あらすじ
「しずくは空に昇ってみたい」富豪の夫人に売られてゆくことが決まった見せ物小屋の人魚が、最後に口にした願いは観覧車へ乗ることだった。しかし観覧車の頂上で人魚はしゃぼん玉の泡のように消えてしまい――(表題作「人魚は空に還る」)。風のように身軽で変装の名人、そして鮮やかな盗みっぷりで世間を風靡する怪盗ロータス。予告状に示された次の狙いは大邸宅の主人が集めた洋画だった――(「怪盗ロータス」)。明治の世に生きる心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、ふたりの青年が贈る帝都物語。人情味あふれる五篇を収録したデビュー作品集。
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Posted by ブクログ
時は明治、美貌の人気絵師と絵師に振り回される雑誌記者が帝都で起こる不思議な事件を解決していく―と書くと絵師がホームズで記者がワトソンと思うでしょうがところがどっこい、ホームズ大好きな絵師が、記者にホームズ役をやらせるという予想外の役割分担が面白い。短編集ですが、どの事件も優しさと淋しさが漂う絶妙な雰囲気で素敵でした。続編も読みたい。
Posted by ブクログ
創元推理から出ていても、ミステリ小説というよりは時代物の浪漫譚。
そしてこれが最高に面白い。
貧乏だけど人情家でお人好し、でありながら頭脳明晰・腕っ節も強い探偵と、自分に自信ありまくりの超美形売れっ子絵描きの男二人コンビという、
また女子の大好きな設定だなぁ…と思いながら、ちょっとそっち系に媚びた作風を邪推して読んだのだけど、とても期待を裏切ってくれた。
不可思議な出来事と、そこに潜む人たちの不器用な想い、ままならない出来事への主人公たちの憤りや心配や思いやりがまっすぐ心に届く作品。
Posted by ブクログ
表題作「人魚は空に還る」の最後、小川が筆名を明かすところでアッと膝を打った。ただ「赤い蝋燭と人魚」は笑顔になりようのない物語だったと記憶しているのだが。
すっきりした文章で、全体が穏やかにまとまっている。ミステリを期待すると今ひとつかもしれない。系統としては坂木司さんの作品に近いが、やや及ばない印象。ホームズ役とワトソン役の逆転がキモなので、その新鮮さがどれだけ読ませるか。今後に期待。
Posted by ブクログ
坂木司さんの引き籠もり探偵が好きだったらこちらもお勧めかも。
ホームズ役がちょっとお人好しで、ワトスン役がやたら不遜ですが。
時代背景や小道具も好み。
読む前は幻想小説系も入るかと思いきや、ワトスン氏の美貌以外はそんなこともなかったです。
続きの「世界記憶コンクール」も読み出し中。
Posted by ブクログ
雑誌記者の高広と、仕事相手で友人でもある美貌の天才絵師・礼のコンビがさまざまな事件を解決するミステリ。
デビュー作の短編4作と、文庫化にあたり礼のキャラクタを深めるエピソードが追加されている。
行方不明の兄を探す小学生の手伝いをする第一作『点灯人』で主要人物が出切って、伏線にしてもよかったと思う高広の出自が明らかになり、彼は浅見光彦みたいな立場なのだなとわかる。
この設定で多少の都合のよさは黙認され、大掛かりな事件に携わる素地完成。よくできている。
消えた真珠の謎を追う『真珠生成』は、誰が真珠を盗んだのかという謎の核心と真珠というモノが生成される過程をうまーく絡めている。
『人魚は空に還る』は見世物一座の披露する”人魚”の正体に迫る。
かなり風情のある情景が浮かぶ。
そして一座の座長の友人で、高広とは仕事仲間の作家が終わりに小川未明であることが明かされる。
『怪盗ロータス』は相場操作や違法賭博に絡む一番大がかりな話。
フィナーレという派手さはあるけど物語としては一番普通かも。
表紙もこんなだし、高広と礼の設定的に腐女子狙いでそういうのを匂わせる感じ。
分かりやすい主人公にベタな展開で本格ミステリというよりラノベ寄りの印象はあるけれど、時代設定もあり風流な土台があるので軽薄な感じがしないのがよい。
小川未明や柳田国男、モネなどの人物がちらりと出てきてにやりとする仕掛けもあり。
一見、探偵役になりがちな礼があくまで高広の助手という立場なのも新しい。
デビュー作とのことで、ベテランさんほどこなれた文章ではないものの雰囲気があって読みやすい。
振り返るとかなり構成が練りこまれているのだなと感心する。
既にシリーズ3巻目も出ているということで、息の長い作品になるのではないでしょうか。