あらすじ
白刃勲章持ちのネールを連れたランヴァルド。山賊討伐のついでにドラゴン退治を完遂(※ネールが)したり、『三歩進めば人助け』は相変わらず! ふたりぼっちの道中はさながら英雄の旅路である。
さらに、民衆を扇動して反乱を起こし「民を飢えさせない新領主」を据えたりと、日々「世直し」を続けるふたりを国が放っておくはずもなく……!?
功績を称えられ、陛下から褒美を賜ることになったネールは『魔物によって滅びた故郷』を所領とすることに。さっそく開拓使節団としてジレネロストで暮らし始めたふたりだったが、ネールの両親が訪ねてきたことで、再会は悲しみを生み、ネールは塞ぎ込んでしまう。かつて家族に死を願われたことのあるランヴァルド。流れ者の自称悪徳商人でしかない彼は、少女に何ができるのか!?
「――ネール。痛むところはあるか?」
ネールのために、彼が必死で紡いだ本心とは。
復讐に燃える青年と行き場のない少女のハートフル冒険譚、決意と覚悟が芽吹く第三幕。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ドラゴンが現れたドラクスローガという触れ込みの割にドラゴン退治は呆気なかったし、領主の態度も素っ気ない。何ともしっくり来ない土地はそもそも善政が行われない土地でしたか
農村暮らしの狩人が山賊崩れに成り下がるしかないともなれば、そこで金稼ぎをするなんて不可能。悪徳商人を自称するランヴァルドはドラクスローガでの稼ぎを確保する為にも金払いの悪い領主を引き摺り下ろす事になるわけだ
…と、悪徳商人らしい建前は出来ているけど、これって普通に悪政を敷く領主への義憤から革命を志す英雄的行動だよなぁ。勿論、ランヴァルドとしてはそんなつもりで行動しているなんて絶対に認めないだろうけど、前提と過程と結果だけを見れば善人の行動にしか思えないもの
また、ランヴァルドに賛同するのは領主に苦しめられている者達であるというのも象徴的
そこには人を喰い物にできないエリク達の純朴さはあるけれど、ランヴァルドの掲げる方針が弱い立場にとって有り難いものだというのは間違いなく言えるだろうね
だって、領主を追い遣れば儲かる、なんて考えて革命を始めたのに、結局商売そのものは国相手だけに行い、混乱の渦中で物価が乱高下しそうなドラクスローガでは一切の商いをしなかったのだから
そんな彼を「クズ」呼ばわりする事はもはや難しいし、そうした誠実な人間だからこそネールが懐いているのだと、改めて思えるよ
そうして利他までは行かなくても他人の益を意識して動くランヴァルドに保護されながら活動してきたネールは遂に国王に謁見するまでの立場に。おまけにジレネロストを所領に望んで一考の価値ありとまで受け止められてるし
武功しかない幼い少女がここまでの立場になるだなんて誰が想像したろうね!
ネールの故郷・ジレネロストを舞台に巻き起こるのは毎度の古代遺跡暴走。流石に4回目ともなれば慣れたもので。本番はネールの両親が登場してからか
ネールって登場当初は浮浪児そのもので、家庭の温かみから程遠い生活をしていた。それでいて時折家族の思い出は挿入されるから、出来る事ならネールが家族と再会できる機会があれば良いなと願っていた
だというのに、だというのに、である。まさかあんな親だったとは……
今のネールって本当に凄いんだよね。戦闘能力が高いなんていうのはネールを語る上ではおまけみたいな要素。ランヴァルドの庇護を受けてからのネールは多くの人に愛される少女になったし、彼女の活躍で救われた人だって大勢いる。今も滅んだジレネロスト復興の為に尽力している。それら行動の全てに嫌味が無いのが何よりも素晴らしい
ランヴァルドは「可愛いは得」なんて評するけれど、ネールの可愛らしさは外見的なものだけでなく、態度や行動にこそ現れている
彼女は誰からも愛されている
だからこそ、ネールを最も愛していて欲しい両親が彼女にそうした感情を一切持ち合わせていなかったのが本当にショックで…。諸々のシーンを読んでいる際にはランヴァルドと同じようにこちらまで「信じさせてくれよ」なんて思ってしまったよ…
いや、だって“納屋”の背景に気付いた途端ぞっとしたからね…。
こうなってくると、読者視点では親として全く評価できないシモンより誠実さを忘れないランヴァルドの方が家族に相応しい!と思ってしまう
けど、ランヴァルドはランヴァルドで家族という存在の厄介さを知っている。なのに、親から愛される事こそ正しいのだと信じずに居られないくらいには摩れていない。ランヴァルドがシモンの扱いに困るのもそういう背景が見え隠れしている
表層だけ見れば悪徳商人らしく稼ぎの種・ネールを手放したくないとの考えは確かにある。けど、少しでも深く分け入って見れば“良い親”ではないシモンに愛らしいネールを返す事が正しいのかと懊悩する様子が判る
イサクは「公正を欠くかもしれない、と危惧する人は、公正であろうとする人だ」と告げてくれるけど、この考え方を転用すれば「自分は親に成れない、と悩む彼は家族であろうとする人だ」とも受け取れる
だからか、ランヴァルドはヘレーナがネールを“化け物”だなんて言及した際には思わず反論してしまうし、崩落の危険がある遺跡で諦めずに彼女を救出しようとする。極めつけは捨てられた直後の彼女に投げかけた思い遣りに溢れた言葉の数々か。「もう俺とお前は家族みたいなもんだ」なんて、あのランヴァルドが言うなんてなぁ……!
ランヴァルドは母親から殺されかけ、その後は天涯孤独として生きる中で家族に幻想なんて持てないだろう境遇。それでもネールには家族の下で愛されていて欲しかったと彼は考えている。それが叶わないとなった時、自分と同じように彼女を天涯孤独として生きさせるのではなく、かといって「家族なんてこんなもんだ」と幻想を砕くのではなく
独りになりそうな彼女に対して“家族”として傍に居ようとする彼の姿には思わず感動してしまいましたよ……。そりゃネールだって「帰ってきた」と感じられるというものですよ!
ランヴァルドがネールの新たな家族となったなら、彼女に不幸を齎しそうな存在は遠ざけなければならない。あまりにもあまりな親と証明されたシモンに悪徳商人らしく口撃を駆使し撃退する様は爽快感が有ったね。特にその中でランヴァルドの覚悟が改めて示されたなら尚の事
そうであれば、ランヴァルドとネールの関係も改めなければならない。正直、ネールが金貨でランヴァルドを雇っているという体でランヴァルドが搾取している構図は流石に宜しくなかろうと思えていただけに、再契約が行われたのは本当に良かったな。終身雇用のような持ちつ持たれつの契約関係の体をしたパートナー契約。何より、親に裏切られたばかりのネールに対して「お前のことを裏切らない」との約束が交わされた点は、何がネールにとって大切かをランヴァルドが真摯に考えた結果であるように思えたな
また、それだけでなく、ネールがより幸福を掴めるように手を回し、更にはネールが将来的に辿り着いて欲しいビジョンを提示するなんてね
こういったライトノベルだから安易に捉えていた面はあるけれど、言われてみればネールの強さは常識からあまりに外れている。その点を意識すればリンド夫妻やアンネリエのように警戒するのは仕方ないというもの。けど、実際のネールはそんな危険人物ではなく、誰からも愛される少女で
そこで「化け物になる道を選ばせないように」というのは、親代わりになろうと覚悟したランヴァルドがネールをどう育てていくか、それを周囲にどうサポートして欲しいかを宣言したように思えたよ
……そうした尽力がまさかランヴァルドをジレネロスト領主にさせてしまうのはちょっと笑って良い展開かもしれないけども!
いや、だってネールを活躍させ領主にさせて補佐をする腹積もりだったのに、彼の方が先に領主に成ってしまうなんて笑い話も良いところだよ!まあ、ネールとしては尊敬しているランヴァルドが自分の故郷の領主になってくれるなんて嬉しくて仕方ない、なんて受け止めていそうだから良い落とし所なのだろうけども。…ランヴァルドがまさしく貧乏くじを引いてしまったという事実を除けば(笑)
元貴族とはいえ今では悪徳商人を自称する青年には荷が重い状況、これを前にして彼が最も重みを感じているのは「ネールを親から引き離した責務」であるのは良かったな。この点もイサクが言及していた“危惧する人”という点を象徴しているね
だからおまけエピソードにもそうした想いが表れている。両親に捨てられたばかりのネールを気遣い彼女が喜ぶ何かを与えられないかと頭を悩ませる。そんなの悪徳商人の柄ではないから不器用な事になる、作った経験も無いパイを焼く羽目に成る
そうしたランヴァルドの温かみはネールにも温かみと成って届く、ひとりぼっちじゃないと思える
魔物だらけの森で浮浪児同然の暮らしをしていたネールが今はランヴァルドや兵士達や大勢に囲まれて故郷の味に浸れるようになった。その幸福な姿にこちらまで目頭が熱くなるようなラストでしたよ……