あらすじ
西新宿の高層ビル街のはずれに事務所を構える私立探偵沢崎は、ひょんなことから、行方不明となったルポライターの調査に乗り出すことに??そして事件は過去の東京都知事狙撃事件の全貌へと繋がっていく……。いきのいい会話と緊密なプロット。レイモンド・チャンドラーに捧げられた記念すべき長篇デビュー作。
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Posted by ブクログ
デビュー作にしてこのクオリティ。
この原尞氏はまさにチャンドラーの正統なる後継者だ。
物語の導入部にある大富豪更科の邸への訪問は正にチャンドラーのマーロウシリーズ第1長編の『大いなる眠り』へのオマージュそのものだ。そして冒頭と終盤に現れるあの男は『長いお別れ』のテリー・レノックスだろう。
こういう舞台設定からして、チャンドラーを愛する者としては(自分のことをチャンドラリアンとまで評するほど、私はまだ判っていない)胸がくすぐられる思いがする。
さらに加えてプロットにはロスマク的家庭の悲劇も加味されている。権力に溺れゆく人々の狂った歯車がぎしぎしと音を立てて、沢崎によって一つ一つ解体されていく。
そして登場人物たち。
悪友ともいうべき新宿署の錦織、「カイフ」とだけ名乗って去っていった男、渦中の更科一家はもとより、中盤以降事件の焦点となる都知事の向坂、その弟で俳優の向坂晃司。特に向坂知事はその描写からして現都知事の石原慎太郎をモデルにしているとしか思えない。この作品当時、まだ新宿都庁は出来ておらず、当然の如く都知事も違う。
まるで原氏はこうなる事を予見していたかのようだ。
しかし正直に云えば、双子の兄弟でありながらある事情で苗字が違う仰木弁護士、失踪した佐伯を密かに慕う辰巳玲子、失踪した男の世話をしていた海部雅美などの登場頻度の少ない脇役の方が妙に印象に残った。
とどめはかつての沢崎のパートナーだった渡辺。手紙のみの登場をしなかった彼が今後シリーズにどのように関わってくるか、興味深い。
しかし何と云っても圧倒的存在感を放つのが主人公である探偵沢崎だ。
その他者の侵入を容易に許さぬ姿勢、上下関係や権力者特有の主従関係など全く意に介さず、どんな相手にも自分の態度を崩さず対面する男。背伸びせず、粋がりもせず、かといって卑屈にもならない。読者の眼の前にいつの間にかあるイメージが上がっていく。
しかし、気付いたであろうか?
文中、沢崎の人と成りを表した描写など一切ないことを。原は沢崎の台詞と仕草、動きだけで読者にそれぞれの沢崎像を作らせているのだ。この筆致の凄さは並々ならぬものがある。
さらに文章。チャンドラーの正統なる後継者と先に述べたが、その文章はチャンドラーの諸作に見られるような大仰な比喩が頻出するわけでもなく、きざったらしい台詞が出てくるわけでもなく、派手派手しいわけではない。
しかし、この本にはノートに書き写しておきたい美文に溢れている。
真似したい減らず口がある。
かつてチャンドラーを読んでいた時に駆られた、「私もこんな文章で物語が書きたい」と思わせる雰囲気がある。
日常特に感慨もなく見ている風景が語る人によってこれほど印象深く描写されるのか、そう気づかされる事しばしばだった。
そしてやはり古典は読むべきである。
名作ならば尚更だ。
この沢崎シリーズを十二分に楽しむためにもやはりチャンドラーの諸作、少なくとも全ての長編には当たるべきだろう。そしてそうした私は正解だったと今更ながらに気付かされた。
今夜の酒はきっと美味いに違いない。
Posted by ブクログ
まわりくどすぎるセリフと淡々とした文体が好きすぎる。自分はハードボイルドが好きなんだなって実感できた作品。
何重にもわたる謎の究明シーン、からの終章のなんともいえない虚無感と後味の悪さがたまらない。もっと読みたい気分にさせてくれる。
Posted by ブクログ
読み応え十分の本格派ハードボイルド小説だ!探偵が主人公で、行方不明のルポライターを捜すことがストーリーの軸となる。正体不明の男性、資産家、ルポライターの妻、さまざまな依頼者が登場して、始まりから困惑させてくれる。じっくりと読んだ。遠回りをしているように感じるが、少しずつ少しずつ、ストーリーは確かに進んでいく。それは、エンディングを楽しんでくれよと言わんばかりに、いろいろな仕掛けが散りばめられている。主人公の私立探偵・沢崎のセリフ回しや醸し出す雰囲気がアメリカン・ハードボイルドを思わせてくれる。両切りのタバコ、古びた愛車ブルーバード、事務所は西新宿、細かな描写に特徴が反映されている。エンディングは、東京都知事狙撃事件が大きく関わってくることになる。二重三重に絡み合ったストーリーが見事に完結する。ハードボイルドの余韻を感じて読み終えることができた。この私立探偵・沢崎の作品は、シリーズとなっているので続編も必ず読んでみたい。
Posted by ブクログ
読んだのは、これで3回目くらいだろうか?
こちらもだいぶ年を取り、主人公の年齢をはるかに追い越してしまった。
そのため、こうやって久々に読むと、青臭く感じるセリフもあるし、比喩や暗喩が大袈裟すぎると感じる部分もある。
しかし、これだけ練りに練られたプロット、多彩な登場人物、錯綜した人間関係、最後まで探偵の一人称で語られる展開は、まさに一級のハードボイルト作品。
この映像化作品を見てみたいものだが、この世界観を壊さずに映像化できる監督(白石監督?大友監督?)や俳優がいるだろうか?
Posted by ブクログ
何十年ぶりだろうか?急に再読したくなって、居ても立ってもいられなくなり購入しじっくり読んでみました。
昭和末の雰囲気、チャンドラーを彷彿とさせ、「渡辺探偵事務所」の「沢崎」などのこだわりが多彩、気取っているけど派手さが無いところ、全部が好きでした。
『遅筆』がキャッチフレーズのような原尞作品、全部読み直ししてみようと考えています。
Posted by ブクログ
とりあえず沢崎さんがかっこよかった。探偵なのに襲われたらすごい闘うし、犯人を確信した後の本人への詰め方が興奮する。最後、諏訪が撃った弾が「幸いなことにそれて人差し指を失った」こと、彼らはいつも肝心なことを見落とす。と言っているのもかっこいい
Posted by ブクログ
行方不明になったルポライターの調査に乗り出した私立探偵沢崎。事件はかつての都知事狙撃事件へと繋がっていく。歯切れのいい文章、洒落た会話、手に汗握るプロット。アメリカの本格ハードボイルドの翻訳を読むような、日本のハードボイルドではかなり質が高い正統派のデビュー作だ。これで十分なのだが、今後本家を超える作家の登場を期待させる記念碑的名作。
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さすがに原尞、処女作から読み応えあり。推敲を重ねただけあって文章は練れていて、いかにもハードボイルドという味わいが漂う。古い本なので、今となってはユーモアのセンスは古めかしいかなとは思う。でも、それでいい。主人公の探偵の沢崎、錦織警部、ヤクザの橋爪という常連になる登場人物の造形も実にいい。事件自体も二転三転として飽きさせない。うーん、佐伯名緒子の心理だけは、ちょっと分かりにくいかな。
Posted by ブクログ
探偵沢崎登場、伝説とも言えるシリーズの第1作である。しゃれた会話と意表を突くストーリーの大人のファンタジー。登場人物たちがやたらと煙草を喫うのが時代を感じる。しばし、ミステリーの世界に酔いしれる。
Posted by ブクログ
ネットで見かけて。
とくにハードボイルドが好きな訳ではないと思う。
暴力にも、カーチェイスにも、銃撃戦にも、ましてや美女にも
興味はない。
ただそれらを含んでいても含んでいなくても、
心魅かれるものがあるとすれば、
それは、多分、男の「強がり」なのだと思う。
「美学」とも「やせがまん」とか、
呼びたい人は呼べばいい。
誰にも、何にも囚われないおのれ一人の哲学だけで生き、
障害に対してそれを貫く強さ。
そういう意味では、
金も名も求めず自分の技だけを追求する「職人」に似ているのかもしれない。
謎解きも面白かったし、
どう見ても実在の政治家と俳優の兄弟をモデルとした登場人物は、
都知事となることを予言していて驚いた。
そして、
国鉄も、電話応答サービスも、喫煙者までもが懐かしい。
Posted by ブクログ
【密霧の先に】私立探偵として生計を立てる沢崎は、消えたルポライターの捜索依頼を受ける。佐伯と名乗るその男は、妻との離婚を目前に控えて忽然と姿を消してしまったのだが、沢崎は彼がある特ダネを追っていたことを知り......。著者は、本作で山本周五郎賞を受賞している原尞。
緻密なミステリーラインが魅力的なことはもちろんのこと、沢崎を中心に広がるこの世界観がたまらない作品。ジャンルに落とし込めばハードボイルドということになると思うのですが、この渋い小説世界にどっぷりと身を浸したくなる一冊でした。
〜彼らはいつも肝腎なことを見落とす。真実を伝えると言うが、所詮はその程度のことだった。〜
沢崎シリーズは全巻読むことになりそう☆5つ
Posted by ブクログ
久しぶりに読む手が止まらない小説に出会った。主人公の探偵沢崎は誉田哲也の小説の東刑事に似てるなと思っていた。正義のアウトローというようなイメージだがフィリップ・マーロウというモデルがいたんだと納得した。レイモンド・チャンドラーも今後読みたい
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面白かった。
日本のものはあまり読まないので、このミスで初めてこの作者を知る。続けてこのシリーズ読みたい。
車や煙草、音楽と時代を感じる。所長の使い方が上手い。依頼者の行動・感情が不可解だが‥
後書きが示唆に富む。すぐ「私が殺した少女」買おう。
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いやぁハードボイルドだなぁ。
ブルーバードに両切りのタバコ、登場人物たちの会話から情景描写に至るまでとにかく皮肉の効いた描写が小気味良い作品でした。
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ハードボイルド系推理小説というジャンルの面白さに気付かせてくれた作品。事件の展開が二転三転する中で、あくまでクールに事件を解決に導く主人公・沢崎の推理に引き込まれてしまった。
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★3.5だけどおまけで。
続編が多分直木賞だと思いますが、この処女作の方が何となく良い。
こなれているという意味では断然次作なんですが、何と申しましょうか、こういう世界を描きたいんだという熱を感じます。正直に言えば、推理の仕立てとしては緻密とは言えないと思います。でもそれを補って余りある作家の気合いがこの作品の魅力かと。
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追悼。なので☆はプラス1つ。デビュー作にしてこの品質。さすがです。それにしても、執筆が予定されていた次回作、読みたかったな~。本作や、オールタイムベスト入りの”~少女”より、最新作が一番素晴らしく思えただけに、その続編たる新作が読めないのはいかにも残念。ご冥福をお祈りいたします。
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ハードボイルドだ。レイモンド・チャンドラーの描く主人公フィリップ・マーロウのような探偵 沢崎が主人公。緻密な描写と粋なセリフで物語をぐんぐん引っ張っていく。文体に慣れるまでは読みづらいけれど慣れると快感に変わる。面白かった。
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正統派ハードボイルド作品。都内で探偵業を営む「私」こと沢崎が資産家の娘の夫を探す事件から大きな陰謀に巻き込まれていく。プロットとしてはこの手の作品にありがちな展開。しかしながら沢崎の減らず口と数多な登場人物たちを使い切る手立てが上手い。なおかつ緩和した部分というか作品に遊びが無いため緊張した場面がずっと続く。普通なら読んでいるうちに疲れてくるが、沢崎が軽妙に語るためにしんどさが現れてこない。終盤が駆け足すぎるのがもったいないのと風呂敷を広げすぎているように思える点が気になるが、完成度はピカ一の傑作。もうめちゃくちゃ面白い。
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かなり昔だけど、実は一度読んだことがあって忘れていただけ?・・と思わせるようなテイスト。実は初読。お約束のような道具立てと気の利いた状況要約。
ベアノ曲線のように、細かい細かいピースを、探偵の目線動線でくねくねと辿っていくうちに、一枚の絵が浮かんでくるような読書体験。
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"昭和の探偵小説。物語の真相は読み返して確認したくなるほど込み入っている。
酒とタバコと自分で決めたルールは曲げないこだわりと粋なセリフで構築された物語は最後まで読者を飽きさせない。"
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あまりに、チャンドラーのエピゴーネンで、その潔さが却って清々しい位。
一人称の視点・短い文章・気の利いた(風に見える)科白回し等々。
「私が殺した少女」をかなり前に読んだから詳細を忘れていたが、ああそうなんだったなと思い出した。
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初めてのハードボイルドの推理小説。主人公のセリフや行動がまさにそういうことかと感じることのできる作品でした。昭和の終わりという時代描写も懐かしく思えて、楽しく読めました。
Posted by ブクログ
私立探偵沢崎シリーズ第一作。ハードボイルドの名作。
探偵沢崎は、両切のピースのタバコを吸い、車はブルーバードに乗っている。
新宿にある3階建モルタル塗りの雑居ビル、東京オリンピックの年に建てられだという、そのビルには、はげかかったペンキで渡辺探偵事務所と書かれてあり、そこに沢崎はいる。
Posted by ブクログ
探偵 沢崎シリーズ 第一弾。
沢崎の探偵事務所に一人の男がやって来て「佐伯を探してくれ、ここへやって来たはずだ」と言うのだが沢崎には何のことか分からないところから始まる。
その後別の佐伯の妻からも同じ依頼を受けることとなり佐伯を探し始める。
王道を行く探偵小説で物語の本筋から外れた枝葉も面白いのだが、ストーリーが複雑な上登場人物が多くページを戻ることが多く その点が楽しめなかった。
Posted by ブクログ
ストーリーの複雑さ、情報量の多さで思いの外疲れる。ハードボイルド作家のミステリー色濃厚なデビュー作。それにしても誰も彼もがヘビースモーカーで、それが普通…そんな時代もあったねと、懐かしく思った次第。
Posted by ブクログ
うーん、チャンドラー。東京が舞台というところがリアルと言えばリアル、その分泥臭いと言えば泥臭い。前半にくらべて後半は謎解きに終止していてダンディズムが今ひとつという気がした。
Posted by ブクログ
1988年刊行なのに不思議と古さは感じなかった。チャンドラーを通っていない自分には新鮮でもあったし、全編探偵視点なのは複数視点挿入の作品より物語そのものに集中できるので好みだ。携帯もITもない時代、ひとつひとつの可能性を根気よく潰していく調査は地味だが実直で、沢崎×錦織の凸凹コンビの合同捜査も王道の胸踊る展開。黒幕のモデルが丸分かりなのはご愛嬌か。登場人物が多いので、事件の真相が解き明かされる終盤の展開には頭がこんがらがりそうになった。しかし、高田馬場BIGBOX、1Fの古本市はそんな前からあるのか…。