あらすじ
1959(昭和34)年より、東京西郊の団地にある賃貸の2DKに住まう文芸評論家は子ももうけることも家を所有することも欲することなく、親族との関係も絶ち、石塊の声に耳を傾けながらひたすら人間の生の根柢を見つめつづけてきた。
声高に語られる正義の言葉に疑問を呈し、その虚偽を拒む思考とはどのようなものか?
1974(昭和49)年から1987(昭和62)年という、オイルショック直後からバブル景気の時期に時代と社会の定点観測のように文芸雑誌や書評紙に書かれた文章を読む者は、その言葉が呟きのようでありながら独自性と粘りに満ちていることに気付かされる。
その深くえぐるような強度は、21世紀の現代においてむしろ重要性が増しているように感じられるものなのである。
混迷する世界にかろうじて生きる我々にこそ響くエッセイ集、初の文庫化。
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Posted by ブクログ
団地ぐらしをし、いま家を買おうか迷っている私には大変面白かった
狭いところから寛大なものをみるとただしく認識できないように、この人は多く誤解されて生きてきたのかもしれないとおもった
Posted by ブクログ
私が読んだのは小沢書店のもので、ある編集者に向けた献呈された本で、著者のサインが入っている。
1930年生誕、2013年没。戦中の体験によって生き方が規定されたような方で、59年からずっと団地住まいをされていたそうだ。
私も団地出身で、20年以上住んでいたので親近感をもって読んだ。
この本では75年から85年までの評論・エッセイが収められている。
随分昔のように感じるかもしれないが、持ち家は持つべきかだの、週刊誌のセンセーショナルな報道がどうだなど、今と全く変わらない気持ちで読める。
「惨めな生の意識を持つことが必要だ」という一節があるが、分断が進む今だからこそ響くものがある。
彼の他の著作も読んでみようと思った。