抗に参加する人が多いと知って驚いた。
女性達の勇気に敬意と連帯を表する。
Posted by ブクログ
2022年末、イランの旅
著者はブーヴィエ『世界の使い方』(旅行記)を読み、人生でやるべきことー世界を見つめ書くこと、を見出す。
2022年9月若い女性が「不適切な服装」をしていると警察に連行され脳出血で死亡、その後国内で抗議デモが頻発というイラン国内の状況の中、2022年末に著者はイランに出発。最初の宿から危険が迫ったが著者は自身の憧れを完遂するため宗教が政治を凌駕している国でタフな旅を続ける。だが、ある日突然に旅はあっけなく終わる。
訳者さんの解説から読んだほうがいいかもしれないぐらい私はイランに対して無知だなあと感じました。2025年現在のイランも世界もどうなるのかさっぱり分からない。
印象に残ったちょっとしたエピソード
・タアーロフというイランの礼儀であり常識が少し日本でのマナーに似ていること
・アプリを使ってお祈りの時間を管理していること
・抗議をインスタに投稿、拡散
・期限付きの結婚、スィーゲというものがあること
Posted by ブクログ
ニュースでは、「イランの最高指導者である宗教指導者の〇〇氏は〜」とよく聞くが、宗教指導者が政治のトップにいるというのは、つまり、宗教の名の下で様々なことが体制側に都合よく解釈され、勝手に罰則が設けられ、体制を批判するものには人権はない、という世界のようだ。中東のテロ事件でよく聞くイスラム教原理主義の人たちは、暴力的で女性を虐げる、という印象を持っていたが、国民への締め付けがほんの少しだけゆるいだけで、まあ、似たようなことが起きているようだと感じた。
イランのことをあまり知らずにいたので、こんなふうに抑圧されている国だったのか、と驚いた。
よく考えたら、イランだけでなく、世界のあっちでもこっちでも、同じようなことが起きている。もしかしたらアメリカも同じようになってきている?日本はどうなる?せめて自分の周りだけでも、いい感じにしていきたいですね。
Posted by ブクログ
まず、イランの情勢に対してあまりに無知なため、読み進めるのが大変だった。フランス(ヨーロッパ)からの視点が体感として理解できなかったので、感情的に共感できる部分が少なかった。(後書きが丁寧に書かれており、これでだいぶ補足できた。)
しかし、この本が提起する問題は普遍的なもので、一皮剥けば世界はこのようになりうるという恐怖と、いかに自分が世界に対して鈍感なのかを思った。
この本がフランスではベストセラーとのこと。島国で安穏としていると足元がぐらぐらしていることに気がつかないのかも。
Posted by ブクログ
残酷なイスラム共和国の在り様や人々が、フランス人の素朴な上から目線で詩的に素敵に語られる。訳者の解説がよく配慮されており、この解説のお陰で本としてのバランスが回復されている。
男女とか◯◯人といった括りで語れるほど世の中単純ではないね。ダゲスタンやアフガニスタンの人にとってイランが逃げ込める先でもあるように
Posted by ブクログ
軽く読める、恐ろしい程に。
それだけ、この執筆、視点、分析が適当なものであるか、些か疑問に終わった読書。
筆者は、元サッカー選手という異色なキャリアを持つし、出す本は全てベストセラー・・正直驚く。
日本は外国かぶれだから、この作家がそういった履歴を持つだけで、この本が素晴らしいと思う事はやめてほしい。
頁の文字配置がぱらっとしているし、空間が多いので読み易いのだろうが、中身のシリアスさは逆説的に、筆者の「欧米的、先進国的視点」を伺わせる。
歴史的に言えば、とてつもないものを持つこの国。
今は石油問題、中東問題、シリアとの関係などでムスリムの国の最たる存在と思われるだろうが実はかなり複雑な多民族国家。言語も多彩であり、梅林がるどころか複数語を操る人も少なくない。
本の原題は「世界の荒廃∼イラン縦断記」・・このほうが的確かと思えた。
筆者デゼラブルが旅の途中で出会った人々を通じてイランの国内事情を小説仕立てにした旅行記・・に過ぎないのにベストセラーになったからと言って、決してイランの複雑な今後への展望は見いだせない。
服装の乱れによる罪状で拘留され、そのさなかで死亡した女子大生 アミ二事件が一つのきっかけになっただけで物事は一考に進んでいないように思えてならない。この後、どれだけ血を流し、人権、男女の性差、宗教問題にメスが入れられるのか、日が暮れて道遠しとしか思えない。